第20話 矢田挿雲 江戸から東京へ 3 浅草 下 6/6

今回は矢田挿雲著『江戸から東京へ 3 浅草 下』。

3の下とか、また中途半端なところに来ましたね。

中公文庫, 978-4122002159。

NDC分類では歴史>日本に分類しています。

厳密に言えば290(地理. 地誌. 紀行)の中の291(日本)なんだけど、目次は今のうちに直したほうがいいだろうか?


1.読前印象

 矢田挿雲は明治から大正時代にかけての人で、東京の風景的エッセイを書き留めた『江戸から東京へ』は文庫だと全9巻。どうせなら8巻の東京大学とか神田明神とか秋葉原のある小石川がよかった。あの辺は明治時代の話でたまに書くので。

 さて浅草といっても広い。上下巻とすると何となく山の手の方が上に来るイメージだから、下だと墨田の方? とりあえず開いてみようか。


2.目次と前書きチェック

 上も下も台東区(浅草区)だった。でも鐘ヶ淵と書いてあるから、当時の浅草区は墨田も含んでいたのかなと思って調べたけど、鐘ヶ淵は浅草区外らしい。きっと付近ということだろう。

 上下に内容の違いは特になさそうだ。違いというより発行順に並べたのかな、という風情かも。上のほうに吉原の話があるからそっちのほうが興味があるものの、とりあえず今日は下だ。特に分類もされずに様々なテーマが列挙されている。見た感じ、新聞のコラム欄にのってる寄せ合わせみたいなかんじだけど、よく考えたらこれって報知新聞か何かの連載だったはずからさもありなん。イメージとしたらじゅん散歩とかブラタモリの書籍版みたいなものかもしれない。

 目についたのは『江戸の名物餅』、『須賀橋の非人小屋』、『江戸の食物史 上』、『江戸ッ子と帰化人』を読んでみよう。これを選んだ理由は特にないのだけど。


3.中身

『江戸の名物餅』について。

 明治9年に閉店した元禄時代から続く根源幾代餅が名物『だった』話。最初からなかなか構成に意表を付く上、話はどんどん転がり裁判沙汰に。それで視点が明治から江戸なものだから当時の時代背景に照らしたコメントが面白い。大岡裁きなっていう。

『須賀橋の非人小屋』について。

 明治時代における橋の名前の変化や街の風景の移り変わりを描いているものの、自分にそれほど浅草に対する思い入れがないのでいまいちピンとこず、残念なところ。非人小屋のエピソードはなかなか軽妙だ。

『江戸の食物史 上』について。

 江戸前の料理茶屋の始まりから食道楽の矜持、江戸料理が簡素なのを徳川家康に結びつける筆さばきと、江戸時代のことを語るのにカロリーとかプラチナとかの多分当時最新の単語をいれて文章の毛色をかえる技術よ。このとりとめもなくつらつら書くというのは一つの技術と思う。

『江戸ッ子と帰化人』について。

 帰化人といっても話は奈良時代まで遡る。漢楚軍談とか皆さんご存知のノリで出てくるけど、当時は一般教養だったのかな。自分以外に周りで読んでそうな奴がいないんだけど。とりま帰化人の扱いが水槽のタニシみたいにぞんざいだ。そして突然アイヌの話になるけどこの辺は今はTPOが気になるので伏せ。

 全体的に、文章がめちゃめちゃ上手い。明治文豪の一部がもっている軽妙さというか、まるで講談のような語り口に感じるのはおそらく読点が多いからだろうなとは思う。

 江戸時代や明治時代のピンポイントな地形を描くにはとても参考になりそうだけど、地名によって目次がソートされていないので、必要な部分だけ抜き出すのは少しむずかしいかもしれないな。

 全体として明治時代の現在から江戸時代を振り返るもので、その気付きというのがなかなか感心させられるところも多いのだけれど、ただこれ、明治なり江戸なりあるいは東京の地理についてそれなりの知識がないと置いてきぼりにされるやつだ。明治時代の常識と現代の常識のズレがかなり大きくなっていて、それなりに落語や時代劇なんかに馴染んでなければ読むのがつらいかもしれないと思った。単語の意味がわからない層がそれなりにいると思う。


4.結び

 江戸及び明治時代の資料というよりは、文章の書き方としてとても参考になる。展開が早すぎるけれど、新聞コラムにはこれが必要なんだなとも思う。他のところもピンポイントで読んでみよう、資料で使うときには。明治時代の小石川近辺はよく使うんだよね、ほんとに。脳内でお気に入りは神田ニコライ堂からの江戸湾の眺めです(何。

 次回は立川昭二『ものと人間の文化史 3 からくり』です。

 ではまた明日! 多分!

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