かっこいいあなたの、かっこ悪い一面。俺がお姫様を助けるんだ!

第11話 夢ある株式会社ツクルG

 翌日、学校終わりに、とある広いオフィスビルに招待された。色々なオフィスが集合しているのだろう、ビルの入口には社名がズラッと並んだステンレス製のネームプレートがある。


 その中の一つが『株式会社ツクルG』だ。すごくメジャーなゲーム制作会社というわけではないが、レベルが低いというわけでもない『これからが楽しみな会社だよ! ADだと給料安いけど』と社員である由真さんは言っていた。


「あ、日々希! ごめんごめんっ」


 オフィスビルのエントランス。ものすごく広く、スーツやきっちりした服装の人達が足早に通り過ぎる中、カジュアルな服装の自分が待つのはなかなか苦痛だったが、止まったエレベーターからシルバー色のスーツで颯爽と現れた夢くんを見た途端、そのつらさは吹き飛んだ。


「ここまで迷わなかったか?」


「あのなぁ、俺だって来年大学生だぞ」


「はは、ごめんごめん。俺にとっては日々希はいつまでもちっちゃい感じなんだよ。それがかわいくてたまらないんだけどな」


 朝、家を出て今再会したばかりで、何をサラッと爆弾発言してくれるんだ。顔が熱くなる。


(くそっ……とりあえずここにはあのヤローはいないだろうな? 金持ちだから変なスパイとか置いてないだろうな)


 日々希は目を細め、周囲をにらむ。

 あのヤローというのは昨日、自分と夢くんの食事を邪魔した挙げ句、宣戦布告してきたヤローだ。あんなやつ、名前で呼ぶ価値もない、ヤローだヤロー。


「日々希、顔怖いけど、どうした? コンビニでも探してんの? すぐそこにあるぞ」


「違うって。いいから行こう」


 夢くんを促し、再びエレベーターに乗せる。ボタンを押した階はなかなか上の方だ。


「結構、すごい場所にあんのな」


「まぁねー。でもそのうちには会社所有のビル持ちたいとか言ってたよ、社長は。伊田屋さんがコーヒー飲みたいからスナバを社内に誘致しろとか言ってた。あ、伊田屋さんが後で日々希に会いたいんだって」


 伊田屋さん……まだあまり話してないけど、見た目は怖い、いかついおっさんだ。でも無類のスナバのコーヒー好きで由真さんは『グラサンコーヒージャンキー』と呼んでいた。


「もう着くよ」


 夢くんの言葉と同時にエレベーターがピンポーンと到着の合図。ドアが開くとそこには壁に『ユーザーも社員も楽しく過ごすべし!』とド派手に蛍光色で描かれたツクルGの受付があった。


「……派手」


 正直な感想をつぶやくと夢くんが笑った。


「社長の趣味。良い社長だよ?」


 そう言われると社員を大切にしてそうな文言だと思う。

 夢くんは受付の人に挨拶をすると奥に向かった。


「はーい、ここがツクルGの内部でーす。と言ってもここはただのホールだけど。あちこちにドアがあるだろ。デザインとかシステムとかみんな分かれて作業してるんだ」


 ただのホールと夢くんは言うが。ビル内なので天井はそれほど高くはないが走り回れるほど広く、ここは主に休憩や作業スペースなのだろう。大きなガラステーブルが置かれていたり、木製のテーブルが置かれていたり、それぞれが思い思いの場所で過ごせるようになっている。

 一角には畳の上にコタツもあって、コタツテーブルの上でパソコンしている人もいるが。


「最近の流行りなんだぞ、コタツ作業。だって足伸ばせて一番落ちつくじゃん。日々希も入社したらコタツで寝っ転がりながらアフレコとかできるかもよ」


 それは非常に楽しそうだが。周囲の物音まで録音されてしまうと思う。でも社内はとてもゆったりして過ごしやすそうだ。


「由真さんはいないの?」


「あー今日は外に出てるかな。あいついるとお前に付きまとってうるさいし。でも『日々希くんに会いたかったー!』って叫びながら外行ったから急いで戻ってくる可能性もあるな」


「そ、そうか」


 自分に会いたかった、なんて。そんなエライやつじゃないのに。ちょっと嬉しいけど。


「あ、んでさー今日は昨日企画していたゲームのキャラデザが少しできたんだけど。イメージが湧きやすいように日々希に選んでもらいたくて。あと日々希さえよければ、お前の声を使わせてもらいたい。つまり声優やってほしいんだ」


「え、お、俺が?」


 いきなりそんな。

 自信がないわけじゃない、今までだってアニメの声入れをしたことはある。

 ただそれは学校の中だけのこと。本当の仕事というわけではない。


「だ、だって、それは世の中に出すゲームになるんだろ? 無名の俺を使っていいのか?」


 難しい顔をしていたら。

 夢くんは「もちろん」と笑った。


「俺だって、にわかのプランナーってわけじゃないぞ? ちゃんと実力、見込み、売れる可能性とか色々考えてるんだよ。お前の声は正直、めちゃめちゃ惹かれるものを感じる。チャンスを与えたらお前の声はきっとみんなを夢中にさせることができるさ」


 笑顔で、そこまで力を入れて説明されると胸の中がじわりと熱くなってくる。

 夢くん、期待してくれているんだ。そんな期待、応えないわけにはいかないじゃないか。


「……まぁ、今言ったのも俺の正直な気持ちなんだけど。有名になる前のお前の声でゲーム作ったら。それはそれでプレミア価値になるなっていう希少価値優先の考えもあるんだけどな、ショージキな気持ち」


 夢くんは悪気なく「あはは」と笑っている。

 その様子に(さすがやり手プランナー!)と納得してしまった。

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