さぁ、生まれたての異世界で【part1 超能力者の王】
倉村 観
第一話
気づいたらオレは、暗い湿った場所で、酷い頭痛の中で目を覚ました。
「ここは、どこなんだ?」
頭が痛い。
オレは……誰だ?
靄がかかったような脳を動かして、極めて朧げな、自分の頭をはっきりさせようとした。
「オレは、木雲胚蛾」
そう、それがオレの名前だ。
俺の名前は【木雲 胚蛾】。 今年の健康診断によると身長は165cm 体重は51キロ。 血液型はA
四日前に16歳になったばかりの高校生だ。
家族構成は一美という妹がいるだけで父と母は、それぞれ数年前に他界している。
学校での成績はそこそこで、友人もいない。
休み時間は大抵寝たフリをしてやり過ごしているし、昼飯も一人で食べている。
下校のチャイムが鳴れば、急いで
家に帰り、自室に籠もる。
そして、ゲームやアニメを嗜んだり、ネットサーフィンをして時間を潰す。
そんな毎日を送っていた。
穴蔵に籠り、息を潜めて天敵をやり過ごす兎のように、物音を立てず、目立たないような生き方を心がけていた。 というよりもそう強いられていたんだ。
何かを守るために、何かを隠すために、だがその肝心なものがどうにも思い出せない。
ここで俺は自分の記憶が、一部だけ不自然に欠けていることに気が付いた。
「うぐッ」
頭が割れるように痛い。酷い頭痛だ。
オレはあまりの痛さに思わずその場にうずくまった。
すると床から変に粘着質で、重みのある液体が染み出してきて、オレの足を包み込んだ。
「な、なんだこれは」
オレは慌ててその液体から逃れようとした。
すると目の前から、突然大きな光が差し込み、当たりの暗闇を照らしていった。
「なっ…ここは!!」
黒一色だった辺りの景色が、光に照らされたことで鮮明になり、自分が今いる場所の光景が目に飛び込んできた。
「はあっ?」
オレは絶句した。
なぜなら、俺は何かの口の中にいたからだ。
しかも、巨大な何者かの舌に乗っかっている状態だったのだ。
「オレ…食われてるのか?」
俺は慌てて舌から、光のさす方へ飛び降りた。
「う、うわあああああっ…冷たッ…。ん?ここは…?」
怪物の口の中から飛び出たオレは、地面に落下しはげしく叩きつけられた。
冷たく滑らかな床の感触とえきたいがする……。
俺はゆっくりと目を開いて周りを見渡した。
すると、そこには見渡す限り一面の水。 そう言ってしまえば海のように聞こえるが…そうではないと思う。一面に広がる水は、倒れた俺ですら沈まぬほど浅い。
一面に広がる水は足首すら浸かるか怪しいほど浅かった。
そしてその水は、【水底】と呼んでいいのか分からないが……ともかく、地面に敷き詰められた滑らかな触り心地のカラフル小石が見える程に澄んだ透明色だった。
俺の目の前には、大きな円とそれを囲むように配置された六本の石柱がある。
その石柱に彫られた文字や模様は見覚えがあった。
「これは…魔法陣?」
オレは思わず呟いた。
それは俺がよく知るゲームに出てくる【魔法】の発動陣だ。
しかし、それはあくまでゲーム内での話だ、現実ではまずお目にかかれない。
「なのに……どうして……」
俺は動揺した。
この景色が本物だとしたら、ここは紛れもなく俺がいる場所ではないことに他ならないからだ
そして俺は、その巨大な生物の口の中を目の当たりにして、思わず絶叫してしまった。
「なんだこれは!なんなんだよ!」
そこには巨大な生き物が横たわっていたのだ。
白と赤とその他色とりどりでふわふわの毛に覆われていて、鋭い牙とつぶらな青い瞳、
その姿はまさに巨大な狛犬そのものだったがのようだったが、なんと言ってもその大きさは桁外れだった。
全長20メートルはあるだろうか? その生き物は、まるで死んでいるかのように微動だにしなかった。
まさか本当に小説の主人公のように、オレは異世界に転生、転移したということなのだろうか?
俺は自分の置かれた状況を整理し、そして考え込んだ。
「これは……夢か?」
そう考えた方が納得できる。
「グ……グガァ」
「!!」
突然背後から何かのうめき声のような声が聞こえ、俺は慌てて振り返った。
そこには、先ほどまで横たわっていた巨大な生物が意識を取り戻したのか、ゆっくりと身を起こそうとしていた。
「ガ……ガァァ」
しかし、その犬はよほど弱っているようで起き上がるのがやっとのようで、すぐに地面に倒れ込んでしまった。
「こいつ…病気なのか?」
そう判断した俺は、巨大な犬に近づいた。
「おい……お前大丈夫か?」
だが、俺の問いかけにそいつは反応を示さなかった。
「グゥ……」
苦しそうに唸り声をあげるだけで、目も虚ろだ。かなり苦しんでいる。
そして、俺はその生物の身体に触れていることに気が付いた。
「うっ……なんだこれ」
余りにもボリュームのある艷やかな毛に覆われているため、見た目では気付かなかったが、その犬の皮膚は熱く火照っていた。
「すごい熱じゃないか!」
よく見ると、毛の奥の皮膚を調べると体中に古い切り傷も見つかった。
「お前……一体どうしたんだ?」
俺は、この巨大な犬が病気で苦しんでいるのだと思った。
なんとかしてやりたいと思うが、この青空の地平線のような空間には、見渡す限り近くには石しか無いし、当然治療の方法も知らないので途方に暮れた。
しかしその時オレは突然不意にその犬の傷の一つに触れながら身体を優しく撫でた。
まるでどうすればいいか知っているかのような、染み付いた何かに突き動かされるように、まさに勝手に身体が動いたような感覚だ。
すると、不思議なことに俺の掌から淡い光が溢れ出した。
(これは?)
