第3-1話 昨夜は倍お楽しみでしたね
朝、男は目を覚ます。
一晩愛し合った相手がいない事に男は気づく。
「あれ?桂城さんは?」
『――ワカナなら貴方が眠ってる間に一人で帰ったわよ』
「え?この戦闘車両どうすんの?俺が運転すんの?」
『――この移動魔導具、勝手に目的地へ動くみたいよ。凄いわね』
男は炎の大精霊の言葉から車両がわずかに揺れている事に気付く。
「もしかしてこの車両今走ってる?自動運転って事?」
『――ワカナが何かいじったら動き出したわよ』
「たしかこの戦闘車両って麗水ちゃんの所有物なんだっけ?麗水テクノロジー凄ッ」
男はベッドから起き上がろうとするとまだ身体から気怠さが抜けておらず、身体がとにかく重い事に気づく。
大氾濫ダンジョン攻略での消耗以上に、男から体力を奪ったのは――。
「……桂城さん、凄かった」
『――確かにいい夜だったわね。抱く方も抱かれる方も楽しめたわ』
焔霊剣皇イルフェノは途中から彼女にも憑依し感覚共有する事で人間の女の悦びを味わったらしい。
「精霊ってすげぇな……」
【昨夜は倍お楽しみでしたね】なイルフェノに男は呆れ気味に感嘆する。
昨夜の事を想起すると男の顔が熱くなる。ただ気になる事がひとつ――。
「避妊具ってあんな簡単に破けるもんなの?まあ桂城さんは【大丈夫な日】って言ってたけど」
『――まあそれは貴方の
「は?」
男の背筋が凍った。
『――貴方の胤から天恵を授かったと分かったら確実に産むと思うわ』
「嘘だろ!?桂城さんが魅力的過ぎて俺、何回も……」
『――ワタシの
「精霊剣皇の直々の加護かよ」
「桂城さん、何でそんな嘘を?……」
『――兄の死を受け止め、それでも前を向いて生きていく為に【新しい家族】が欲しくなったのかもね』
「新しい家族……【最高に男の人に愛してもらいたい気分】ってそういう事?」
『――ワカナの名誉の為に言うけど流石に好きでもない男の胤なんか欲しないわよ?それに男の胤をその身体に受け止めたのは貴方が初めてみたいよ?』
男は彼女が急にキス魔になったタイミングを思いだす。
「女の人って凄いな」
『――逞しいわね』
「じゃあ一応俺と桂城さんって恋人になったんだよな?それどころかもしかしたら父親母親になるかもしれないんだから」
男としては自分があれだけの美女とそういう関係になったのは今でも信じられなかった。
配信中毒者であるこの男の恋愛経験といったら中学時代に隣の席の
かろうじて生まれてこの方彼女がいた事が無いという状況を回避させてくれた女神・舞彩ちゃんは男の中で今でも神格化されている。
『――貴方には残念な報せになるけど、ワカナからの
「桂城さんから?何?」
『――【私が頻繁に逢いに行くことで炎さんの正体が明るみになり迷惑をかけてしまうのは避けたいのでしばらく逢うつもりはありません】ですって』
「……(絶句)」
昨晩からの嵐のような出来事の連続にとうとう男の思考が追いつかなくなりパンクした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――数日後。
政府よりN県北部の大氾濫ダンジョンが機能停止したと発表された。
ダンジョンから半径30~50キロ圏内に該当する予備避難区域への避難命令は即刻解除され、
――誰が大氾濫ダンジョンを鎮めたのか?
日本の冒険者でそれが可能なのは現状一人しかおらず、多くの日本国民はそれを炎の仮面冒険者の功績とした。
炎の仮面冒険者の公式アカウント――【@炎麗黒猫の代表の猫】にはN県北部の魔物災害に遭った人達からの感謝の言葉が殺到した。
仮面冒険者――炎もそれを否定せず『7年前の大氾濫の際には自分は何も出来ませんでした。大変申し訳ございません。今更かもしれませんが少しでもあの大氾濫で苦しんだ方達のお役に立てたなら幸いです。そういった方達からの
この出来事が発端となり、日本国民の大多数が【ダンジョン殲滅派】となる。
その流れを良しとしない人物たちによる思惑により、ある情報が週刊誌にリークされ、また日本中が大騒ぎとなる――。
『――日本のダンジョンは100階層で終わりでなく、最低でも120階層までは存在する』と。
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更新を再開させていただきます。第3章【新たな階層へ編】です。
桂城さんとのイチャラブが始まるのかと思いきや通常運転に戻るのがこの話。
結局一番美味しい想いをしたのは人間同士の愛し合いに興味があったイルフェノでした。
主人公とのこどもが欲しくなった桂城さんの願いに叶えるために避妊具を熱で溶かしちゃったのもイルフェノです。
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