第22話

 病室に入ると、俺に気が付いて、彼女の表情が明るくなった。気がした。それからお土産を渡すととても喜んでくれた。それからこの映画をものすごく楽しみにしていること。だからネタばれは聞きたくないこと。外出ができないから、動画配信を待っていることなど、色々と教えてくれた。

 話ははずみ、外はすっかり日が暮れていた。


「じゃぁ、そろそろ帰るわ」

「あぁ、ありがとな、また学校で」


 そういって病室を出ると携帯にメッセージが何件か届いている。

 まずい、親に連絡してなかった。そうだ、それじゃぁ、ここで試そうか。

 家の玄関、ドアノブだけじゃなく、ガラスの模様まで具体的に。いや待て。家のガラスってどんな模様してたっけか。それでいうとドアノブもそこまで具体的なイメージは出来ないぞ。

 仕方がない、時間もないんだ。覚えている限り具体的に思い出して。


「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」


 目を開くと家の目の前まで来ていた。よっし。ドアに手をかけようとするとどこか違和感がある。隣接する駐車場に目を向けると、知らない車が停まっている。

 向かいの家だ。慌てて方向を変え、わが家へと帰った。

 

 朝目が覚めると、時計が9時を回っている。完全に遅刻じゃないか。慌てて階段を降りると、家族が平然とテレビを見ている。


「何で起こしてくれないんだよ」

「あら、何か予定があったの?」

「予定も何も学校・・・は、今日休みか」


 再び自分の部屋に戻り、ベッドに横たわるがなかなか寝付けない。俺は体を起こして、時計を見つめる。休みの日にしては早く起きてしまったな。いつもは、気が済むまで寝ているのでもてあます。

 昨日の映画、面白かったな。もう一度見に行こうか。早速着替えて、玄関を出る。駅の商業施設をイメージして、


「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」 


 すると、同じ施設内にある本屋に着く。ちょっとイメージが甘かったのか。まぁ、いいや。ずっと成長してる。ついでだから本屋も見ていくか。辺りを見ると、新刊コーナーに目を奪われた。


(おっ、新刊が出てる)


 俺は、予定を変更し、新刊を購入し家で読むことにした。購入しようとレジに並んでいると途中でレジに入った店員に目を奪われた。。彼女だ。そうだ、ここでバイトしているんだ。

 幸か不幸か、対応してくれたのは彼女だった。恥ずかしくって目を合わせられず、遠くを見ているようにしていると「バイト募集 時給ー」のポスターが目に入った。


「あぁ、これ?今うち人足りてないんだよね。一緒に働く?」


そういって彼女は、冗談っぽく眩しい歯を覗かせた。

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