chapter4 覚醒の時

「うぁっ、がァっ。」


所長達がエクシスタンスとなった亮と戦っている時、後ろにいた冬弥は激しい痛みに襲われていた。


「がァっ。」


痛みに耐えきれずに声が漏れる。だが、その声は虚しくも激しい戦闘の音でかき消されてしまう。


「うぐぅ。」


冬弥はその場でのたうち回る。


「ぐぁぁぁ。」


自身の体が痛みとともに段々と変化していくことを感じることしか今のとうやにはできなかった。


「がァァァァ。」


肌が段々と赤黒く変色していき、爪は鋭く、固くなり、鉄さえも容易く両断出来る程までになった。


「ぐぅ、あぁぁぁぁ。」


だが、冬夜の変化はそれだけでは終わらない。腕の尺骨の辺りから、皮膚を突き破るかのようにして、赤黒い骨のようなものが三日月をえがいて飛び出し、更に、膝の部分からも赤黒い棘のようなものが皮膚を突き破り出てくる。


終いには、目や髪までもが赤黒く変色しまい、とうとう意識を失ってしまった。


「がァァァァァァァァ!!」


咆哮が激しい戦闘の音をかき消す。


「「!!」」


エクシスタンスと戦闘をしていた所長と空崎が咆哮の源である後方に振り向く。


「なっ、」


エクシスタンスとなってしまった冬弥をみた所長からマヌケな声が飛び出てしまう。


「しょ、所長。どうしますか?」


空崎が所長に判断を委ねる。


(これは、まずいな。一体でも手一杯だ。二体となると、捌ききれない。一度撤退したいところだが、状況的に撤退は厳しそうだ。となると、新しく魔化してできたエクシスタンスを最速で葬った後に狂気したエクシスタンスを足止めして、応援を待つしかないな。)


頭の中で今の状況を一瞬で理解し、次に行う行動を考えた。


「空崎。後方の魔化したエクシスタンスを先にしとめる。」


冬弥だったエクシスタンスへととてつもない速さで向かいながら、空崎に命令をだす。


「了解。」


空崎も所長に続き、亮だったエクシスタンスから冬弥だったエクシスタンスにターゲットをかえて、走りだした。


冬弥だったエクシスタンスは所長達に襲いかかることもせずに、その場に立ち尽くしていた。


『お、』


立ち尽くしていたエクシスタンスが何かを声に出している。


『俺は、』


だが、そんなのお構い無しに所長と空崎はエクシスタンスに攻撃をした。


ザッ、バン。


所長は足を切りつけ体のバランスを崩し、その隙に空崎が頭部目掛けて発砲をした。


エクシスタンスは力なく後方に倒れ込み、動かなくなった。その姿を見るや所長と空崎は先程まで戦闘をしていた亮だったエクシスタンスの方向に体を向けて、再び戦闘を開始した。





ここはどこだ。俺は誰だ。


何もわからない。何も思い出せない。


わからない。俺は、俺は、





再び狂気したエクシスタンスとの戦いがはじまった。


所長はエクシスタンスから繰り出される拳をかわし、その隙にきりつけるが、すぐに再生してしまい効果がない。


空崎に至っては弾丸が皮膚に弾かれてしまい、傷を付けられない状態であった。


(応援はまだこないのか。)


所長は一瞬空崎に目をそらす。


(空崎も疲労が溜まってきている。このままではジリ貧だな。どうする?)





俺は、誰だ?


俺は、何者だ?


俺は、エクシスタンスか?


それとも、人間か?


俺は、エクシスタンス?人間?エクシスタンス?人間?エクシスタンス?人間?


どっちだ?


俺は、どっちなんだ?


俺は、俺は、俺は……、




俺は、人間だ。


俺は、人間なんだ。


俺の名前は何だ?


俺の名前は、名前は、名前は……、





後方に倒れているエクシスタンスがゆっくりと起き上がる。


起き上がったエクシスタンスの体が赤黒い色から段々と白色に変わっていく。体だけではない。髪も目さえも全てが白色へと変わっていった。


『俺は、冬弥だ。』

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