第24話 共犯者への嘘

 《視点・ボク》


 高砂さんには二つ嘘を吐いた。

 一つ、面白山以外に下須島くんが仲間である事をボクは話していない。高砂さんを信用しないわけではないが下須島くんの調査力はボクが持つ最強の手札であり、あまり公にしたくないという思惑があった。エース・イン・ザ・ホールの名の通り、穴に隠した切り札として運用しなければ下須島くん自身に危険が及ぶかもしれない。それだけ彼の取材力というか情報集積力は凄まじい。この事件だって彼が動けば真相に近付くのは容易いとさえ思う。

 まあ。

 真相なのか深層なのか。

 解らないから隠す必要があるのだが。

 藪蛇で深層から聖書に描かれた魔王みたいな蛇が出て来ないとも限らない。シマヘビぐらいなら可愛いものだが、サタンとなれば藪を突いた下須島くんだけじゃなく皆が消し飛ぶ。爆発オチは嫌いじゃないが、まだオチに向かうには早過ぎるだろう。


 そして、もう一つ。

 ボクと面白山は寝ない。


 考えてもみて欲しい。

 学校が休校になり、一年のイジメグループは副会長からボコスカジャンにされ、生徒会長も現場に居たのだ。そんなの犯人グループが黙って大人しくしている筈がない。必ず何処かに集まり、今後の動き方を話し合う。そうしなければ不安で潰されるからだ。

 ついでに高砂さんが話していた部活動も調べておきたい。授業中に部活動もクソもないだろとは思ったが、欠席者リストと部活動のリストは見事に合致した。これでは動かないわけにもいくまい。

 「私、殿方の家に入るの初めてすよ?」

 「第三拠点としてボクの家だな。お店に迷惑かけちゃう場合もあるし面白山ん家と違って商店街じゃない。閑静な住宅街というほど品のある所でもないけど」

 「私、会長ん家って勝手なイメージすけど軍事基地みてえなヤツだと思ってました。ブロック塀とかじゃなくて何重にも金属フェンスに囲まれてるような。家も丸くて目線の高さにだけ穴が開いてて銃座が固定されてるような。玄関には沢山土嚢が積まれていてです」

「それ自宅じゃなくてトーチカだよ……」

 ご近所さんから何を言われるんだろう。

 そんな自宅だったら。

 回覧板とか回して貰えないかもしれん。

 「それかバスを改造したキャンピングカーみたいなのをイメージしてたっす。巨大ロボに変形したり」

 「トランスフォーマーじゃん……」

 刑務官と陸自の息子というだけだ。

 間違ってもマフィアの息子でも独裁者の後継ぎでもない。いや、マフィアや独裁者がトーチカとかトランスフォーマーに住んでいるのかどうかは預かり知らない事ではあるが。

 戦闘職の風評被害であった。

 シンプル悪口であった。

 「一人暮らしの男子ん家にノコノコ尋ねる私も相当に危機感ねえっすけどね」

 「面白山に手ぇ出せる高校生ってこの世に存在するのだろうか?」

 「わりと強引にナンパとかはありましたよ?女子が不良よりナンパを怖がるのはそうした経験値があるからなのです。私の場合は鎖骨辺りをメキョッ!しますけど」

 「そうか、女の子にはそういう恐怖もあるのか……」

 面白山、見た目だけは美少女だからな。

 それでもナンパとかは出来ない。

 したくない。

 メキョッ!されてしまう。

 

 __閑話休題。


 時刻は日付変更線を越えるか越えないか。

 面白山はパーカーにジャージ姿であり腕と脛にプロテクターを仕込み、グローブもバンテージのように手を保護する格闘家が身につけるようなフィンガーレスだ。鎖帷子も内側に着込んでいる筈。連戦となるが、カンフーガールにダメージは無い。頑張って貰うしかない。

 ボクはパラコードを巻いた警棒と、同じく鎖帷子。更にCCDカメラを取り付けた鞄を装備した。

 「なんすか、その駅で女子のパンツ撮影するみたいな鞄は」

 「証拠の撮影もそうなんだが、リアルタイムで動画の方が良い。下須島くんのアイデアなんだけど。撮影した動画は下須島PCに送られ、下須島PCから下須島くんのスマホに転送されるらしい。どんな仕組みなのかは知らん」

 「ダブルオーセブンみてえ……」

 なんだろうとするさ。

 悪者捕まえる為なら。

 リアリティなんか面白山のカンフーで既に吹っ飛んだしな。実際に吹っ飛んでたからな。一年の女の子。

 次に出向く現場は。

 誰が吹っ飛ぶのか。

 何が吹っ飛ぶのか。

 全てはカンフーガールの気分次第。

 「使う側というか知る側になって解る。災害時安全確認アプリケーションって、危ないなって思う。何処にいるか解るんだぞ?」

 「でも便利す。スマホが集まるのが不自然す。あんな事件があった日の、こんな時間帯にす。カチコミす。カチコミ」

 「御用検めに近いと、信じたい…」

 そう。

 災害時安否確認のアプリを使えば生徒が何処にいるかは把握出来る。この時間帯に集まっていればそれだけで不自然だ。

 既に隠し事は出来ない時代だと考えて良い。それが良いのか悪いのかは使い方次第で変わるのだろうけど。

 スマホで地図を呼び出し。

 災害時安否確認アプリケーションを起動。

 

 幾つかの光点が重なる場所は。

 山奥の。

 無人キャンプ場。 

 

 

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