まるで英雄 ~DダンジョンでピンチのDアイドルを救ってバズッた俺の異能力は二匹の見えないゴリラだ!~

川獺右端

第1話 カワイ子ちゃんたちのピンチを救う俺のゴリラたち

 迷宮の九階まで降りてきたら、ドドンと地響きが聞こえて来た。

 あと、悲鳴となんか吠える声。

 なんだろうかね。


 俺はゴリラたちを前に歩かせて進む。

 さすがに五階までの不思議空間とちがって六階からは洞窟内で薄暗いなあ。


「ランタンとか必要なのかなあ。どうなの?」


 頭の上をふらふらと飛んでいるカメラを持った美少女妖精に聞いて見たが見事に無視されたよ。

 ショートカットでビキニでちっこくて可愛いのに愛想が無いねえ。

 この人が動画を撮って、何かして、世界中に配信しているらしい。

 まあ、俺はパソコンどころかスマホも無いので解らないんだけどね。


「音は右からだな、ゴリ太郎そっちに行ってくれ」

『うごうご』


 ゴリ太郎は先頭、ゴリ次郎は後ろに配置させて歩いている。

 なんだか九階にきたのに魔物が居ないなあ。

 困るなあ、おじさんは魔石とかいう物が欲しいんだよ。

 これまでに結構拾ったけど、幾らぐらいになるか解らないし、外に出たら一杯やりたいからなあ、合計で三千円ぐらいは儲かって欲しいのだけれども。


 んで、角を曲がるとちょっとした広間で修羅場だった。


 もの凄い数の魔物の群れを男性二人の配信冒険者が路地で食い止め、少女が三人、後方で支援している。

 あ、一人が豚人間の斧で倒されて死んだっ。

 魔物が雪崩を打って広間に入ってきた。


 派手な格好をした少女がこちらを見つけた。


「逃げてくださいっ!! トレインですっ!!」


 トレイン、というのは、ええと、電車だろうか。

 なんか迷宮の専門用語かな。


「ミキ!! もう持たないっ!! 私たちもっ」

「逃げるんだっ!! ここは俺がっ!!」

「山下さんっ!!」


 山下さんと呼ばれたゴツイおっちゃん冒険者さんが魔物の群れに飲み込まれた。

 うわー、何匹いるのだろうか。

 迫力があるなあ。


 派手な格好をした女の子が三人、こちらへ駆けてくる。

 いずれ劣らぬカワイ子ちゃんである。


「おじさんっ、早く逃げてっ!! あれは食い止められないっ!!」

「階段へ、階段下の安全地帯まで逃げるのっ!!」

「おじさんっ!! 早くっ!!」

「でも、あれらを倒すと魔石とか出るんでしょ?」

「「「無理っ!!」」」


 そうでも無いよね。

 オバケたちは数が沢山なだけだしさ。


『『ウゴウゴ』』


 俺は思念でゴリ太郎とゴリ次郎を動かした。

 この透明ゴリラたちは俺にしか見えないし、声も聞こえないんだ。

 でも、実体があって、とても強い。


 ゴリ太郎が緑色の小人を三匹、一挙動で粉砕した。

 ゴリ次郎が豚の魔物を握り、ねじり潰す。

 透明なゴリラは暴れまくるのだ。


「えっ、えっ? 何が起こってるの?」

「お、おじさんがやっているの?」

「ま、魔法?」

「ああ、いや、そのおじさん、ちょっと超能力を持っていてね」

「「「超能力?」」」


 女の子の手首に時計のような物が巻かれていて、そこの上が投影スクリーンみたいなって言葉が流れてくる。

 なんだろう、これは?

 なんかハイテクだなあ。

 コメント?


