第3-22話 謎の剣聖現る

「俺に会いたい剣士?」



原宿ダンジョン70層のクランマスタールームで配信視聴を嗜んでいた炎の仮面冒険者に対し、今ではクランマスターの秘書的存在となった戦闘用3D-AI――【海咲ちゃん】がクラン加入希望者の存在を伝える。



『――はい。マスターに直接会って見極めてもらいたいとの事で51層エントランスロビーにてずっとお待ちいただいております。精霊認証によりクランへの害意もないと判断されました』


「でも最近多いんだよなぁ……マスターに会わせろ!的な押し掛け冒険者」



【他クランの有力冒険者は引き抜かない】と明言しているのでその上で突然押し掛けてくる冒険者は全員が全員、お世辞にも素晴らしい冒険者とはいえない状況であった。


志望動機は人それぞれだが、やっぱり新階層を日本中に披露してから集まってくる冒険者にはひとつの傾向があった。




「【海咲ちゃん】から見てその人、凄い冒険者ぽかった?」

『――測定不能でした』

「測定不能ッ!?」



AIに測定不能と判断されたその剣士に対して、撮影ドローンを稼働するつもりは無いが【これは撮れ高ありそう!】と興味が湧いた炎の仮面冒険者は面会する事にした。




原宿ダンジョン51層――クラン【炎麗黒猫】エントランスロビー。


剣士を名乗ったその人物に好奇の視線を寄せるクランメンバーが数十人。



『――あの方です』


炎の仮面冒険者はその人物を見た。


「これまた強烈な……」




目の前には正座し瞑想しているバニーガール兎耳美女がいた。


全身うさぎで顔だけ見えるモコモコな部屋着のような衣服を身に纏った彼女。その顔貌も桃色のマスクで半分以上隠されている。


明確に【兎耳うさみみ族】の子達に逢いたくて来ました感がその全身から溢れていた。



そう。最近の【炎麗黒猫】はケモナー冒険者が殺到するようになったのだ。



多分バニーガール剣士の彼女に喜んでもらえるだろうと炎の仮面冒険者は【兎耳うさみみ族】の姿に変身した。




「貴殿が仮面冒険者――炎殿か?」



睫毛の長さがわかるその両眼を閉じたまま、バニーガール彼女はそう問う。魔力の気配を察知したのだろう。



「初めまして。名前をお聞きしても?」

月野餅不和吐露つきのもちふわとろ――かな?」

「冒険者名という事ですね(モロ偽名だし。それにふわとろの当て字が不穏!!)」

「流石日本最高峰の冒険者。理解が早い」

「月野餅さんは兎耳族の子達に逢ってみたいんですよね?」



その言葉に正座での瞑想状態をまだ崩していなかった彼女が【一瞬消えた】――。



そして炎の仮面冒険者の眼前に突然彼女は現れた。




(は?)



炎は剣士を名乗った彼女がもしその手に剣を握っていたら斬られていたと背筋が震えた。

その予兆の無い移動だけで炎の大精霊すら斬ってみせる凄味を感じさせた。


彼女の瞬間移動に周囲のクランメンバーも動揺する。



「おいおい。あれ【縮地】スキルじゃね?」

「【縮地】って上位剣士職のスキルだろ?」

「剣を構えた状態ならまだしも正座したまま【縮地】って……もう【剣聖】に到達してるんじゃね?」

「【バニーガール剣聖】……」



クランメンバーの誰かがそう零したのを炎は見逃さなかった。




(ウチのクランにはまだ剣聖ポジがいなかったけど【バニーガール剣聖】かぁ。まあそれもウチらしいのかな?まだ【炎麗黒猫】に加入するかも分からないけど)


そんな思案をしていたら、未だに両眼を閉じたままの彼女は自分が無礼を働いてしまったと思ったのか



「ああ。失礼。突然こんな距離の詰め方をされたら不快に思われて仕方ないか。つい興奮してしまって。誠に申し訳ない」




謎の剣聖――月野餅不和吐露は懇切丁寧に頭を下げた。




「いえ。素直に驚きました。今の距離の詰め方だけでも凄い修練を積んだ方なんだなって」

「ふむ。スキル権能の恩恵だと感じてもおかしくない【縮地】だったが修練と見たか」

「スキルなんですか?」

「まあユニークスキル天稟と修練、半々かな?」


「今までどのクランにも属さず冒険者剣士を続けてきたんですか?」

「地域の方からの救援依頼を受けた時しか魔物は斬らない信条でやってきたからな。冒険者としてはほぼ無名だったんだ。自然の中で兎たちと野を駆けあうのが好きな性質タチでね」


「そうなんですね。(ガチの兎好きさんなんだな)」

「それでその……私は兎耳族の子達と逢わせて頂けるのだろうか?も、勿論、タダでとは言わない。そうだな。礼として炎殿をはじめ、剣の腕を昇華させたい方達に剣の指導をさせて欲しい」



「剣の指導ですか?」

「うむ。貴殿の映像を見せてもらったが、剣の腕はまだまだ発展途上だと感じた。だから少しでも助力できればと思ったのだ」



既に【炎麗黒猫】でも剣の達人を招いて指導をしていただく機会を作ってはいたので【バニーガール剣聖】にはそれ以上の剣指導をしてもらわないと兎耳族の村へ連れて行く見返りとしては弱かった。



「剣の素人が【縮地】の習熟なんて流石に出来ないですよね?」

「疑似的な【縮地】で良いのであれば教えられない事もないが?」

「本当ですか!?」

「では。剣の指導を報酬礼として私を彼女達に逢わせてくれると交渉成立でいいのかな?」

「了解しました。じゃあ準備出来次第、兎耳族の村へ一緒に行きましょう。あのぅ。いつまで目を閉じてるんですか?」



「私が次に目を開く時は彼女達うさみみに逢った時だ」


「そうですか……(どんだけ楽しみにしてるの!?目を閉じたまま、101層以降に挑戦するのかこの人。これが剣聖……)」



こうして【バニーガール剣聖】と行く兎耳族の村訪問が決まった。


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うさみみ回も欲しいという読者様がいたので書いてみました。

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