それはまるで魔法のような現象だった。
なぜなら光が触れた箇所から、なにかどす黒い液体が手の中に固形化して収まり、その後みるみる傷が癒えていくのが見えたからだ。
「すごい……治っていく」
巨大な犬の呼吸は安定していき、傷も完全に塞がり元どおりになったのだ。
「グゥ……」
犬は、俺の掌に顔をすり寄せてきた。
どうやらもう心配ないようだ。
俺はその巨大な犬の頭を撫でながら、安堵のため息をついたのだった。
「よかった……治ったみたいだ…それにしてもなんだコレ…毒の塊?」
オレの手の中には、最終的に犬の傷口から吹き出た、ドス黒い液体から固まってできた『黒いナイフ』のようなものが残った。
オレはソレを犬の体内にあった毒素だと解釈して、服のベルトに挟んで持ち歩くことにした。
しかし、なぜオレにこんなことができるのか? その疑問は当然あった。
だが、今はそれよりもこの場所の謎を解きたかった。
それに、もし仮にここが本当に異世界だったとしても、俺が今までいた世界と違うという保証もない。
だから俺は、とりあえずこの場所を調べてみることにしたのだ。
「よしっ……まずは周辺を調べてみよう」
辺り一面の地平線に目を凝らした
すると、はるか遠くの方に何か巨大な岩で出来た物が建っているのが見えることに気が付いた。
「なんだあれ?」
それは、何かわからないほど遠くにあったが、こんなところにいても仕方がないというもんだ。
俺は苦しんだ表情から一変して、今はスヤスヤと眠りについている、巨大な犬を尻目に、その物体を目指してその場を後にした。
それから俺は、歩き続けたがなかなか目的地には到着しなかった。
というのもこの場所はとにかく広大な上に、風景に変化が全くない。
辺り一面にきれいな水が貼っているせいで、足が取られて歩きにくい
もしこのままここで力尽きてしまえば、もう一生辿り着くことは出来ないだろう。
「うへぇ…なんでこんな目に」
俺は愚痴を垂れながらも、なんとか歩き続けた。
そして歩くこと小一時間、ようやく見えていた物体がはっきりと見える距離までやって来た。
それは入口が複数の岩で防がれた、巨大な洞窟だ。こうも入口が塞がっていては、入る事も出来ない。
「ここまで来て無駄足かよ」
俺は、落胆してその場に座り込もうとするがその時また、自然に身体が動き、塞がれていた入口に手をかざしていた。
すると、入口を覆っていた岩が突然砂に変わり崩れ去ったのだ。
「うおっ!なんだ!」
俺は思わず後ずさった。しかしすぐに冷静になって考える。
「これは……俺の力なのか」
そうとしか考えられないだろう。
だが、こんなことが出来るなんて今まで知らなかったし、そもそも魔法なんてものは空想上の産物だと思っていたからだ。
「でもなんで急にこんなことに……」
俺がそんなことを考えていると、洞窟の奥からチャポチャポと水の音を立てながら、何かがこちらに近づいてきた。
「ん?」
俺は目を凝らし、それが何かを見定めようとした……そしてそれは姿を現した。
「え?……」
俺の口から思わずそんな声が漏れた。
何故ならその何かは、人だったからだ。しかも女性だ。
しかもただの女性ではない。美しい容姿をしていて顔立ちからして16歳くらいの奇妙な格好をした少女だ。
身長は165センチくらいと女性にしては高身長。
そして、豊かな胸とキュッと締まった腰の曲線美で腹部が露出しているほど丈の短か和装の着物、で口元を布で隠している。 一言で言えばそれは忍者のような出で立ちだが、そうともいえない特徴もある。
というのも彼女は、その着物の上から、やたらブカブカの黒コートを雑に羽織っており、囲まれるような黒髪も相まって、まるで彼女自身影のようだ。
よく見れば口元を隠しているモノも、よく見れば布ではなく、機械で出来ている。
両手両足には革製の手袋やブーツを付けている。そして手には何も持ってないが腰には刀を下げている。
髪は黒でセミロング、目は赤く、顔立ちは整っていた。
「ど……どちら様ですか?」
俺は思わず彼女に話し掛けた。すると女性は立ち止まり口を開いた。
「貴方…男…?珍しい……」
「へ?」
俺は思わず間抜けな声を溢した。
意味のわからない日本語を口走るその口調は、ゆっくりとしていて無駄がなく、声も呟くように、小さめでゆったりと落ち着いたトーンで話すため、聞いてるだけで眠くなるような声だった。
「……まぁいい……ここにいるって事は薄汚い【ユディアン族】なんだしょ?」
彼女はそう言って腰に下げた刀に手を置いた。
「死んで…」
すると刀からはプシューっと音が立てて、白い煙が上がった。
「ッ!!」
俺は慌てて彼女から離れようと、一歩後ろに下がったが、遅かったようだ。
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