俺の妹は✖✖なのかもしれない

ねこぺろ

第1話 この生き物は尊いのかもしれない

 俺はお兄ちゃんである。名前は二宮真人にのみやまさと、3歳だ。

 父は出稼ぎで日中はサラリーマンを、母は最近具合が悪く病院に行っていた。


 ある日、母が帰ってくると一人の小さな生き物を連れていた。

 小さな人間だった。名前はかなたというらしい。

 毛が生えそろっていない、ずっとギャァギャァと泣きわめくそれは子供ながらに同じ生き物なのか信じがたかった。


 父は以前に木で出来た籠のような中にその生き物を寝かしつけると、俺の体を持ち上げて見下ろせるようにと中の様子を見せてきた。

「ほら、かなた~まさとお兄ちゃんでちゅよ~」

 でちゅ? 何を言ってるんだこの父親は恥ずかしいな。

 「ああー!」

 あ、今俺に向かって笑った! お兄ちゃんが見れて嬉しかったんでちゅね!

「ママ! 今パパって言って笑ったよ絶対!」

 言ってないよ絶対。あと笑いかけたのは俺に向かってだ勘違い野郎。


 短い指を差し出して、その小さな生き物の手を触ってみる。

 ぷにぷにとしたやわらかい感触だった。

 数回つついてやると、指を捕まえるように握り取られる。

(なんだコイツは!? こんなに小さいのに握手を理解しているだと?)

 さも当然かのように笑うだけ、それでも周囲に安らぎと幸せを振りまく存在感。

 これが妹という生き物か。

 いや、もしかしたら他の家の子だとこうはいかないかもしれない。

「か、かわいい……!」

 しかもまだおっぱいを飲んで成長する赤ちゃんだ。

 この子には無限の可能性がまだ存在しているのだ。


 ――うちの妹は天才なのかもしれない。


 ◇◆◇◆  ◇◆◇◆  ◇◆◇◆  ◇◆◇◆  ◇◆◇◆


「なにこの日記、キモチわるっ!」

 数ページだけめくって読むと、かなたはそれを投げ捨てた。見るに堪えなかったのである。

「もう病気だよこれ! 3歳からこんな気持ち悪いシスコン日記作ってるとか救いようがないよバカアニキは!」

「何を言ってるんだ。さすがの俺も3歳の頃に日記をつけようなんて発想が出るわけないだろ。6歳の頃に小学校で出た宿題をもとに思いついたんだ! さすがに3年も   前の事だから、覚えていた記憶しか書けなかったけどね」

「3年間記憶に残ってる方が引くわ!」

「大切な記憶は時々フラッシュバックしてくるタイプなんだ俺は。初めて会った時の事はいまでも思い出すぞ!」

「キモイわ!」


 年は流れて互いに高校生と中学生になった真人とかなた。

 誕生日の装飾をつけていた所だった。

 なぜ関係のない日記なんて見ているのかというと、勉強しようとしたら掃除が捗る的なアレである。集中力のかけたところにいい具合で暇つぶしを見つけてしまったところだった。


「週刊少年ジ●ンプのページを切り取って外装としてカモフラージュしてたのに、見破るとは流石だな。もしかして探偵の才能あったりするんじゃないの?」

「週刊誌のくせに古いんだよ。せめて最新号にしておきな」

 改善策も提示してくれるとは。俺の妹は間違いなく優しい



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の妹は✖✖なのかもしれない ねこぺろ @nekopero

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