第2話 お互い自己紹介しながら階をあがる

「パチスロでお金無くなったから迷宮に来たの?」


 ショートカットの子が汚いものを見る目で俺を見て言った。


「いやあ、迷宮で儲かるって聞いたから、今日の晩飯代と一杯飲むお金が入ったらいいなって思って」

「……、超能力持ってるのに何してんの?」

「いやあ、おじさんの超能力、パチスロには使えないんだよ」

「え? いや、その、何かに使えるんじゃないの?」

「だめだめ、この能力は秘密にしておくようにってお爺ちゃんに言われててね、君らも内緒にしてね」


 カワイ子ちゃんたちは顔を見あわせた。


 今はゴリラたちに護衛さんの死体と出たものを持たせて迷宮を上がっている所ね。


「えと、秘密なの?」

「そうそう、なんだか未来まで持って行くためにあまり派手に使っちゃ駄目だぞって、お爺ちゃんに言われたんだ。まあ、戦争で生き残るためにお爺ちゃんも、ちょっと使ったみたいだけどね」

「あの、ヒデオさん、今、現在も私たちは動画で配信されてるんですけど」


 黄色い服を着てギターっぽい楽器を背負った子が言った。


「ああ、大丈夫大丈夫、こんなおじさんの動画とか、だれも見て無いよ」


 ショートカットの子が頭をバリバリと搔いた。

 どうしたの?


「ヒデオさん、この迷宮の事ぜんぜん解って無い」

「私たちの事も解ってない」

「ちょっとショックですう」


 ショートカットの子が手首に付けたコメントのやつを見せてくれた。

 ああ、わかってる、五、六人ぐらいは見てるって言うんでしょう、大丈夫大丈夫。


『ヒデオ~~、おまえ~~、この画面の横の数字を読め~~』

「五千六百七十二、あっ、五になったね、これなに?」

『同接視聴者数、この動画は今、全世界に五千人が同時に見ている』

「えっ!!! ヤバイじゃん!!」

『しかも、迷宮入って、カメラピクシーが付いた時点からの動画はライブラリで見れる。丸出英雄、三十八才、職業は湾岸倉庫での日雇い荷運び、超能力は二匹の透明ゴリラの使役』

「えええええっ!! どうして、どうしてそこまでわかるのっ!! や、ヤバイじゃんっ!!」

『なぜって、さんざん声でゴリ太郎とゴリ次郎に命令だしてたじゃんか』


 俺はショックでへなへなと崩れ落ちた。

 絶対の秘密だって爺ちゃんに言われてたのに。

 こ、こんな能力があるって人に知れたら、もう荷運びとか雇って貰えないじゃんかっ。


「透明ゴリラさんなんだ」

「なんだかすごーい、あ、触れる、ふさふさっ」

「あ、そこに触ったらいけない、センシティブな……」


 俺の言葉に、黄色い子がさっと手を引っ込めた。

 ゴリ太郎、うほっという顔をするなよ。


「超能力者って居るんだねえ、初めて見たよ」

「ああ、いかーん、明日から荷運び雇って貰えなくなる~~」

「迷宮で働いたら良いと思いますよ」

「え、稼げんの?」

「たぶん、これだけの魔石とかを売れば結構なお金になると思います」

「ど、どれくらい?」

「三万円ぐらい? かな」

「スペルのスクロールもあるからもうちょっと行かない?」

「そ、そんなに貰えるのっ!!」

「というか、深い所に行けばもっと稼げるけど、というか、ヒデオって、古代からタイムスリップしてきたの?」

「え、そんな能力はないよ」

「なんで、迷宮の事を、こんなに知らないのさ、テレビとかニュースとかでやってるでしょ」

「テレビ無いし、ニュースも見てないなあ。職場にDチューバーはいるけど、すぐ居なくなるしさ。あとねえ、おじさん、友達がいないんだ」


 カワイ子ちゃん三人組が一斉に表情を曇らせた。


「すごい、駄目人間だわ」

「だ、駄目だけど、逸材の超能力者だわ」

「迷宮で凄く稼げるよね、この能力」


 そうか、迷宮で稼げるのか、それは良いなあ。

 アパートの家賃と三食のご飯と晩酌の一杯と、あとパチスロが出来れば俺は文句はないなあ。

 一日三万円稼げるなら、それも可能かもなあ。

 え、月給にすると九十万? そ、そんな馬鹿な。

 あれ、もう荷運びに行かなくても良いのか?


「あ、そうだ、ヒデオに自己紹介をしないと、私は『サザンフルーツ』の『射手アーチャー』のヒカリだよ、よろしくねっ」


 ショートカットの子はヒカリちゃんって言うのか、活発で気が強そうだ。


「私は、『吟遊詩人バード』のミキだよっ、ヒデオさんよろしくねっ」


 バード、鳥なのかな、たしかにひらひらしているな。


「私は、『サザンフルーツ』の『僧侶プーリスト』のヤヤです、よろしくねっ」


 白い服を着ておっとりした感じの子がヤヤちゃんね、よし、おじさん覚えたぞ。


「俺は半グレの石松っていうもんだ」

「だ、だれっ、君っ!!」


 人相の悪い若い奴が五人、ニヤニヤしながら曲がり角から現れた。

 わざわざ自己紹介に混ざらなくてもいいじゃん。

 石松って奴は石松の名にふさわしく、片目に眼帯をしているよ。


「なんでトレインに巻き込んだ『サザンフルーツ』が生きてんだよ、死んでろや、ああっ?」

「あなたたちがトレインを仕掛けたのねっ!! どうしてなのっ!!」

「ああ、気にすんな、お前らはこれから俺たちに殺されるんだからよお」

「へへっ、殺す前にたっぷり楽しみましょうよ、兄貴」

「ああ、そうだなっ、へへへっ」


 なんか、こいつら、絵に描いたように悪いなあ。

 川崎の港湾にも結構こういう奴らがいて迷惑なんだよなあ。


 ところで、トレインって何?

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