chapter7 試験開始

王雲嵐に試験について伝えられてから1週間が経ち、冬弥の体調も完全に回復し、病院から出ると、そこには久並次郎が居た。


二人は冬弥のことを見つけるなり、近づいてくる。


「退院おめでとう。」


まず初めに口を開いたのは、久並次郎であった。


「お、お陰様で、無事に退院出来ました。」


冬弥は2人に対して頭を下げる。


「退院したばかりだが、これから君の試験をする。準備はいいかい?」


病室に2人が来て、試験の話をした時から、いつでも試験に望めるように冬弥は準備していた。


「大丈夫です。」


「わかった。それなら、乗ってくれ。」


久並は横に止めてある車のドアをあける。


車の助手席には黒いグローブを身にまとった王雲嵐が乗っており、冬弥は後部座席に座った。


冬弥が座ったのち、久並が運転席に座り、車が走り出した。


「退院おめでとうネ。」


車が出発するなり、王雲嵐が口を開いた。


「ありがとうございます。」


「驚異的な回復力ネ。僕、驚いたヨ。」


普通の人間では最短でも全治するのに1ヶ月かかるというのに、冬弥はたったの1週間と3日しかかからなかったのだ。これはおそらく、エクシスタンスの力のおかげであることを冬弥は気づいていた。


「それは、おそらく、この力のおかげなんだと思います。」


自身の握った拳を見ながら答えた。


そんな話をしていると、学校のようなところに冬弥を乗せた車は入っていく。


「ここは、どこなんですか?」


窓から見える景色を眺めながら、問いかける。


「ここは、エクシスタンスに対抗する人間を育てるための学校。ランカー育成専門学校。通称らせんと呼ばれているところだよ。」


久並が運転席から丁寧に教えてくれる。


「そうなんですか。」


そこは、盗みばかりしていた冬弥には知らない世界であった。


「え、俺は通わなくて良いんですか?」


当然の疑問が冬弥の口からでる。


「いいんだよ。君は特別だから。」


「そ、そうなんですか。」


少しの間が空き、再び冬弥が口を開く。


「ところで、ランカーってなんですか?」


ランカー育成専門学校と聞いた冬弥は、ランカーの意味がわからなかった。


「ランカーというものは、エクシスタンスと戦う者達のことだよ。」


久並が答えた直後に車は停止した。


「さぁ、着いたよ。降りて。」


どうやら、目的地に着いたみたいだ。


車を降りた冬弥の目の前に広がっていたのは、何の変哲もない体育館であった。


「こっちだ。」


冬弥は言われるがままに体育館のような場所に入って行った。


「どこなんですかここ?」


建物内の通路を歩いてる冬弥が目の前で自身のことを導いている二人に問いを投げかける。


「ここは、らせんの専用体育館さ。ここで君の試験を行うんだよ。」


「そうなんですか、ここで。」


そんな会話をしていると、扉の前で二人が止まる。それと同時に冬弥も足を止めた。


「俺は、ここでお別れだ。ここから先は王さんと一緒に行ってくれ。」


「わかりました。」


久並はそう言い終わると、扉の真横にある廊下を進んで行った。


「そういうことネ。入るヨ。」


王雲嵐が両手で扉を押すと、音をたてながら扉が開き始めた。


ギィィ。


扉の先には何の変哲もない真っ白な大きな空間が広がっていた。


「さぁ、行くネ。」


王雲嵐は白い空間に足を踏み入れる。それに続き、冬弥も足を踏み入れた。


冬弥が中に入ったのを確認すると、王雲嵐は再び扉に手をあて、今度は扉を閉めた。


ギィィ。


「ところで、試験はどんな内容なんですか?」


試験の内容は当日に説明されると、言われていた冬弥が王雲嵐に対して質問をする。


「今にわかるネ。」


王雲嵐がそう言った直後、白い空間の中に設置されているスピーカーから久並の声が聞こえてくる。


『あーあー。OK。』


その言葉から一息ついて、再びスピーカーから声がながれだす。


『これから間川冬弥の試験を始める。試験内容は王雲嵐と模擬戦をしてもらう。時間は無制限。王雲嵐に一撃でも与えられたら、その場で試験終了。その時に意識があったのならば、合格とする。だが、君が戦闘不能な状態となった場合、不合格とする。』


「えっ。」


冬弥の口から変な声が漏れる。


だが、それも無理はない。事務所の中で一番偉い所長ともあろう実力者に冬弥が一撃なんか当てられるわけがない。


そんなことお構い無しにスピーカーから再び声が聞こえてくる。


『それでは、試験を開始する。始め。』


開始の合図と同時に王雲嵐の身につけている黒いグローブがキィーンという音を放ちながら白いラインを描き、光る。


「手加減はしないヨ。」


王雲嵐が構えながら、そう言葉を綴った。

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