第23話 井上靖監 古美術読本 4 建築 6/12

今回は井上靖監著『古美術読本 4 建築』です。

知恵の森文庫の‎978-4334784508。

NDC分類では技術、工学>日本の建築に分類しています。

シリーズものだけどこのシリーズはこの建築しか持ってない。


1.読前印象

 古美術の中の建築というとやはり寺社仏閣というイメージか。監修者が井上靖だから歴史に沿って紹介されるんじゃないかと思う次第。でも著者の中には司馬遼太郎とか和辻哲郎とか歴史マターの人もいるけど、岡本太郎が混ざってたりするから、もっと広く取り扱っているのかもしれない。

 はりきって開いてみよう~。


2.目次と前書きチェック

 目次を見ると、それぞれの著者がそれぞれ書きたいことを描いているフリースタイルの本のようだ。挙げられている項目は塔や寺院、茶室や内装と多岐にわたり、それぞれにとても興味をかれる。岡本太郎の『建築と絵画』も気になるものの、今回は矢内原伊作の『建築について』と清水一の『遼廓亭』について読んでみよう。


3.中身

『建築について』について。

 建築とは実用物だから、それが芸術と呼ばれるにはプラスアルファの価値が必要ということから始まり、宗教や政治とは無関係に精神の深部で喜びを受け取るものだ、と大上段に始まっているものの、その精神の作用こそ個別性が強すぎるんじゃないかなと思う。宗教建築なんかはその文化が感銘の基礎となる気もするし。

 ……薬師寺の東塔にセザール・フランクやバッハを思い起こすことを前提とされても困る。言われれば合うかもしれないとは思うものの、それが当然だというのは随分狭い芸術感なのではないかと思わざるを得ない。ヘビメタもあうと思うよ。

 多分著者は自分の頭の中を人類の共通解だと思っていて、自分の考えは他人に伝わると思っているタイプだ。スナックによくいる人々。そういわれればそうかもね、という気はする範囲に収まるとは感じるものの、いかんせん感性の、特に個人に紐づいた感性が共通しているかのような話をされてもやっぱり、はぁ、そうですねと思うしか無い。それとも集合知のように集合美というものを強く観念しているんだろうか。

 著者は哲学者のようだ。何か全て納得した。

『遼廓亭』について。

 こちらもエッセイ風に始まるけれど、目に見える風景をベースに思い感じたたことを色合い豊かに描いている。先のエッセイに比べて同調圧は感じないので読みやすい。

 遼廓亭のいわれからその作りについて自然と話しは移り、著者がどのようなところに感銘を受け、それはどのような工夫から来ているのかというのを丁寧に描かれている。先の「これが芸術だ! バン!」という感じとの対比が凄いなと思うのだが、ともあれ実際に遼廓亭を見てから再びこの章を読みたい感じです。京都に行く機会はあまりないけれど。

 その流れるような文章にエッセイストかなと思ったら建築家だそうだ。説明がわかりやすいことに納得。

 全体として小説に使えるかどうかというと、悩ましい。たとえば章題にある金閣寺や金色堂、あるいはざっくりと茶室を書くときには役に立つかもしれないが、それならもっとよい本はあるのだと思う。これはようするに美的な建築に関するエッセイアンソロジーなのだ。

 そもそも絵画や音楽といった実用性の乏しくかえってその芸術性というものが括りだされやすいものと異なり、建築は人の使用を前提としたものである。そうである以上、建築との関わり方は人によって違うので、それを一冊の本に纏めると、結局『自分の思う古建築の美』というものに収斂してしまうのは致し方がない。でもやっぱり、どうも一本筋を通すような共通解って難しいんじゃないかな。


4.結び

 読み物としては、例えば井上靖や司馬遼太郎の書いた部分は面白いんだろうなとは思う。古建築に関する美術家を物語に登場させるときには読むかもしれないが、そういうキャラを作る予定はあまりない。そういえばうちの町には建築美術って紅林邸と煉瓦倉庫街と逆城の逆城神社と旧県庁舎跡の県政記念館とかしかないと思ったけど結構あった。

 次回はフックス著『風俗の歴史 8 世紀末の風潮』です。

 ではまた明日! 多分!

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