第3-9話 これも職場恋愛?なクラン会議

東京港区某所――。大手配信冒険者事務所【研能】オフィス。3階第一会議室。


本日はこの会議室で【炎麗黒猫】定期活動報告会&指針検討会が行われていた。




「総務省中央選挙管理会から馳せ参じました遠山奈臣とおやまなおみです。ダンジョン関連の事柄には無知を晒し、ご迷惑をお掛けしてしまうかもしれませんが何卒宜しくお願い致します」



ややウェーブのかかったショートヘアの美貌の持ち主が挨拶の後、会釈をした。


炎の仮面冒険者が提言した【コア破壊選挙】はSNSを中心に盛り上がり、政府としても無視できず、実施検討の為の情報収集として総務省所属の彼女がこのクラン会議に派遣される流れとなった。



遠山奈臣も当然、炎の仮面冒険者の事は国政に携わる人間のひとりとして詳細にチェックしていた。


だが初めて見る炎の仮面冒険者の姿に戸惑いを隠せなかった。



(なんで宇宙服着てるの!?猫ちゃんのハーバリウム姿じゃなかったの!?)




そう。今日の仮面冒険者の姿は今までの炎の猫のハーバリウム姿ではなかった――。


炎の猫耳獣人の状態を維持しながらスプリンクラー対策で宇宙服を身に纏った仮面冒険者が会議室の上座の位置にあたる椅子に座っていた。



炎の仮面冒険者は皆に慣れてもらう為にこれからは猫耳獣人の姿がデフォになるかもしれないと語った。



しかし男の目的は宇宙服姿の方にあった。何故なら――。




(いつもの姿のままじゃ桂城さんの事、ガン見して相手が桂城さんだってバレる!だから首が動かし辛くてマスクで視線も読めないようにする為の宇宙服!)




男は初めて経験するある種の職場恋愛にまたもやパニくっていた。



普通なら「炎さん!それじゃ猫耳獣人さんの姿がわかんないですよー!笑」と麗水ちゃんあたりからツッコミが入ってもおかしくないのだが。


なにをかくそう宇宙服(首が動かないヤツ)を用意したのは麗水ちゃんである。



当然、炎の仮面冒険者のダンジョンチャンネルの配信協力者モデレーターを務めている麗水ちゃんもクラン会議に参加している。



池袋ダンジョン配信の後、あの大氾濫ダンジョンを鎮めた夜の出来事を桂城和奏から根掘り葉掘り聞きだした麗水ちゃんはニヤニヤが止まらない。



一方の桂城和奏も炎の仮面冒険者へ視線が向かないよう、視線を下に落とし、書類に目を通しているが、彼女の耳元はほんのりと紅い。





「流石マスター。ニウちゃん達の為の配慮、素晴らしいです(慣れてもらうって事は生ニウちゃんとの御対面も近いのよね!きゃあー!!)」


マスター全肯定クランメンバー・【孤姫】――雅乃鈴はナチュラルに絶賛し、ツッコまない。


当然、彼女は猫耳っ娘ニウの配信チャンネルでも余裕で億スパだ。




「マスターの挙動は全て【炎の仮面冒険者として】必要な事なのだろう。主の意図に口を出すのは野暮というモノ」



元極道のSランク冒険者・【獅剛】――藤嶌信ふじしまあきらもツッコまない。


Sランク冒険者という地位を得てから女に不自由した事がないアキラは既に炎の仮面冒険者と桂城和奏の関係に気付いてしまった。


2人がバレバレだったのではなく、その2人を交互に見ながらニヤニヤしているプラチナブロンド碧眼美女の天才開発者を見てアキラは色々察した。


恋愛要素における麗水セキュリティはガバガバだった。


会議終了後、アキラから麗水セキュリティの脆弱性を指摘された炎の仮面冒険者は麗水海咲のクラン会議出禁を決断した。



(流石マスター、あの美女を既に身籠らせているかもしれないとは……)


元極道さんのクランマスターへの心酔度がまたもや爆上がりしていた。



この2人がこう発言するともはや誰もツッコめない。




(誰も動じずツッコまない……これが【炎麗黒猫】……)



総務省の遠山奈臣は自分の仕事に専念する事にした。








本日のクラン会議で議題に挙がったのは――。



・N県北部の大氾濫ダンジョンでの顛末をマスターが説明


・そろそろ【炎麗黒猫】の拠点を用意すべきか?


・【炎麗黒猫】に寄せられた依頼の吟味・優先度議論


・クランマスター&Sランクメンバーで100層踏破すべきか?


・第2回ダンジョン歌枠関連。送られてきた新曲音源の鑑賞会・感想交換


・今伸びてきているクランメンバー冒険者の確認作業


・総務省による【コア破壊選挙】に対するSランク冒険者勢の意見のヒアリング




他には――。




「マスター。この【模擬訓練試合・炎麗黒猫杯?の実施】とは?」



Sランク冒険者の一人、シンジこと初瀬慎嗣はせしんじが質問する。



「知っての通り、ダンジョン101層から魔族との戦闘も始まる。対人戦闘の熟練度の上昇をクランメンバー同士の模擬戦で補えないかと思って。どうせならトーナメント方式の方が皆燃えるかなって」



「その【炎麗黒猫杯】にはマスターも参加されるのですか?」



「まあ。今まで社畜として生きてきて対人戦闘経験なんてほぼ皆無だから。むしろ皆に色々教えて貰いたいくらいだよ。皆、俺と模擬戦したかったりするの?火力ゴリ押しを封じられたら雑魚だと思うよ?」




マスターとの模擬戦に興味津々だったSランク冒険者たちはこれまでの炎の仮面冒険者の戦いぶりを思い出す。そしてその結論は――。



「そうですね。【精霊術師マスター】が普通に戦ったら……かもしれないですね」



実はその一言で密かに心に火が付いた炎の仮面冒険者だった。






クラン会議が終了し、解散となる。



「あのッ!炎さん!!」



会議室から出た直後にそう話しかけてた来たのは【黒猫ハーバリウム】の碧偉だった。



「久しぶりだね?どうしたの碧偉ちゃん?」


「あの。少しでいいんでお時間頂けないでしょうか?……」


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