第10話 宣戦布告⁉
夢くんがよく行く、行きつけのレストランがあるらしく。由真さんに根掘り葉掘り、夢くんのどこが好き、いつから好きということを聞かれながらそこへ向かうことになった。
夢くんはバイクで行ったらしい。由真さんの移動手段も同じくバイクだった。
「やったー、日々希くんとニケツできるー。あ、日々希くんにとっては夢彦さんじゃなくてごめんだね」
誰にも教えていなかったことを、こうも当たり前に会話することになるなんて……いや、最近は陽平と准にも自分は夢くんが好きという情報は伝わっちゃっているが。
ヘルメットを借り、バイクに乗った由真さんの後ろにしがみつく。見た目から筋肉質な由真さんの身体はつかむと当然ガッシリしている。
「由真さんって鍛えてるんですか?」
「うん、ジム通いしてるよー。でも安月給だからジム代も大変。でもいつか素敵な恋人をお姫様抱っこするために頑張ってんだー」
「なんですか、それ」
陽気な由真さんに思わず笑ってしまった。
そうこうしているうちにバイクは動き、目的地まで移動した。
そこは夢くんの住む地域からいくつか駅を離れた場所だろうか、すっかり辺りは暗くなり、高そうな店が立ち並ぶ中の一つに淡い暖色ライトに照らされたレストランがあった。オーガニック料理が売りらしい、オシャレで高そうだ。
「オーガニックかぁ……俺は爆肉飯とかの方がいいな」
つぶやくと由真さんが笑った。
「あはは、さすが現役男子。まぁオレもそうだよ。オーガニックでお腹いっぱいは難しいよな」
由真さんのバイクを降り、バイクは近くのパーキングに停められた。レストランの前……だとガラス窓の中から丸見えになってしまうので、ちょっと離れた位置で店内をのぞくことにした。
さり気なーく見ているつもりだが、通りを歩く人達からすれば怪しい二人組に見えないかが気になる。
「そんな大きくはない店だから、ほら、あそこのテーブル席、見えるっしょ。安月給のオレには手が出せない店だわ」
確かにウェイターも白いシャツに黒いエプロンのきっちりした人だし。テーブルには高そうなワインがあるし。
そして何よりも目につくのは夢くんのワイングラスを手に持つ後ろ姿と。
もう一人は長めの銀髪に線の細い輪郭のスラっとしてきれいな人物だ。
(あ、あれが……夢くんの……)
大人の男性……きれいで、きっとすれ違ったら二度見しちゃう感じだ。
「あの人はね、
「……性格は?」
「あはは、そこ大事だよな。正確はねー……かなりのわがまま、自己中、王子様……やっぱエライ人の血筋だと甘やかされるんじゃない?」
先程、夢くんにかかってきた話を思い返すとそんな気がする。夢くんは自分と“メシを食いに行く”とあの人に話をした。
でも相手はそれをくつがえし、今ああして夢くんとの時間を手に入れたのだ。
(……なんかムカつくな)
あのきれいな笑顔が、裏では人を見下していたりするのかも、なんて……いや、もしかしたらめちゃめちゃ良い人だったりして? ……いや、ないなー、それは。
「……ムカつく? 日々希くん」
ふと図星をついてきた由真さんの言葉にきょとんとしてしまった。
「あはは、顔に出てるよー。ホント、日々希くんはわかりやすいなぁ。でもさチャンスはあるんじゃない? 自分が相手よりも深く愛していて、相手よりも優れているところを見せればさ」
革新的な言葉に思わずうなる。確かにチャンスはあるかもしれない……ただ相手が金持ちできれいというだけで、それを超すハードルは高い。ゲームみたいにレベル上げてなんとかなる相手じゃない。
「あ、夢彦さん、席を離れた。トイレかな」
ハッとレストランを見ると夢くんは相手に何かを話して席を立っていた。
すると相手もイスからスッと立ち上がる……そして、なんと外に出てきた――なんで⁉
「わわ、オレは気づかれるから逃げるねっ」
由真さんは慌ててこの場を離れ、残された自分はスマホを取り出して見ているフリをした。
(な、なんで外にっ?)
予想外の事態に内心ワタワタだ。おかげでスマホ逆さまに持ってるし!
だが怪しまれても困る。意識をスマホに集中させる……何もない、何も起こらない……はず。
「ねぇ、君はaBc学園の演劇科の日々希くん、でしょ。夢彦の親戚の」
心の中で(はぁっ⁉)と返事をする。自分の正体をズバリと指摘された点と、大好きな人を呼び捨てにした点で。特に後者はプラスアルファ、イラッとした……呼び捨てかよ。
スマホから顔を上げると。そこにいたのは今まで店の中にいた、きれいなやつだ。
「クスッ、なに? 夢彦のこと気になって見に来たのかな? さっき騒がしいバカもいたでしょ。中から見えていたよ」
騒がしいバカ……由真さんのことだ。というか見下しすぎ! 予想以上に性格が悪すぎだ!
「さっき夢彦ったら、僕の誘いを断ろうとしたから。なんか怪しいから彼の近辺の変化を探らせたんだ」
この短時間で? さすが金持ち、コネがすごそうだ。
「まぁ、夢彦はね、君に振り向くことは一生ないから。あきらめてね? それじゃ」
軽く手を上げ、鈴城さん――いや鈴城が去っていく。
(……はぁぁぁ⁉)
手に握っていたスマホが、ミシッと音を立てていた。
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