『な、なんだなんだっ、魔物がねじ切られたり、潰されたりしてるっ?』

『この寝癖モブオヤジの力だとでも言うのかっ!!』

『なんだ、この寝癖弱者っぽいおじさん、え、登録日時、二時間前? 丸手英雄まるでひでお?』


 え、なんで俺の名前を知ってるんだろ、この人たちは。

 気味が悪いよ。


『超能力とか言ったっ!! サイコキネシスか?』

『PKか? 非常識がまかり通る川崎大魔王迷宮とは言えあんまり過ぎるだろうっ!!』

『ぎゃあ、アーカイブ開いたら、ヒデオはまるっきりの迷宮素人だーっ!!』


 まあ、念力じゃなくて、透明ゴリラなんだけどさ。


『ウゴッホウゴッホ!!』


 ゴリ太郎はひさびさの実戦だからから、すごく喜んでいる。

 豚人間を叩き潰し、踏み潰し、殴り殺す。


『ウゴウゴウゴ』


 ゴリ次郎はいつものように機械のようにクールに戦っている。

 緑色の小人を殴り殺し、ひねり殺している。


「な、何が起こっているの?」

「この寝癖の小太りおじさんの力なの?」

「わ、私たち助かるの?」

「大丈夫だよ、おじさんにまかせておいてよ」

「あ、はい……」


 気の強そうなショートカットの子が口ごもった、うんうん、こんな冴えないおじさんとあまり話した事無いから困まっちゃうよね。

 おじさんも、こんな可愛い子たちと話した事はぜんぜん無いから困っちゃているよ。

 でも、絶対に助けてあげるからね。


 大量の魔物であったが、順番に透明ゴリラたちにすり潰されて最後の豚人間さんが死んだ。

 ゴリラさんたち、ありがとう。


 洞窟に静けさが戻って来た。

 魔物達がつぎつぎに粒子に変わって魔石になっていく。

 これを一階に持って行って売ればお金になるんだよね。

 なんか、たまにレトルトカレーの箱とか、ハムとか出てくるんだけど、ちょっと怖いので捨てている。


『ああ、ゴブリンカレー捨てんなっ、ヒデオ』

『ハムも美味いぞ、ヒデオ』

「え、そうなの、食べられる物なの?」

『箱の裏を見てみろ』


 ゴブリンから出たカレーの箱の後ろを見た。

 お、日本製、三重県の工場で作ってるのか。

 これは食べられるのか。

 捨てて損したなあ、持って帰って家で食べよう。

 そうしよう。


「ありがとう、ええと、スクリーンの向こうに人はいるの?」

『パソコンの前だ』

『俺は札幌から~~』

『『サザンフルーツ』を助けてくれてありがとうな、ヒデオ』

「ああ、いえいえ、なんでもないよ」


 『サザンフルーツ』というのはこの三人のカワイ子ちゃんグループの名前かな。

 三人とも、ほっとしたのか、床に座り込んで、しゃくり上げたり、目を伏せたり、歯ぎしりしていたりした。


「たいへんだったね、もう大丈夫だからね」

「あなたは何なんですかっ! どうして素人なのにトレインを全滅させられるんですかっ!!」


 ショートカットの気の強そうな子が俺に詰め寄ってきた。


「お、おじさんは英雄、丸手英雄というんだよ、今日、Dチューバーを始めたんだ、お金が無くってね」

「ヒデオさんっ、あの力はなんなんですかっ!」

「い、いやあれはね」


 紫色の霧がやってきて、俺と女の子たちの胸に吸い込まれた。


 うおお、また体が膨れ上がるような感じだ。

 なんだろうこれは。


「あ、レベルアップしたわ」

「ああ、山下さんと、野末さんが……」

「うわーん、うわーん」


 彼女たちの護衛らしい男性の死骸だけが残っていた。

 魔石と、カレーとハムと、なんか装備品とか、巻物とかが散らばっているな。

 とりあえず、もったい無いから魔石とカレーとハムとか拾おう。

 装備品も俺に合う奴はあるかな。

 ナイフとか出たな。

 あと、陣笠とか。

 ああ、装備も売れば結構儲かるかな。

 鞄が無いから持ちきれないなあ、ポケットも一杯だよ。

 陣笠をかぶって、胸宛てみたいのも付けよう。


「ヒ、ヒデオさん、あの」

「ん、なんだい?」

「や、山下さんと、野末さんの死体を、その、一階まで、あの」

「え、持って帰るの? ええ?」


 えー、持ちきれないというか、うーん。

 しょうがない、ゴリ太郎、ゴリ次郎、持っておくれ。


『『ウゴウゴ』』


 ゴリラたちが山下さんと野末さんの死体を持ち上げた。


「え? ええっ?」

「超能力?」

「ま、まあそんなところ」


 ああそうだ、ゴリ太郎とゴリ次郎にも荷物を持ってもらおうっと。

 一杯出たから困るね。

 ああ、品物が細かいからゴリラたちの手からポロポロこぼれ落ちるよ。


「え? なんだか、人型?」

「大きい?」


 さて、丁度良いから一階まで上がって換金しよう。

 一万円ぐらいお金が入れば、一杯飲んでご飯を食べれるからいいんだけどなあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る