あの森の先で

戸森

全部の嘘を解いて

人生が楽しいなんて嘘だ。

大川麻美は顔をくしゃくしゃにしながら、そう悟った。

滲んだ視界から見える川の反射は、うざったいぐらいだった。


はやく、死にたい。

もう、何度そう思ったことか分からない。

そして、もうすべて何もわからない。人生は行動がすべてだと、学校に来た偉い先生がそう言っていた。何もかもが怖くて動けない私なんて、その先生からみれば、

愚かで意味のない人形くらいにしか、映らないんだろう。

分かってる、わかっているけど、でもそうしたらどうして、

私は生まれてきたんだろう。

生まれてこなければよかったのに。


ああ、本当にどうしたらいいんだろう。

麻美は宮崎県に住む、定時制高校に通う四年生だ。

今年卒業生になったが、不登校の中学時代から何の変化もない自分に頭の底から怒りが沸いていた。


苦しくて、イライラする。唯一のストレス発散はネット動画をただ見続ける事。

ただ、逃げるだけの行為。臆病で行動しないくせに、ただ逃げ続けてる。


何もしたくないのに、食欲はある。

こんなの、漫画やアニメでよく分かりやすいネタにされる「ニート」みたいなものだ。真っ暗い部屋に液晶画面だけが青白く光って、ポテチの袋が部屋に汚らしく散乱している。


女子なのに。女子だから、最悪だ。

オシャレも楽しめない。人も怖い。もう、何もできない。


落ち込んでいるだけじゃない所が、私の救いがたいところだ。

動画を見ることは、ちゃっかり楽しむんだ。一日過ぎても、二日過ぎても。


だけど、ネットの中には本当にすごい人しかいないんだ。

かわいいオタク、努力するお菓子作りが得意な女の子、勉強を頑張る同年代。

ユニークな奇才達。


あぁ、いいいなあ。羨ましいな。

どうして、私はそうじゃないの。どうして、、、。

ごめんなさい。


わかってるの。私がネット動画に費やしてる時間を、彼らは自分の事に費やしてる。

ただ、それだけの事。


わたしには、でも、どうしてもそれが出来ない。


どうしても、それが出来ない。


学校生活でも、今までもこれからもずっと怖い。


私の学校は不登校が多い。テレビでよく描かれているように、

「不登校で対人関係に不安があったけど、同じ境遇の人達が多いから、みんなと打ち解けた」なんていう、私にとっては夢物語。

 そんなの出来ない。


例えばここに、妖精が現れて!とか、突然別の世界に!とか、書いて動かない主人公を無理やり行動させれば物語は簡単に動いてくれるのだろうけど、

私はこの物語を現実の重苦しさを引きづったままにしたいんだ。


架空の話に触れすぎて、もう、疲れたんだ。

私はもう、現実を見たほうが良いのかもしれないからだ。


でも、現実って何を見ればいいの?


あぁ、分からない。

でもさ、一つ。人生は別に全然楽しくない。

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あの森の先で 戸森 @watashi_tensai_ikiru

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