第13話 再びフロアボスアタックへ

 ビンバッチョロピピロン!!

 ビンバッチョロピピロン!!


 ぬおおお、変な着信音で目覚めたぜ。

 今日の気分は最悪だね。


「はい、丸出です……」

「おはようございます、ヒデオさん」


 今日もミキちゃんがモーニングコールをしてくれた。

 ありがたいねえ。


「いつもありがとう、出社するよ」

「おまちしていますね」


 プツンとスマホを切る。

 着信音を変えたいのだけど、良くわからないな。

 最高級機種だから、ゲームとか色々出来るらしいんだけど、おじさんにとっては猫に小判だね。

 Dモッターもやって無いしなあ。


 流しで顔を洗って歯を磨く。


「おはよう、ゴリ太郎、ゴリ二郎」

『うほうほ』

『うほうほ』


 ゴリラズもいつものように上機嫌のようだね。

 パジャマから普段着に着替えて、装備を着ける。

 なにげに重いね。

 でも胸あてを着けるとしゃっきりするね。


 アパートを出て、市役所の裏、リーディングプロモーションの川崎支社に入る。

 エレベーターから降りて社内に入る。

 今日はカスミちゃんに止められなかったね。


「ヒデオ! おはようっ」

「おはよう、ヒカリちゃん、ミキちゃん、ヤヤちゃん」

「おはようございます」

「おはようございます、今日はよろしくお願いしますね」


 お、山下さんも来たぞ。


「おはよう、ヒデオさん」

「おはようございます、山下さん」

「今日こそ、フロアボスを突破しようね」

「「「はいっ!」」」

「野末さんは来ないんですか?」

「前衛は、ヒデオさんとゴリラくんたちと、俺だね」

「フロアボスに勝てますか?」

「ヒデオさんはソロでも行けそうだよ。『サザンフルーツ』が居れば問題は無いだろう」

「山下さんはフロアボス倒してますよね」

「そう、だから、ボスアタックまで一緒だけど、最後はフィールドの外に居るよ」

「あの日はどうするつもりだったんですか」

「あの日は、勇者ケインが来るはずだったけど、スケジュールが合わなくてね、偵察で十階まで行くつもりだったんだよ」


 そうだったのか。


「今日は来てますよ。初めまして、『サザンフルーツ』のみなさん、ヒデオさん、僕が勇者ケインです」

「わ、ケインさん」

「ケインさん、十階まだだったんですか?」

「そうとも、これでも僕は、Lv.40だからね、頼って大丈夫だよ、ハハハ」


 勇者ケインさんはイケメンで格好いいね。


「勇者って職業ジョブ?」

「いや自称よ、実際の職業ジョブは『軽戦士ライトウォリアー』よ」


 レアっぽい大剣もしょっているし、なかなか使えそうな人だね。


「それでは、みんなで迷宮に行きましょう」

「うん、その前に、ヒデオさん……、言いたく無いんだけど、仮にもアイドルパーティの護衛なんだから、もうちょっと何とかならないかな」

「いやあ、申し訳ないねえ」

「ヒデオはこれで良いのよ」

「何をやってもお笑いの人みたいになるので、その」

「これが一番、らしいんですよ、ケインさん」


 ケインさんはくるりと回って格好いいポーズを取った。


「でも、華麗な僕のパーティに彼のような冴えないメンバーは欲しく無いねえ」

「……、じゃあ、あなたがやめなさいよ、ケインさん」

「あ、ヒカリちゃん」

「ヒデオは山下さんより頼りになるんですからねっ」

「君い、僕は先輩だよ、先輩のいう事が聞けないのかい?」

「ヒデオと一緒じゃないと嫌です」

「お言葉ですが、ケインさん、私もヒデオさんじゃないと」

「そうですそうです」


 勇者ケインは俺の方を目をすがめて見た。


「こんな冴えない中年がねえ、まあ良いか、あまり前に出ないでくれたまえよ」

「わかりましたよ、ケインさん」


 こらこら、睨まないの、ヒカリちゃん。


 皆で歩いて駅前へと行く。

 陸橋を渡って商業施設へと入る。


「あら、『サザンフルーツ』よ」

「勇者ケインも居るわ、素敵ねっ」

「お、ヒデオだ」


 やや、Dチューバーの追っかけの中で俺を認識してくれた人がいるね。

 配信冒険者っぽい若い男の人だな。


 地獄門をくぐると迷宮ロビーだね。

 ちょっと硫黄臭い匂いがして、外界より一度ぐらい気温が低い感じ。


「ああ、ヒデオくん、我々はここで待っているから、お弁当を買ってきたまえよ」

「ケインさん、ヒデオさんは付き人では無いんですよ」

「ええ? なんで庇うの山下さん、こいつは低レベルなんでしょ?」

「滅茶苦茶強いですよ」

「あはは、そうは見えないなあ」

「じゃあ、買ってきますよ、何が良いかな」

「ヒデオがそんな事する事ないよ」

「まあまあ、こういうのは新入りがやる仕事だからね。シウマイ弁当で良いかな」

「僕は特製弁当を買ってきてくれたまえ」

「解りました、山下さんは?」

「先に買ってくれば良かったね、とりあえず、お金を」


 山下さんが、ウインクして万札をくれた。

 こんなにはいらんて。

 お茶とかも買っておくかな。


 俺は地獄門を出て、商業施設の一階に降りた。

 崎陽軒のスタンドで、お弁当を買い込んだ。

 まあ、ケインさん以外はシウマイ弁当で良いね。

 人数分のお弁当をリュックに入れて背負った。

 小走りで戻った。


 ロビーの応接セットで勇者ケインさんは王者のように『サザンフルーツ』と話していた。

 やっぱイケメンだから絵になるね。


「ヒデオ、ご苦労、じゃあ行くか。ポータルで逆走しては駄目なのかい、山下さん」

「ポータル転移が出来るのが私しか居ませんからね」

「わざわざ十階分降りるのは面倒だね、半グレたちもいるし」

「そのための、私とヒデオさんですよ」

「ヒデオはそんなに強いのかね? 典型的な駄目親父っぽいけど」

「ケインさん、ヒデオを悪く言わないでっ」

「ヒカリちゃん、良いから」

「だってぇ」

「オヤジのくせに、アイドルをたらしこむとか、素行が悪いねえ、あとで社長に言っちゃうぞ」

「ケインさん、早く潜りましょう」

「あ、ごめんごめん、ミキちゃん、そうだね」


 うーん、ケインさんはなかなかの難物っぽいね。

 仲良くなれるかなあ。

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