第2-24話 慰謝料請求されました

桂城和奏が乗っている特殊戦闘車両は大氾濫ダンジョンから5キロほど離れた場所で待機していた。


砂塵舞う荒野でダンジョンが存在する場所の方向から微かに見えた人影に和奏は慌てて車両から飛び出る。


N県北部での悲劇に終止符を打った男が和奏に話しかける。




「終わりました」

「……はい」

「酷な事を言いますがあのダンジョンが潰れても桂城さんのお兄さんは帰ってきません」

「……分かってます」

「桂城さんのお兄さんは誰かを守る為に命を賭けられる凄い方だったと思います」

「―――ッ!!」

「冒険者として心から尊敬します」



炎の仮面冒険者の言葉に彼女の潤んだ瞳から大粒の涙が溢れだす。



「兄さん……兄さん……」



乾ききった地面が彼女の涙を受け止める。



「にぃさああああぁぁぁぁあん!!!」



彼女は砂の荒野に膝につき、この7年間の想いを吐き出すかのように慟哭した。





    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





既に陽が落ち、2人は特殊戦闘車両の中に場所を移す。


車両内に備え付けられている折りたたみ式ベッドを展開し、2人はそのベッドの上に腰かけ座っている。



まだまだ彼女の涙は収まりそうにない。



どうしたものかと男は耐え切れなくなり、慰めるつもりで彼女の背中を優しくさすろうとした瞬間――。


男の手が自分に触れた事に気づいた彼女は突然男に抱きついた。

まさかの展開に男は驚きを隠せない。



「え?ちょっと?桂城さんッ!?」

「炎さん、今私の事慰めてくれようとしましたよね?」

「はい」

「慰めてくれませんか?激しく」

「ちょっと日本語おかしくないですか?」

「だったら解りやすく言いますね。私今最高に男の人に愛してもらいたい気分なんです」

「この場に男は俺しかいないんですけど」

「そうなりますね」

「そうなりますねって……」


和奏からの求愛に男は激しく動揺する。


「誰にでもこんな事言うオンナじゃないですから。今はもう炎さんにしかこんな事言えません」

「ど、どうして?」

「私、貴方と出会ってからSNSで【防衛省のどちゃくそエロいお姉さん】とか【一戦致したい】とか酷い言われようなんですからねッ!!」

「す、すいません」

「街を歩くにも変装しないと安心できないんですからッ!!」

「本当にごめんなさい」

「面識のない男性から話しかけられると【お前も私と一戦致したいのかカス】と思ってしまうようにもなりました」

「……(絶句)」



SNSを通じて炎の仮面冒険者の被害者が誕生していた事に男は固まる。



「すっかり男性不信になってしまったので慰謝料を要求します」


「い、慰謝料?」

「抱いてください」

「それ慰謝料になりますかッ!?」

「とにかく責任取って下さい」

「せ、責任……」



『――つがいよもう観念なさい。この娘は本気よ』

『でもいきなり抱くって……こういうのは段階が大事なんじゃ?』

『――逢瀬を重ね、手を繋ぎ、抱擁し、接吻キスして、カラダを交わらせていくという冗長な過程はオス側からのお前を大事にするという意思表示であってメスが抱いてくれと言ってるならそんなまどろっこしい事せず抱けばいいのよ』

『ええ……』


オスメスで表現されたイルフェノの言葉の生々しさに男は引いている。



『――貴方は逢瀬など重ねずともその娘にそう言わせるだけの事を十分してきたと思うわよ。その娘は貴方の内面、生き方に惚れ込んだのよ』

『内面……生き方……』

『突飛な姿しか見せてこなかったのに外見で判断されてると思うわけ?』

『それは確かに』

『――ひとりの若女が抱いてくれと言ってるの。男がそれを拒絶するのは美徳でもなんでもないわ。恥をかかせ深く傷つけるだけ。抱きなさい』

『わかったよ』



イルフェノに諭され男の決意は固まった。



「……本当に俺でいいんですか?」

「はい。今はもう貴方しか考えられません」

「情けない話ですけど俺――」

「そんな事、気にしません」

「じゃあ失礼します」



男はずっと抱きついたまま離れなかった彼女を強く抱きしめ返した。



「あぁ……」



より密着した状態となり、受け入れられた悦びが混じった彼女の吐息が男の右耳にかかり、男の理性は吹き飛びそうになる。




――男はこの夜、その生涯で初めて女性を抱いた。





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お兄さんの弔いを果たした桂城さんとの一夜を過ごしたところで第2章完結となります。28歳と24,25歳の男女の話なのでこういう展開もあります。


1章部分が終わった際のコメント募集で野河マネージャーとの恋愛展開を期待されていた読者の方には申し訳ないのですがこの主人公、芸能事務所に勤めている美人に対して自分からアプローチするメンタルなど持ち合わせておりませんし、誰かと付き合いたいが為に正体を明かすような恋愛脳でもなかったです。


なのである意味炎の仮面冒険者の一番の被害者?な桂城さんに求められるままに――という展開になりました。桂城さんに強引に迫られたように感じる方もいらっしゃるかと思いますが、実際は配信画面ばっかり見てる主人公の日常に思う所があったイルフェノが桂城さんを焚きつけての結果です。


多分現時点で炎の仮面冒険者の正体を知っているのは、時には天才ハッカーにもなる麗水(よす)ちゃんと桂城さんの防衛省の女性コンビ2人だけです。桂城さんとはカラダを重ねた関係に。




第3章【新たな階層へ編】は1週間くらいお休みをいただいてから更新予定です。


最新話まで追いかけてくださっている読者の皆様には本当に感謝しかありません。

【これからもこの話の続きが読みたい】という方は★評価&フォローをしていただけると本当に作者の励みになります。もしよろしければお願いします。


それと実際に投稿してみて読者の皆さんからの反応・御意見を頂いてみないと分からない事もやっぱりあると思ってます。ここは好評だった、ここの部分は良くなかったかもしれない、そういう反省点も今後に活かすつもりです。


なのでもしよければ読者の皆さんの【この話を読んでみて一番面白いと感じたポイント】を募集させていただきます。

【主人公のCMデビューがインテリア役だった】が一番面白く感じたという方のコメントを見て、そこなんだ。と気になってしまいました。


コメントお待ちしています。



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