Episode.17 the night before

 夜の大食堂は人がまばらだ。明かりはついていても窓の外は暗く、全体的に薄暗い雰囲気を感じる。

 多くて三人までの団体が目につく中、真ん中あたりのテーブルを堂々と占める大所帯がいた。

 チーム・スカーレットとチーム・ジャスティスの面々だ。

 夕食にありつく彼らの表情にはわずかに疲労の色が浮かんでいる。つい先程、自主トレーニングを終えたばかりだった。

 アスタの取り皿は野菜よりも肉の比率が圧倒的に多く、骨付き肉を紙ナプキン越しにだが、男らしく素手でかぶりつく。


 「うんめー!!やっぱ、やりきったあとの飯は最高だな!」

 「アスタ、口に付いてる」

 「おおっ、サンキュー!ルビー。気が利くな」

 「子どもか」


 隣に座るルビーからハンカチを手渡され口元の汚れを拭き取るアスタに、真向かいでスープを口に運ぼうとしていたウルが突っ込む。その横では、今まさにチーズリゾットを無心に食べるフォンセを見つめ、ティアラがキャッキャしていた。


 「食べてる姿もイケメーン♡」

 「…食べねぇのか」

 「食べまーす!はむ…もぐもぐ…おいし〜♡」

 「美味そうに食うな」


 フォンセはふっと笑い、ふたたび静かに食べはじめる。

 フレア、ローズ、エレーナ、シャウリーもおしゃべりしながら食事を楽しんでいた。そこへ、特盛の大皿を持つデメトリアがやってきて、フレアの空いた隣の席に座る。


 「デメトリア、おかえり!なんだかすごいご飯だね」


 大皿の上の小高い丘は、色んな種類の食べ物がごっちゃになりできたものだ。どれが何の味だかわからなくなりそうだが。


 「それにすごい量。全部食べられるの?がんばって食べ終えた頃には一時間くらい経って、そ…」


 デメトリアは大皿を持ち上げると、口の前で傾けた。食べ物の丘が滑り落ち、開けた口の中へどんどん入り込んでいく。ゴグッゴギュンッガギッ…ゴリッ。今まで聞いたこともないような奇怪な音がしている。数秒足らずで大皿は空となり、デメトリアは満足したように息をつく。

 あっけに取られる面々。


 「あ…あ…」


 フレアはびっくりしすぎてドン引き――かと思いきや、目を輝かせて立ち上がった。


 「今のはなに?すごい芸当だよ!デメトリアの胃袋どーなってるの?」

 「いや、そこじゃねーだろ!」

 「ちょっとあんた、ちゃんと咀嚼してから飲み込みなさいよ。体に良くないわよ」

 「だから、そこじゃねーって!」


 さっきから向こう側でアスタが叫んでいるが、デメトリアのことに夢中になっているフレアたちの耳には届かない。


 「いつもそんな感じで食べてるんですか…?」


 ローズが聞くと、デメトリアはマフラーの位置を戻して顔を埋めながら「ああ」と言った。


 「一番効率よく栄養を摂取できる方法だ」

 「なるほど…。さ、参考になります」

 「しなくていいのよ、ローズ」

 「デメトリアさんってけっこう大胆なのね。ステキ」


 どこまで本気なのかはわからないが、シャウリーは両手を頬に添えてにこやかに微笑んだ。


 「ねぇ、みんな」


 ルビーがひょこりと顔を出し全員に話しかける。


 「いよいよ、明日ね」


 全員の顔つきがふっと変わった。アスタ、ウル、ティアラが深く頷く。


 「だな」

 「このために毎日猛特訓に耐え抜いたといっても過言じゃない!」

 「やるんだったら勝ちたいものね!」


 そう。明日はいよいよ、クラス対抗のチームバトルが行われる日なのだ。一ヶ月前にそのことを知らされて以来、彼らは気合いをみなぎらせていた。なんといっても相手は、最強たちが集うクラス・ミラージュであり、だからこそ挑戦者としての魂が燃えるというものだ。

 ウルがテーブルから身を乗り出し、フォンセに言った。


 「頼むよリーダー!ウチで一番頭の良い司令塔なんだからね!次もその頭脳でいい作戦考えてくれるの期待してるよ!」

 「ああ。最善を尽くす」


 一方で、チーム・スカーレットもその話題で盛り上がっていた。


 「私たち、最近チームワークバッチリだし、この調子ならきっといけると思う!」


 フレアの前のめりな姿勢に、エレーナも「そうね」と返す。


 「対戦チームはまだわからないけれど、どんな相手が来ようと、全力を尽くすのみよ」

 「私も、がんばる…!」

 「私もみんなをサポートするわね」

 「デメトリアも気合入ってるよね!」


 フレアにそう言われると、デメトリアはこくりと頷いた。

 

 「よっしゃー!!」


 アスタはテーブルの端に片足を乗せ、食べかけの骨付き肉を天井に掲げた。


 「時期国王陛下様がお相手だろうと、ここは勝負の世界だ、遠慮はいらねぇ!おい野郎ども、お高くとまってる連中の鼻を明かしてやろうぜ!!」

 「オオーッ」


 やる気は最高潮に達し、少年少女の掛け声は夜の食堂中を突き抜けた。


 

 

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