第3-7話 重大発表にはドラムロールを添えて

炎の仮面冒険者による池袋ダンジョン配信は再度待機画面となっている。



:ああ。猫耳村のターンが終わってしまった……

:俺、燃え尽きたよ……

:短かったな……俺の青春

:【雅乃鈴】にゃー(号泣)

:【鳳薫琥おおとりかおるこ】にゃー(血の涙)



早くも猫耳ニウロス状態に陥った人達でコメント欄が阿鼻叫喚となり、いたたまれなくなっている。




:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】ケモナーの皆さん、出来るだけ早く配信チャンネル開設の準備をしますので元気を出して下さい。それでは配信再開となります。



配信画面に映るのは変わらず猫耳の獣人姿の炎の仮面冒険者。




「今はまた池袋ダンジョン100層に戻ってきています。どうやってそれを証明するかというとこの扉の先にダンジョンコアがあります」



:ダンジョンコア!

:日本でコアを拝める日が来るとは……

:なんか海外ニキも増えてきてるな

:猫耳パワーは国境を越える



今では配信の同時接続者数は500万人を超え、コメント欄も様々な国の言語が飛び交い始めている。



そんな事になっているとは露知らず、炎の仮面冒険者はダンジョンコアがあるという部屋へと入っていく。



部屋に入ればその中心部には禍々しい瘴気に包まれてた球体――。


このダンジョン魔窟の心臓を体現するかのように時折紅く明滅しながら脈動している。


コアから生じた瘴気が部屋の天井へと吸い込まれたかと思いきや、今度は瘴気の雫が天井からダンジョンコアへと滴り落ちる。



:【鳴桜真月】これがダンジョンコア……

:これ壊せば池袋ダンジョンの100層も機能停止するって事か

:もう今壊しちゃってもいいんじゃないの?



日本人の大多数が【ダンジョン殲滅派】となった現在、コメント欄も当然『コアを壊せ』の大合唱となる。



「不規則氾濫により崩壊寸前だった原宿ダンジョン、N県北部の大氾濫ダンジョンのコアは俺が破壊しましたけどこのダンジョンコアをどうするかは日本で生きる皆さん全員で話し合って決める事だと思っています。一応民主主義国家なのでその土地その土地で住民投票する事になるんでしょうか?」



仮面冒険者の提案に視聴者達は皆驚く。



:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】コア破壊選挙……


:ダンジョンコアを壊すかどうかの住民投票?

:そんな展開来るの?

:申し訳無いが初めて選挙に興味が湧いたかもしれん

:そりゃ自分達の命がかかってるからな

:国会議員とか知事を決めるいつもの選挙って自分の一票で何かが変わるって思えないんだよな

:それな



「今ではもう冒険者として生計を立ててる方もいるので、コアの破壊に関しては自分は中立を貫き、皆さんが出した決定に従います」



:炎の立場だとそうなるのか

:多分その気になったら日本の100層ダンジョンコアを全部破壊出来るんだよなこの人

:日本国民からは感謝されるけど冒険者達からは恨まれそう

:でもダンジョンは100層で終わらないんだから冒険者という職業がなくなる事はないだろ

:101層にいけるのなんて高ランク冒険者だけだから

:日本の冒険者の大部分は浅い階層で生活費稼いでるんだよ



「最後は自分の最高到達階層ともうひとつの自分が知ってる東京のダンジョンの真実を発表した後、それを皆さんの目で確かめてもらって今日の配信は終了したいと思います」



:炎の仮面冒険者の最高踏破階層だとッ!?

:実はもう200層まで攻略してるとかないよね?

:東京ダンジョンの真実って何?

:衝撃のカミングアウトきちゃう?



「麗水ちゃん!ドラムロール、カモン!!」



炎の合図と共に配信画面上にドラムロールの演出と音源が流れ始める。



:なんだなんだ?

:これ前から準備してたのかよw

:ホント毎回ノリが軽いんよ



ジャララララララララララージャン!!



「仮面冒険者の炎の最高到達階数は――120層ですッ!!」




:120層か。

:どうなんだ?

:200層とか言い出しそうな雰囲気もあった割には微妙ってカンジ?

:それ周りが勝手にハードル上げてただけじゃね?



「微妙に感じる方の方が多いと思いますが、この仮面冒険者、元々女性配信冒険者が死ぬのを見たくなくて冒険者を始めたようなヤツなんで」



:強烈過ぎて忘れてたけど原点がそこなのよねこの人

:むしろその動機でよく120層まで行けたな

:アルパカだった頃が懐かしい(遠い目

:彗星の如く現れたアルパカ仮面が炎のベビーカーになって100層踏破(映像提供自粛)します

:もう字面が何をどう間違えたのか意味不明な伝言ゲームみたいになっとる


:【結論】精霊がパネェ

:ハズレ職扱いだった【精霊術師】をブレイクさせた功績は計り知れない



「それに【東京ダンジョンの秘密】を知ってしまったんでそれより下の階層へ挑戦する理由がなくなったというのもあります。もう想像できた人もいるかもしれませんが」



再び配信画面上にドラムロールの演出と音源が流れ始める。



ジャララララララララララージャン!!



「【東京都内のダンジョンは全て120層で繋がっている】というのが炎の仮面冒険者が伝えられる真実です」




:え?東京のダンジョンて全部繋がってるの?

:じゃあもっと下の階層に行けば日本のダンジョン全部繋がってるとか?

:下手したら海外とも繋がってるかもしれん

:とんでもない爆弾発言きた




「というわけでこれから120層まで一気にくだって、池袋ダンジョンとは違うダンジョンから地上に戻る所を皆さんに見てもらって今日の配信は終了とさせていただきます」



すると炎の仮面冒険者は別の姿に変貌する。


4本の角を生やし、蝙蝠のような翼を広げた【炎の魔族】となり、その右手には真紅の大剣。



:【魔族】にもなれちゃうんかいッ!

:猫耳姿だとあの村が【魔族】の報復対象になっちゃうからか?



【炎の魔族】は階層踏破者のみが使えるショートカット用の螺旋階段から一気に120層へと進んでいく。


途中で遭遇した【魔族】たちは自分達と同じ姿の存在に戸惑いを隠せないまま真紅の大剣で両断され、灰燼に帰した。



そして到達した120層――。



そこには荘厳なる白亜の巨城を囲むように城下町と外壁が存在する城塞都市が存在していた。




:【鳴桜真月】ここが120層……

:【鳳薫琥】古代都市みたいな場所やねぇ

:【雅乃鈴】あれは魔族の都?



一般視聴者たちが息を呑み、コメントする指を動かせなくなるような【魔族の城塞都市】の圧倒的な存在感。





「御覧の通りです。此処が120層で、あの城の主であろうフロアボス――。実は俺も知りません」




:どういう事?

:炎が知らないって……




「契約している精霊から止められてるんだ。【命を賭けるだけの理由がある訳でもないならあの城の主とは対峙しない方が良い】って」

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