第4-7話 【悲報】サキュバスさん、配信中毒者にロックオンされる

炎の仮面冒険者の眼前に現れた【城の主】とはサキュバス女夢魔だった。


桃色髪のサキュバスはこちらを憎々し気に見ている。


『――――――……』



なにか呟いてるが普通の日本人である炎には言葉を理解できない。




「サキュバスかぁ。とりあえず【魅了】されなきゃいいんだな?戦闘はイルフェノに任せたからな」



炎は目を閉じ、【魅了】対策として昨日の桂城和奏との一夜を想い出す。



(あぁ~。あのサキュバスよりも桂城さんの方が何万倍もエロかった!!!)




『――向こうはもう闘うつもりはないみたいよ』

「え?」



これから女夢魔と焔霊剣皇との激戦が始まるのかと思いきや、何も起きなかった。



「どゆこと?」

『――【魅了】が効かない時点で向こうの負け。こちらには命を賭ける理由があっても向こうには無いって事ね』

「もしかして120層踏破出来るって事?」



まさかの楽勝展開に拍子抜けしてしまう炎の仮面冒険者。



『――以前の貴方があの女夢魔の【魅了】に耐えられたと思う?』

「無理かもしれないです……」



配信中毒者だった以前の自分があんなセンシティブ妖艶な魔族に誘惑されて耐えきれたかと言われると確かに自信はなかった。




『――あんな女魔族に【魅了】されてワタシとの【同化】を解除されてしまったらワタシにはもう何もできないわ。

それにそんな情けないつがいへの興味も失うでしょうね』



炎の大精霊にもかかわらず吹雪のように激しくもある冷たい声。


イルフェノに見捨てられサキュバスに精気を奪われ干からびて死ぬところだったのかと想像した炎の仮面冒険者は背筋が凍った。



「とにかくフロアボス戦は勝利って事でいいのか?もう目を開けてもいいのか?」

『――いいわよ。御覧なさい』




恐る恐る目を開けば桃色髪で妖艶な女夢魔は若干震えていた。




(ああ~。向こうしたらいきなり城を破壊してくるテロリストのようなもんだしな)



すっかり怯え、戦闘の意志がない者の命を奪う気にはなれなかった。それよりも――。



(サキュバスなんて配信の撮れ高的には最高の素材じゃん!!!R-18チャンネル作って本物のサキュバスによる添い寝ASMR配信とか投げ銭も凄そう!!!!)




――サキュバスに配信中毒者の魔の手が迫っていた。





「それでこれからどうする?121層への入り口を探すのと捕まっているかもしれない獣人の保護か?」

『――念の為、不意打ちで【魅了】を使われても困るからコレを刻ませてもらうわ』


『――――――ッ!?』



女夢魔の下腹部にあった謎の刻印が紅光の霊印に上書きされた。



『――いい?少しでも反抗的な態度でワタシの大事なつがいを【魅了】しようとしたらアナタのその精気を吸う下腹部燃やし尽くすからそのつもりで』




イルフェノの念が通じているのかは定かではないが、その紅光の霊印は自分に破滅をもたらすモノだとは理解したのか、桃色髪のサキュバスは首を縦にブンブン振った。



(120層のフロアボスが自由を奪われた性奴隷みたいな状況になってる……)



実際には配信奴隷にさせられそうなのだが、R-18配信チャンネルを作っての投げ銭勘定をしている時点で自分が奴隷商人とさして変わらない事には気づいていない炎の仮面冒険者だった。



「そ、それじゃまあ、城の中を探索して捕まっている獣人がいないか確認しないと」




炎の仮面冒険者と焔霊剣皇イルフェノは半壊した白亜の城の中へと入っていった。





    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




半壊した左部分とは反対の白亜の城の右部分を探索する。



「なんか思ってるよりも小綺麗こぎれいだな。もっとおどろおどろしいのかと思った。サキュバスの根城だからか」



【城の主】が女魔族だったからか、城の内部は雑然とした感じはなく、荘厳な雰囲気を醸し出していた。



城の通路を突き進むと玉座の間のような場所に来た。




「うわぁ……」



炎の仮面冒険者は玉座の間の光景にドン引きした。


玉座へと続く赤絨毯の左右には天蓋ベッドが20以上あった。


そしてそのベッドには手足を拘束された【魔族】達が恍惚とした表情を浮かべながら露出していた。




「こんなの配信で流せないでしょ……」



天蓋ベッドに磔にされてた【魔族】達が突然燃え出す。



『――ごめんなさいね。あまりにも汚らわしくて見るに堪えなかったの。でもそこにいる獣人まで燃やしてないから安心して』

「え?獣人!?」



唯一燃やされていない天蓋ベッドを見ると確かにそこには狼族?のような獣人がゲッソリしていた。



身長2メートル以上ありそうな狼族の獣人でも精気を奪われ死にそうになっているのを見て、自分もこうなるかもしれなかったのかと炎の仮面冒険者は肝を冷やす。




「麗水ちゃん見てる?」



炎は撮影ドローンに話しかける。



「はい……」



撮影ドローンから聞こえる麗水ちゃんの声にいつもの元気がない。


一人の女性として目の前の映像にテンションダダ下がりのようだ。



「この獣人を助けて移動させる為の冒険者救助用3D-AIロボットを派遣してもらっていい?」

「了解しました」



炎は桃色髪の女夢魔を見る。


突然【魔族】が燃やされ、更に怯えが増している。



「他にも獣人がいるなら案内してくれる?」

『――案内なさい』



イルフェノが念を飛ばすとサキュバスは顔面蒼白なまま翼を動かし、移動を始める。


廊下を進み、サキュバスは目的の場所に辿り着いたのか、ある扉の前で移動をやめた。



その部屋に入ると牢獄のような場所だった。




捉えられている獣人たちは皆、ゲッソリしていた。



「これ20人位いる?」

『――最奥の檻を見て』



イルフェノに促された部屋の一番奥の檻に捕まっている存在を見て炎の仮面冒険者は驚く。



金色の長髪、中性的な美貌。そして人間と異なる尖った耳。




「……もしかしてエルフ?」




檻の中にいたのは男性のエルフだった。例外なくそのエルフもゲッソリしていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る