第2-16話 【歌斬】の少女
私の名前は
本名は
私の夢は歌手になる事――。
子供の頃から歌が好きで歌唱力にも自信がある。
でもどうやったら歌手として成功できるかわからないから芸能関係にも強い大手配信冒険者事務所【研能】のオーディションに応募した。
少女冒険者は全員合格させて貰えるらしいって聞いたから【炎麗黒猫】ってクランのオーディションに応募したんだけど。
歌手を目指すのに冒険者クランに入ってどうすんの?って言われそうだけどダンジョン時代。私にもスキルがある。
歌が好きだからか【歌斬】というスキル。
そんなスキルを授かって生まれたから歌が好きなのかは分からない。でも歌が私にとっての生き甲斐。
「君と見た夢を~」
ダンジョンで魔物に向けて私が歌うと斬撃が迸り、魔物を両断する。
これがスキル【
今までこのスキルが通用していたのは20層までのF級&E級魔物くらいだった。でも――。
「燃え盛る刃よ~闇を裂いて~」
【炎麗黒猫】に加入して火精霊のコと契約したら私の歌の斬撃に炎が纏うようになった。
「スキルと火精霊を上手く使い熟せてるわね」
そう私に誉めてくれたのは暫定パーティーメンバーのひとり、
クラン【炎麗黒猫】に加入したメンバーの暫定的なパーティー編成が通達され、私と精霊スキル持ちの冒険者・柚希さんと一緒になった。
火精霊と契約したもののどうすれば良いのかわからない人が多いので各パーティー毎にひとりは精霊スキル持ちの冒険者の方が配置されている。
私の【歌斬】に火力が加わったのは柚希さんのアドバイスのおかげだ。
「それにしても歌で魔物が倒せるって不思議なスキルね」
そう話しかけてきたのはアキ。
私と同じ学生冒険者。
彼女のクラン加入理由は単純にお金が稼ぎたいからだった。
私以外にも結構いるらしい芸能志向の強い女の子は異なるタイプ。
彼女がお金を稼ぎたい理由は『整形』がしたいからみたい。
『整形』といっても本人が、じゃなくてヴァーチャルライバーの
軽い気持ちでVライバーを始めてみたらしいんだけど、思うようにチャンネル登録者が伸びず苦戦。
やっぱりもっとちゃんとしたクオリティのアバターデザインで勝負したいという気持ちが強くなったそう。
流石にそんな理由でダンジョンに潜るとなるとクランの奨学金はもらえないらしい。
「私なんか【ハンマー使い】よ。なんで女子がハンマーなのよ?」
アキが配信冒険者をやろうと思わない理由がそれだ。彼女は必要なお金さえ稼げばあっさりクランを抜けるかもしれない。
「まあハンマー女子よりもっと強烈な人がいるけどね」
アキの視線の先にはひとりの女性冒険者。
「んん~。
自分が契約した火精霊に愛おしさ全開で話しかけてるのは元々配信冒険者だった女性・キリカさんだ。
どうやらこのキリカさん、あの仮面冒険者さんに命を救われた過去があるらしい。
ダンジョン配信中に予想外の数の魔物の強襲に遭い、パーティーが撤退の判断。
ところがキリカさんひとりだけ逃げ遅れてしまった時に突然魔物が燃え出して九死に一生を得た。
パーティーは解散。その後キリカさんは炎さんに助けられたと知り、新クラン加入を即座に決断したとか。
キリカさんはその
【ダンジョンは人間性を変える】とよく言われてるけどキリカさんの事はもうこれ以上深く掘り下げるのはやめようと思う。
それが今私が参加しているクランパーティー。
【炎麗黒猫】のクラン方針としては週1もしくは月2くらいで【後見冒険者】の方、同行のもとパーティー活動してその報告する事がクランメンバーに課せられた義務となっている。
私達と一緒に吉祥寺ダンジョンを潜ってくれてるのはCランク冒険者の遥香さんだ。
Cランク冒険者の遥香さんがいれば私が今潜っている吉祥寺26層くらいは何も問題ない。
そう何も問題ない。
目の前に炎の猫がいたって――炎の猫ッ!?
「どうしてクランマスターが此処にッ!!??」
私たちは突然のマスター来訪に驚きを隠せない。
パニックに陥りつつも真っ先に動いたのはやはりこの人――。
「
キリカさんの突撃に慌てて柚希さんと遥香さんが止めに入る。
炎の猫姿の仮面冒険者さんは一瞬キョトンとするも
「え?お父さん??ああ、その子の事、大事に育ててあげてくださいね」
「はいッ!!!!」
キリカさんはマスターからの言葉に感激&昇天したまま柚希さんと遥香さんに階層出口へと引きずられていった。
「マスターは何故吉祥寺に?」
「君が威理ちゃんだよね?」
「はい」
「次のダンジョン配信で【歌枠】をやってみようと思うんだけど、俺歌えないし【炎麗黒猫】に加入した歌手志望の子に歌ってみてもらおうかなって」
なんでダンジョン配信チャンネルで歌枠やるんですか?とツッコみたかったがやめた。
私達のマスターは配信中毒者なのだ。
「いやね。自分のチャンネルを持つなら【歌枠】やってみたいなって思ってたんだ。歌って人を癒す力があるというか。俺も社畜時代、仕事で頭が疲れた時は配信者さんの歌を聞いてリフレッシュしてた時あるからさ。威理ちゃん、俺のチャンネルで歌ってみる?」
「私が……ですか?……」
「クランに加入した歌手志望の子たちからいただいた音源を聞いて俺が一番良いなと思ったのが君だったから」
嬉しかった。自分の歌がこんな風に思ってもらえるなんて。
「マジで?良かったねチャンスじゃん。マスターの配信チャンネルなら最低でも10万人は視聴者がいるよ!ある意味ドームコンサート超えてる」
アキはそんな風に祝福してくれた。
「10万人の前で歌を……」
もし10万人もの視聴者さんたちに自分の歌が微妙だと思われてしまったら?
間違いなく二度とないレベルのチャンスなんだけど半面怖さもある。
そんな私を見たマスターは優しく語りかける。
「素人意見だけど歌手として成功するのって一時的なものだと思う。大成功を収めた一流と呼ばれる人たちだって何年もその人気やセールスを維持し続けるのは至難の業だろうし。自分の音楽を商業化した代償なのかもしれないけど。いつか歌手を引退する事になってもその歌声が誰かの心に響いたり、もしもずっと歌い継がれる曲を残す事が出来たら良い人生だったなって思えるのかもね」
最初から終わりが見えてる厳しい旅路――。
でも私はマスターの言葉を聞いて歌いたくなった。挑戦せずに終わったら良い人生だったなんて思える事は絶対ないから。
「マスターの最初の歌枠。私に歌わせてくださいッ!!!」
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