第3-30話 死なせない

私の名前は綾。


もうすぐ病気で死んじゃう女の子。



ダンジョン時代の今、再生医療の進歩と治癒魔法の合わせ技で部位欠損すら治せる時代になってもまだまだ不治の病は存在する。



自分が病気だと気づいたのは3年前。

入院もした。そこで一人の女の子に出逢った。



私より発症が早かったその子は私よりも若い歳で亡くなった。

同じ症状・同じ病室だった私はその子の葬儀に参列した。



葬儀場では皆、口を揃えて、その子の境遇を『まだ若かったのに可哀想だ』と同情的な言葉を紡ぐ。



別にその子の人生、それだけじゃないでしょ?


私も死んだら【普通に生きられる人達】からこんな風に憐れみを向けられる終わり方なのかなと思ったら――。




――別の死に方したいなって思った。




だから冒険者の道を選んだ。


このダンジョン時代、自己責任の名の下に冒険者がいくらでも命を失う世界。



どうせ死ぬなら勇敢な死がしたかった。

『あの子は凄かった』と皆から言われて死にたい。


あの黒竜騒ぎは私からしたら最高のシチュエーションだった。

配信冒険者仲間の女の子たちを守る為の玉砕。




でもそれは阻止された。アルパカ頭の炎の仮面冒険者の登場によって。そんな事ある?



私は【死んだ勇者】じゃなくて【生きてる英雄】になった。もうすぐ死ぬのに。

まあ生き長らえて脚光を浴びるのも案外悪くなかったよね。素敵な想い出にはなったから。



だから炎さんにも感謝はしないといけないのかもしれない。でも無理。

あの人の存在、そのポリシーが最高に不愉快。




『配信中に女の子が死ぬのを見たくない』?




こっちは皆から凄いヤツだったって思われながら配信中に冒険者として死にたいのよッ!!!!!!




   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「綾覇が病気で死ぬ?……」

「そんな……」

「嘘……だよね?……」



碧偉、龍美、清楓――【黒猫ハーバリウム】の3人は綾覇から初めて聞かされた話に絶句した。



「ごめんね。黙ってて。でも打ち明けた所で何も解決しないし、死ぬまで皆から同情・心配されて生きていくなんて嫌だったの。許して」


「治る見込みはないの?」


マネージャーの野河南月は綾覇に病気の詳細を尋ねる。



「【魔力心臓マナハート】は部位欠損修復魔術でも再生不可能なのは皆も知ってるでしょ?」



【魔力心臓】という言葉は周囲に事態の深刻さを伝えるには十分すぎた。



血液の循環機能を果たす臓器だったはずの心臓はダンジョン時代の到来と共に魔力も体内に循環させる機能まで上書きされていた。


だが、その魔力循環に適応できない心臓も稀有症例レアケースとして存在したのだ。




「私は【魔力心臓疾患者】なの」

「綾覇がそんな……」


【魔力心臓疾患者】は心臓に異常が見つかってから5年以内に亡くなるとされる重病だ。彼女が症例宣告を受けたのは3年前。



「そんな目で見ないでよ……見ないでって言ってるでしょッ!!!」




全身から生気が抜け、骸のようだった彼女は自身の【運命】を白状させられるとともに自身の境遇への怒りが沸々と込みあげ、仲間達からの憐憫の視線に耐え切れず感情を爆発させる。


その部屋に優雅に飾られていた紅い花のハーバリウムを掴んだ彼女は壁へと投げつける。


硝子瓶の破砕音が部屋に響く。




「綾覇ッ!!!」

綾覇ちゃん、やめてッ!!」

「綾覇ちゃん落ち着くんだッ!!」




全員で制止しようとすると彼女の怒りの矛先は自身の哀願を邪魔した男に向かった。



「なんであの時、私を死なせてくれなかったのよッ!!!私が黒竜に玉砕してから皆を助けなさいよッ!!!」

「全員助けるに決まってるだろ!!!」



彼女の憤懣に気圧されぬよう炎の仮面冒険者も声量を上げる。



「病気で死ぬのが決まってる人間なんだからどう死んだっていいじゃない!死に方くらい自分の好きに決めさせてよッ!!!病気で『あの子は可哀想だった』なんて思われて死ぬのは絶対に嫌ッ!!!!だから有名な冒険者になってアイツは凄いヤツだったって思われて死にたかったのに!!」



彼女が冒険者になった悲しすぎる動機に碧偉も龍美も清楓も涙を流す。



「君は強い子だよ……」



炎もそれしか言葉を紡げない。



「何処の誰かも分からない猫なんかからそんな言葉欲しくないッ!!何なのよ!【誰も死なせないクラン】って!だったら私の事も死なせないでよッ!!!!」



彼女が口にしたその言葉に男は決心した。



「イルフェノ」

『――そうね』




炎の猫が大きく燃え上がる。


そしてその燃え上がった炎が消えるとそこには日本中のどこにでもいそうな成人男性がいた。



「貴方が……炎さん?」



【黒猫ハーバリウム】の4人もマネージャーの野河南月も大きく目を見開き、驚きを隠せない。





「綾覇ちゃんは本当は死にたくないんだよね?」

「生きられるなら生きたいに決まってる……皆と一緒にずっと楽しく冒険したい……」



涙と共に零れ落ちる彼女の本音……



男は彼女を優しく抱きしめる。



「――だったら俺が探すよ。エリクサー。ダンジョンの全階層を踏破してでも。絶対君を死なせない」



男は彼女の命を救うべく、覚悟を決めた。





______________________________________



配信冒険者だった主人公が彼女達に正体を明かし、踏破ガチ勢に転向するところで第3章完結となります。



第4章は【霊薬を求めて……エルフの郷へ編】となります。


前話のコメント欄でも【こんなんエリクサー探すしかないやん】でしたね。主人公も同じ発想です。


そんな都合よくエリクサー見つかるの?また来たよご都合主義小説!と思われる読者様もいらっしゃるかもしれませんが基本この話はハッピーエンドで終わりたいと思ってるのでご容赦下さい。




そして御報告なのですがこの【炎の仮面冒険者】は初期ヒロインの彼女の問題を解決できたところで【第一部完】として一旦完結とさせていただく事にしました。


完結を決めた理由といたしましては


・時間がかかってしまっても自信をもって更新できる5章を書きたい

・構想はあったもののストック無しのほぼ即興で書いてしまった2章・3章をもっと面白くできなかったのか一度見直したい



面白くと言ってもあんまりネタに走り過ぎても読者の皆さんがシラけてしまう?やっぱり1章部分くらいのバランスが一番良かったんだろうなと肌で感じております。


更新がスローペースになってしまっても今でも最新話まで追いかけてくださっている読者様には本当に感謝しかありません。ありがとうございます。


【第一部完結まで頑張って!】と★評価&フォローをしていただけると本当に作者の励みになります。頑張れます。


多くの読者様から★評価&フォローをしていただけた【炎の仮面冒険者】で詳しくは言えませんがこの3章更新中に人生で初めての経験をさせていただけた事も改めてお礼申し上げます。



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