第4-10話 エルフと日本食?

「ホノオ!コレ!超美味ッ!!」



原宿ダンジョン120層の城で保護したエルフの男性との初対面で失敗した炎の仮面冒険者はとにかく彼にダンジョン時代の日本を知ってもらう為、日本食で攻めた。



一番最初に提供したのは大きな葉っぱが印象的でなんかエルフも好きそうと感じた、かしわ餅だった。



エルフの男性は差し出されたかしわ餅を恐る恐る口に入れるとその瞬間、翡翠色の瞳が大きく開かれた。



もちもちした食感に餅の中の漉し餡こしあんのほど良い甘みがエルフ族からしたら衝撃だったようだ。



猫耳族の村の皆や兎耳族の皆もそうだったが、今まで経験した事がないスイーツ甘味が軒並み大好評だった。



美味しい食事を振る舞われて嫌な気になるエルフ?はいないだろうし、このエルフの男性も徐々に警戒を解いた感じだった。




その後、食事以外の時間はグルメ旅番組の動画を見せた。



日本の風景に驚きつつも動画に出てくる食べ物を実際に取り寄せ、食べてもらう事で俄然、日本への興味も沸いたようだ。



そして徐々に日本語も片言で話せるように。



焔霊剣皇イルフェノという通訳役がいたとはいえ元々叡智・博識な存在であるエルフ族は言語習得も難なく熟した。



ただグルメロケに出ている芸人や動画配信者から日本語を学んでいるので若干癖がある。





今日の昼食はテイクアウト可能な天麩羅うどんだ。



【同化】解除状態の炎の仮面冒険者がまずうどんの出汁を味わい、そのあとコシのあるうどんを箸で口へ運ぶ。


そして旨味抜群の出汁を衣にたっぷり染み込ませた天麩羅を堪能する。



「うーん。美味い!!」



有名チェーン店のテイクアウト商品でも顔が綻ぶ美味しさだった。



うどんの食べ方を見せられたエルフの男性もそれを真似して食べる。


箸の使い方ももう問題ない。


鰹だしメインの出汁を口に含むとまたもや翡翠色の瞳が輝く。



「美味ッ!!ウドン超美味ッ!!!」



『水がどうしてこんな繊細ながら味わいある美味になるんだッ!?美味うますぎる!!!ホノオ、二ホンは凄いッ!!!(※イルフェノによる意訳)』



「そうかそうか。ゼランがうどんも喜んでくれて嬉しいよ」




男性エルフの名前はゼランというらしい。


偽名ではなくどうも真名のようだ。



『それほどの大精霊に好かれる人間が悪魔の訳がないからな』



ゼランは今は炎のリス姿のイルフェノが大精霊である事を見抜いていた。


エルフ族として精霊を見極める眼識もあるようだった。



炎の仮面冒険者も【精霊術師】として『精霊に好まれる人物に悪い奴はいない』を信条にクラン運営をしている為、ゼランの言葉を素直に受け止めた。




本来ならもっと友誼を深め、実際に日本観光、食べ歩きグルメ旅だってしたいところなのだが死期が迫っている彼女綾覇の事を考えるとそこまでしている余裕はなかった。




炎の仮面冒険者はゼランに綾覇の病気の事を打ち明ける事にした。



まず最初に日本を始めとするこの地球世界にダンジョンが誕生したのは33年前だという事――。


それからこの世界の人間は何故か権能スキルと魔法が使えるようになり、魔物討伐も可能になったが、魔力に対応できていない心臓の持ち主が存在しており、命を落としてしまう子供がいる事――。



クランの仲間である女の子を助ける事ができないか?とゼランに問う。




イルフェノの通訳の念を通してゼランにもこちらの事情が伝わったようだった。


神妙な面持ちで話を聞き続けたゼランが口を開く。



以下イルフェノによる意訳――。




『エルフ族にそのような魔核疾患の例は存在しないが、私達の世界の人間にもそのような症状が存在する事は知っている。我がエルフの郷に行けば魔力を抑え込み魔核を守る樹雫がその娘の魔核疾患に適応するかもしれない』



「樹雫ってのがエリクサー霊薬になるかもしれないって事!?」



奇跡の霊薬を探すと言っても本当に存在するかも分からなかった炎の仮面冒険者はゼランの言葉に興奮気味だ。



『本来ならエルフの郷の樹雫を人間に提供するなど郷の掟を破る行為なのだが、ホノオに命を救われた以上、こちらもその恩義に報いるは至極当然の事』


『長老に事情を話せば一人分の樹雫くらいの譲渡は認められるだろう』


「ゆ、譲ってもらえるの?」



郷の掟を破る行為と言われた時は絶望しかけたが例外もあるらしく炎は安堵した。




『なにせホノオの救援がなければ、あの女夢魔に精を吸い上げられ死ぬところだったからな』



日本の男性視聴者が聞いたら『なにその最高の死に方』と言い出す人もいるんじゃないかと炎は思った。



『だが別の問題がある』


「え?」


『いつの間にか我々エルフ族の郷もこの世界のダンジョン化に巻き込まれてしまったようだ。我々の郷の外で異変が起きている事をユグドラシル・フィーリア世界樹の一幹から伝えられ、森外調査に出ていた所、【魔族】の強襲に遭い、俺はサキュバスに拿捕されてしまった』



ゼランが120層へ連れて行かれた経緯は分かったが何が問題なのか分からなかった。



『今のこの場所からエルフの郷への戻り方が俺もわからないんだ』


「なんと」



どうもゼランは【魔族】の強襲で仲間を逃がす殿しんがりを務め、最後は【聖蜘蛛の樹繭】という特殊な道具で命を守ったそうだ。


その【聖蜘蛛の樹繭】というのはゼランの全身を瘴気を寄せ付けない聖なる樹の繭で覆う物らしくゼラン本人は繭状態で外部情報を得る事が出来ないまま【魔族】たちに120層の白亜の城まで運ばれ、サキュバスに献上されたようだ。


サキュバスの声の【魅了】で樹繭を放棄されられ、精気を吸われ続けたようだ。




「120層以降の情報は得られず……か」



それでもエリクサーになりうる樹雫の情報をゼランから得られただけでこのうえなく幸いだった。



「じゃあエルフの郷を探しに行くか。121層より下の階層へ!」



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