第17話 鈴木満男 環東シナ海の古代儀礼 6/2

今回は鈴木満男著 『環東シナ海の古代儀礼』です。サブタイは巨樹、東海浄土、そして水の靈との聖婚。

第一書房のAcademic Series NEW ASIA 13の978-4804200781。

NDC分類では社会科学>風俗史. 民俗誌. 民族誌に分類しています。


1.読前印象

 巨樹で東海浄土となるとなんとなく蓬莱山が思い浮かぶ。でも環東シナ海っていうともう少し南、黄海を含まないと思われるので、韓国南部から上海、福建あたりくらいまでだろうか。媽祖様しか思い浮かばないけれど、海ではなく水の霊とあるところから川がメインなのだろうかと思い浮かぶ。あの辺りは川がたくさん流れて治水も都度やっていただろうから、そこに伝わる話を集めたもの、とか?

 さぁ、張り切って開いてみよう~。


2.目次と前書きチェック

 序章『民俗の万華鏡は何を意味するか』、1章『水神論』、2章『海上他界論』、3章『樹神論』と続き、浙江省多めに済州島や沖縄などを含めた民俗学的本のもよう。杭州湾のあたりの地図がついている。わりに知らない分野です。良き。やっぱり水霊というのは蛟なのかな。

 全部読む時間はないので、興味の赴くまま序章と1章のうち抲魚佬の『呉越の海洋文化・水海文化』を読んでみようと思います。序章長いし。


3.中身

『民俗の万華鏡は何を意味するか』について。

 巨視的な視点で見てみましょうという話。これは結構重要な観点で、明治時代で流入してきた西洋的な分類法というのは極限まで細かく分離識別することを基礎とした価値観といえる。一方で全体を俯瞰して初めて見える視点というものは確かにある。これは演繹と帰納の手法の違いといえばわかりやすいかもしれない。

 中国というのも元とか金とか征服民族がちょくちょく変わりはするけれど、どこまでを文化圏と考えるかというのはなかなか面白いところ。そして文字という強い概念が曖昧な習俗の保っていたイメージを容易に塗りつぶすというのは想像に難くない。やっぱ文字は強烈な武器ですね。事後においてはペンは剣より圧倒的に強いのだ。なので侵略者というものは往々にして文字や宗教といった根幹概念から塗りつぶしていくわけで。

 ざっと読んでて著者は主張が強い人だなと思うけど、学者というのはこうでなくてはいかんとも思う。

『呉越の海洋文化・水海文化』について。

 フィールドワークの途中に訪れた風景が紀行文風に書いてあって思ってたんとちょっと違った。とはいえ水を基礎とした文化というのは馴染み浅く興味深い。杭州のあたりって激しく治水灌漑をしていたことは知識としては知っているけれど、ピンとこないくらい知識がない。

 これだけでは本論と全然違うところばかりな気がするので追加。

抲魚佬の『銭塘江の九姓漁戸』

 銭塘江には船上の小規模楼閣があるという話で、彼らはどのような出自かなどを推測しているけれど、基本的には筆者が見聞きしたことを内容としている。ひょっとして全般こんな感じなのかな。学術書というよりはエッセイな気がしてきた。

 小説に使えるかというと、この辺の風俗を描くには多少の参考になる気はするけれど、さりとて断片的にすぎ、全体的にぼんやりしている。ざっと他のページもめくってみたけれど、民俗学的な考察や論説っぽい部分もあるものの、著者の体験が出てくればそっちに塗りつぶされる印象があり、やっぱり曲の強い著者だなと思う。


4.結び

 この本の視点というものは大変興味深いものの、著者が何故だか明確な結論は避けているのに主張が強いという不思議なテンション。なんとなく枠組みは最初に論理的に考えてもフィーリングに寄っていく人なんだろうか。ジャンルとしては興味はあるんだけど。

 次回はBooks Esotericaのシリーズの『妖怪の本』です。。

 ではまた明日! 多分!

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