第23話 護衛たちとチョリと知り合う

「僕たち護衛は担当するタレントさんを受け持って、迷宮内に一緒に入る感じとなる。迷宮内では一パーティ六人までだけど、三パーティまでレイドを組めるから、十八人までは一緒に行ける」

「結構大人数で動けるんですな」


 俺は今、事務所の山下さんの机の所で基本的な護衛の仕事の話を聞いている。

 Dアイドルは毎日迷宮に潜るわけではないので、だいたい三パーティぐらいを一人の護衛が受け持つらしい。

 今の俺は、『サザンフルーツ』と勇者ケインさんだな。


「ケインさんのパーティは無いんですか?」

「無いなあ、彼のパーティは護衛が五人になる」


 そうか、編成によって護衛の数も変わるんだね。


「ただ、彼はDアイドル全盛期に養殖でレベルを上げてしまったので、レベルアップに必要な経験値が稼げるのが四十階から下になっていて大変なんだ」

「そうですか……」


 難儀だね、ケインさん。


「今の所、『サザンフルーツ』とヒデオさんと一緒に一階ずつ潜って行く感じになるね」

「了解しました」


 ケインさんは凄いレアの剣を持っているんだから、真面目に修行して【剣術】スキルを生やせばいいのにねえ。


「別の護衛さんとパーティを組むこともあるだろう、下の階がジムになっていて護衛はそこで待機したり、練習したりしている、今から行って紹介しよう」

「そうですか、おねがいします」


 山下さんが立ち上がったので、俺は後ろを付いて歩いた。

 エレベーター脇の階段を下りて下のジムへと入った。


 おお、運動器具とか並んでいて良い雰囲気だなあ。

 マッチョな男女が汗を流している。

 みんな厳つくて強そうだね。

 リーディングプロモーションの護衛さんたちなのだろうなあ。


「ああ、ミカリ、この人ヒデオさん、新しく入った護衛」

「うす、配信見ました、透明ゴリラすごいですね」


 ミカリさんは筋肉質の女の人で見上げるぐらいでかい人だった。


「よ、よろしくおねがいします、ヒデオです」

「ミカリだよ」


 おお、でっかい手で握手されると痛い感じだ。

 重戦士系の人かな。


「私も『サザンフルーツ』を担当してるから、一緒に潜る事も多そうだね、職業ジョブは『重戦士ヘビーウォリアー』だよ」

「トレインの時は都合が合わなかったから、俺と野末さんで護衛したんだよ、あ、野末、ヒデオさんだ」

「あ、ちわっす、ヒデオさん、あの時はありがとう、命が繋がったよ」

「生きかえったのは悪影響とか無いんですか、もう、仕事再開できるの?」

「生きかえったらだいたい元通りだよ、次の日からでも復帰出来るけど、ちょっとお休みを貰って鋭気を養ったのよ」


 そうか、野末さんはこんな感じに喋る人だったか。

 ゴリ次郎に運ばれてる姿しか見て無かったからね。


「ヒデオさん、透明ゴリラは今もいるんですか?」

「いますよ、ミカリさん」


 俺はゴリ太郎とゴリ次郎の元に歩いて奴らの腰をポンポンと叩いた。


「「「おおおお」」」


 三人から歓声が上がった。


「本当にまったく見えないんですねえ」

「これは凄い、トレインを二匹で捌いてしまうだけはあるね」

「ヒデオさんと冒険に出るのが楽しみですよ」


 小柄な女の人が隅のベンチから立ち上がってこちらに来た。


「へー、へー、確かに気配はするけど、気配しかしないね、こりゃあ凄いスキルだなあ」

「立花、ヒデオさんだ」

「こんちは立花ムラサキってえ『盗賊シーフ』だよ。よろしくなあ」

「ムラサキさん、よろしくー」


 ムラサキさんは顔の右半分に引きつれたような傷があって髪の毛で隠していた。


「元アイドルなんだけど、迷宮で魔物に全滅させられてさ、んで『盗賊シーフ』に転職したんだー。夢は『エリクサー』を手に入れて史上初の『盗賊シーフ』アイドルになることだな、ケケケッ」

「それは偉い夢ですねえ、うんうん」

「うひひ、真に受けんなよ、『エリクサー』を手に入れる頃にはアイドルできねえ歳だろうさ」

「それでも目標があるのは良いじゃないですか」

「ヒヒヒ、変な奴だな」


 そう言ってムラサキさんは苦笑した。


「みなさんは冒険者のクラスはどれくらいなんですか?」

「私はC級だよ、三十階のミノタウロス超え」


 ミカリさんはC級らしい。


「あたいもC級だな、というか、リーディングプロモーションの護衛冒険者はだいたいC級から上だぜ」


 ムラサキさんもC級か。


「ヒデオみたいに迷宮に入ってすぐ護衛として雇われる事の方がめずらしいよ。俺はB級、山下さんがA級だな」


 野末さんがB級か、なるほどなあ。


 ダダダと誰かが階段を駆け下りてきた。

 おっと、なんだか綺麗な感じの子だな。

 Dアイドルっぽいかな。


「あなたが透明ゴリラ使いのヒデオね!! よろしく、私が北村チヨリよ、チョリって呼んでも構わないわっ」

「こんにちは、チョリさん、丸出英雄です」


 なんだか、元気な子だなあ。


「さっそくだけど、明日、ムカデ部屋攻略に行くわよ!」

「おお、行きますか、チヨリさん」

「行くのよ、山下さん!」

「『サザンフルーツ』とケインさんも居るから、アイドルは五人ですね。護衛はヒデオさんと、ミカリさんかい?」

「いや、私はムカデだとあんまり、『魔術師ウイザード』と、ムラサキかな」

「ムカデかあ」

「『吟遊詩人バード』が二人、で、チョリさんはコモンソングを全部覚えていると」

「おお、それは優秀ですね」

「『吟遊詩人バード』が出たての頃だったから呪歌の在庫が沢山あったのよ」

「ケインは役にたたないわね、ミキちゃんは新しい呪歌つかえるかしら」

「【思い出酒】は精神系だから、ムカデはどうでしょうかねえ」

「ムカデに【罵倒】が効くから効くかもしれないわよ」


 ほえー、【罵倒】効くんだ。

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