第21話 立川昭二 ものと人間の文化史 3 からくり 6/8

今回は立川昭二著『ものと人間の文化史 3 からくり』です。

法政大学出版で、978-4588200311。

NDC分類では社会科学>風俗習慣. 民俗学. 民族学に分類しています。

1969年出版で結構古いけど、今も続くシリーズ。


1.読前印象

 立川昭二のからくり関係の本は3冊ばかりもっていて、人形からくりがメインと認識してる。僕はからくり儀右衛門の話を鷹一郎さんのシリーズで書きたいんだというか構想放置してるというか。儀右衛門はからくり時計を作るために天文知識を学びに土御門家に弟子入りしてるんだよね。この話は表紙はもう何年も前から出来てるんだけど、なかなか着手できないというか富士山の話と虫の話を修正しないと進めない感じ。

 それはさておき、この『ものと人間の文化史』はなかなか尖ったシリーズである。からくりだと見どころが多いためかそうでもない気はするけれど、例えば『鋸』では太古から現代までの鋸についてずっと鋸の形状やら文化ばかりで1冊、といえばどのくらい尖っているか推測できよう。『蓮』も持ってるんだけどまだ開いてないや。尖ったものを調べるにはとてもいいんだよね、このシリーズ……。

 はりきって開いてみよう~。


2.目次と前書きチェック

 冒頭から茶汲み人形の写真から始まる、予想通り。序文で『からくり』を自動機械と定義している。現代の科学技術の基礎がこのからくりにあると書かれているけれど、からくり愛が溢れている感じ。

 目次は章立てはなく、『まぼろしの人形』、『からくり遍歴』、『Automata』、『『機巧図案』の世界』、『からくり師列伝』、『からくり復元』、『からくり遍歴 承前』、『からくり文明論』と続く。雑然としている。

 とりあえずからくり師列伝の中の『からくり儀右衛門』は外せないとして、ほかは悩ましい。正直どれも読みたい。積んどいてなんだけど。からくり遍歴からからくり人形といえば茶汲みなので『金沢の茶汲人形』と付録の『からくり談義 座談会』を読んでみます。


3.中身

『金沢の茶汲人形』について。

 いきなり著者が鉄オタであるという申告とともにからくり沼にハマって科研費まで取ってしまってどうしようというなんだか愉快なエッセイから始まる。日本初の模型機関車を作ったのも儀右衛門なのか、という話が繰り広げられつつなかなか本論に入らない茶汲人形ですが、作は期待した機巧図案の大野弁吉作ではなくその弟子の作のものだったようで、更に時計部品を材料としていて筆者の求める完全木造品ではないことと鉄道模型がないことへの落胆が綴られる……正直だな。

『からくり儀右衛門』について。

 からくり技士として有名な弁吉と儀右衛門の2人の生涯を比べているけれど、思ってたんと違う。儀右衛門は商売人としての目を持っていて弁吉は職人人生だったということがその生涯を分けたのだろうけれど、儀右衛門の方が尖ってる気がする。茶汲人形と同じくどちらかというと自由なエッセイという風情だ。

『からくり談義 座談会』について。

 からくりを中心に、日本においての江戸末期とそれ以降の科学・技術の捉え方についてや機巧図案から再現したからくり人形について、著者と同好の士がわちゃわちゃ討論するという内容。なんとなくこの本に書いてあることがざっくりわかった気がする。

 全体的にからくりに関する専門書というよりは、著者のからくり遍歴についてのエッセイといった内容。おかしいな、思ってたんとちょっと違う。このシリーズはもう少し尖ってたイメージなのだが。『遊びの百科全書』のシリーズのほうはもう少し学術的だったような気がするけれど。

 小説に使えるかというと悩ましいところ。読むのに選んだ場所が悪かったのかもしれないが、これはからくりの話というよりはからくりの好きな筆者の話という気がしなくもない。実品を訪ねた描写もそのからくり自体ではなくその周辺事情に多くの紙面が割かれている。そのため明治前後の時代の情勢の資料には少々はやくに経つかもしれないが、これ一冊でからくりの話を書くのは難しい気はする。機巧図案も載ってはいるが、現代語訳ではない。


4.結び

 思ったより抒情的な内容でしたが、からくり人形自体はロマンなのでそのうち全体を読みたいです。この著者は日本ブリタニカの『遊びの百科全書』というシリーズでも人形からくりの本を出しているので、そっちの方をおすすめする。

 次回は種村季弘著『怪物の解剖学』です。

 ではまた明日! 多分!

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