第24話 フックス 風俗の歴史 8 世紀末の風潮 6/16

今回はフックス著『風俗の歴史 8 世紀末の風潮』です。

光文社のカラー版。

NDC分類では社会科学>社会・家庭生活の習俗に分類しています。

発刊が1958年なのだけど、そもそもオリジナルは第一次大戦前後に発刊された。


1.読前印象

 このシリーズはルネッサンスから当時の現代(近代)までの性風俗を含めた風俗の移り変わりを描いた本です。確かヒトラーに焚書された記憶。ルネッサンス起点だと多分それ以前の中世との対比で現代ともだいぶん異なると思うのだけど、今回は8巻で世紀末。この場合の世紀末は1890年代とかそのくらいかなと思う。近代はあまり詳しくないが、時代の節目でもあるので、興味深い。

 はりきって開いてみよう~。


2.目次と前書きチェック

 目次を見ると、1章『ブルジョア的服装』、2章『結婚と恋愛』と大きく分かれ、それぞれに興味深い小見出しが踊る。女性の権利というものが目に見えつつも、やはり視点の主体は男なんだなという気配。この中から1章は3の『革命服』、2章は1『理性による結婚』と『訳者のあとがき』を読んでみようと思います。後ろ2つは短いので。


3.中身

『革命服』について。

 「服を着て裸体に見せた」という表現が言いえて妙だ。 僕は当時の世相を必ずしも理解しているわけではないけれど、それ以前のドレスは釣鐘型に大きく膨らみクレイジーなほど引き絞ったコルセットと組み合わされて、よく考えれば人体を随分変形させて見せたものである。

 一方の男性もピチリとした服装が流行し、裸のように言われたそうだ。

 そうするとブルジョアの人間は裸で往来を歩くようになり、というか挿絵を見るとシースルーの下がマッパのように見えるので本当なのだろうかと疑うほどだが、胸の小さい女性用に人造乳房が販売されたというのだから、本当に半裸だったんだろうなと思う。そしてそれがモードとして存在しうるのは上流階級だけで、中産階級においてはそれはただ下品なだけのものだったというのも何だかそれぞれの社会階層における役割というものが浮き彫りになっていて、興味深い世界だなと思う。階級社会というのは同じ格好をしても(素材の違いはさておき)異なる生き物のように捉えられるというわけだ。

『理性による結婚』について。

 今の社会価値観とはだいぶんずれるが、当時のブルジョワジーの結婚というものはその身分や金銭、美貌といった価値の交換であると述べる。フックスはこれを嘆いているように見えるけど、これはこれで一つの合理性だと思う。恋愛結婚至上主義というのは僕からみても一種の熱病の幻覚に頼り切って判断力がないまま人生の舵を切る行為じゃないかと思ったりするので、客観的な指標で結婚するのはそれなりにアリなのではないかと思うんだけど。

『訳者のあとがき』について。

 フックスの描く社会変化を日本に当てはめ、同じような経緯を辿っていると指摘する。思うに服装というものは個人が社会にFixまたは迎合するのに最も適切で簡便な手段だなあと思うわけです。

 小説に使えるかというと、この第一次大戦前後の市民の世情を描くのなら一読してもいいかなと思える感じ。現代にはない価値観なので、もし書くなら時代感というものを把握するにはいいのかもしれない。全体として、どのような変化があったかは書かれていたけれど、それが何故もたらされたのかという部分までは踏み込んではいないので、その辺は想像で補う必要があるかもしれない。


4.結び

 この本は主に女性の服装と結婚観に焦点を当てた本で、正直これまであまり手に取ったことのないジャンルではあったものの、世情の変化というものは生活の総体を把握しないとリアリティはでないよなと常々思っているので、それなりに楽しかった。でも文章に癖があるから人によっては読みづらいかもしれない。

 次回は小長谷正明著『医学探偵の歴史事件簿』です。

 ではまた明日! 多分!

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