第15話

 体育祭も終わり、それまでと変わらない学校生活に戻った。彼は体育祭が終わっても話しかけてくれるし、クラスメイトとも話す機会が増えた。しかし、相変わらず彼女とは話すことすらできていない。

 今日も駅まで行き、改札を通る。それから人目のつかない場所へ行き、早口言葉を唱える。まだうまくコントロールできないのか、線路の上だったり、電車の中、途中駅の公園に移動したこともある。無理もない。体育祭までは走って電車に乗って登校していた。久しぶりだからまだ感覚も戻っていないのだろう。

 授業が終わり、トイレへと向かう。


「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」


 あっという間に駅のトイレにつく。よしよし、今回は上手くいった。改札を通り抜けてホームへと降り立つ。ベンチに腰を掛け、電車を待っていると聞き覚えのある声が聞こえる。


「おっす」


 彼だ。


「今日は何か元気ないな」

「そうか?」

「うん、そんな感じするわ」


 彼とは、去年は違うクラスだった。今年は同じクラスとはいえ、体育祭がきっかけで話すようになっただけだ。それが、こんなに心配してくれるとは。本当にいいやつだ。


「ありがとう。いつも優しいな」

「フフフ。いやそんなことないさ。ただ、そう見えただけだからさ」

「それがすごいんだよ。俺だったら見て見ぬふりだよ」


 笑って答えたが自分で言っててなんだかむなしい。2人の間に何とも言えない無言が少し続いて、たまらなく話しかけた。


「帰りはいつも一人なの?というか、部活入ってるんじゃなかったっけ?」

「いや、今日は病院に行かなくちゃってさ」


 まずい。触れにくい話題になった。ここは一回話題を切り替えて。


「そういえば兄弟いるんだっけ?」

「うん。妹!今は入院中なんだけど」


 こんなことありえるか?かえってドツボにはまってるじゃないか。しょうがない、諦めてこのまま進めよう。


「そ、そうなんだ。今日は、妹さんの為のお見舞い?」

「うん。なかなか良くならなくてさ。俺が行くことで少しでも気分転換になればと思ってさ」

「へぇ、よかったら俺も行っていい?」


何言ってんだ。唖然とされてるぞ、取り消さねば。


「いや、妹さんが重い病気では無ければ」


慌てて付け足した俺を見ながら、表情が明るくなって


「もちろん!あいつも喜ぶよ!」

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