第29話 とある仮面冒険者の独白
『――お願いだから冒険者にだけはならないでくれ』
生まれた頃には既に世界中にダンジョンがあった。
ガキの頃から両親にそう懇願されて生きてきた。
確かに安直な金欲しさにダンジョン潜って早死にするのは親不孝だなって思う。
だから勉強して大学入って就職したら社畜になってた。
社会人になってからはとにかく与えられた仕事を熟すのに必死で学生時代の友人との付き合いも次第に減り、だからといって激務の後ストレス発散で会社の同僚と陽気に飲み明かすタイプでもなかった俺は配信にハマった。
配信は不思議だ。
一方的に与えられるだけのコミュニケーションだが、その画面の中の人間だったりアバターだったりが楽しくしていると何故かこちらも自然と楽しくなる。
会社から帰宅後、配信を肴に酒を飲みながらニヤニヤするのがすっかり習慣になってしまった。
駄目だ孤独死するかもしれん。
そんな配信の中でも世間一般で注目を集めやすいのがダンジョン配信だ。
金か名誉か人類の安寧の為かはたまた利己的な戦闘衝動か動機は人それぞれでダンジョンに潜り続ける冒険者達の命懸けのリアリティーショーに大衆は自然と惹きつけられた。
俺もダンジョン配信を漁ってるうちにある女冒険者を推すようになった。
豪放磊落、天衣無縫、とにかく破天荒な彼女の配信を見てて楽しかったのは3ヵ月程度だった。
彼女が
治癒魔法が存在するこの時代、幸いに命に別状はなかったらしいがそれでも治せない軽障害が残りもうダンジョンに潜る事はないとSNSで引退声明が発表された。
配信ドローンが破壊される直前の魔物に両腕を噛み千切られた彼女の悲痛な叫びは俺の人生観を変えるには十分だった。
冒険者達が日々ダンジョンに潜り、命を賭して
誰かの犠牲の上で享受している平穏に俺は疑問を抱いてしまった。
ガキの頃の冒険者体験で分かった事だが俺には
無力無関心傍観者な一般人であり続けるのは俺なんかにこの天稟を授けてくれた誰かさんが怒りそうだ。
「配信者の安全を守るのは視聴者の務めだよなぁ」
俺26歳――。退職届を出しました。
その後、精霊たちの話を正直に聞いていたら観光がてら運よく【焔霊剣皇イルフェノ=レガーフリート】と契約できた。
そしてこの1年間、密かに女性配信冒険者を陰ながら守ってきた訳だけだがとうとう配信デビューしてしまった。
【黒猫ハーバリウム】という女の子パーティーが異魔として現れた黒竜に殺されそうになっていたのを瞬殺したらSNSでバズってしまった。
後で映像を見てみると『頭だけアルパカ』の不気味さに自分でも驚いた。命の恩人ポジが無ければ通報されてもおかしくない不審者。
正直、黒猫ハーバリウムの子達と会う事はもうないんだろうと思っていたら何故か後見冒険者を頼まれた。
黒竜を瞬殺出来る人材は若干というかかなり不審者でも需要が高いらしい。
SNSでも今後勧誘合戦が起きるとの予想が。
どこかのクランに加入させられてこき使われてたら社畜時代と変わらん。
だったらもう自分のクラン創るしかないんじゃね?と思った。
ギル畜、クラ畜な冒険者生活は勘弁。自分のペースで活動できるクランが必要なんだと認識。
初めて黒猫ハーバリウムのダンジョン配信に参加してみたら別の冒険者から決闘挑まれそうになるわ、政府の超エロい別嬪さんが頭下げてくるわで驚いた。
そしてSNSではドナドナされる俺の画像が……。
国畜も絶対阻止ッ!!クラン創るって公に発言しといてよかった。先手必勝!!
原宿ダンジョンの不規則氾濫を止めるには100層コアを破壊すればなんとかなると思ってたけどライブ配信するならやっぱり映えは必要だよなと思って家電、冷蔵庫姿になった。
94層、95層攻略はそれなりの画になったのでは?
そしたら今度はSNSでフリーザー様と呼ばれるようになってるんだが……。
全力で面白い方向へ転がそうとするネット民怖ッ。
「私の戦闘力はS53万です」なんて言ったら確実に『炎の仮面冒険者は本当にS級魔物53万個体討伐出来るのか?耐久配信』やらされるヤツじゃん。絶対にそのネタには乗らねぇ……。
事務所さんから私信が来た。
【炎麗黒猫】のオーディション会議するからスプリンクラー対策して来てくれ?
この時初めて炎の仮面冒険者は放火犯と紙一重だったという事を実感する。
どうすりゃいいの?
解決策として球体ケースの中に入りました。炎の猫のハーバリウムって事にすればなんかそれっぽいだろ。
スプリンクラーが不安だから前日に挨拶に行ったよね。建物びちゃびちゃにする訳にいかんし。修繕費請求怖い。
そしたらまさかあの人に会うなんて。野河南月さんって言うんだ。
いやまあ元々あの人の所属事務所からデビューしたから【黒猫ハーバリウム】の子達の事を若干肩入れしてたんだけどまさかマネージャーをやってるとは。
事務所に行けばもしかしたら遭遇するかもしれないと思ってたけどこの展開は流石に驚いた。
なんだろう。あの人の前でクソカッコつけたくなって『ダンジョンに潜らざるを得ない子供たちを見殺しするような人間は冒険者の頂点にいるべきじゃないと思うんで』とか言っちゃったよ。
俺ヤバくね?冒険者報酬全部、子供たちの将来に使うって言っちゃったんだけど?
いやまあ天稟や
だから一般冒険者として自分のクランに入る事にした。
男性冒険者もとりあえず全員仮合格にしたのはそれが理由なのだ。
自分で創ったクランに書類選考で落とされるとか笑えん。
目指せ『普通の』高ランク冒険者、それなりの冒険者報酬稼いで推してる配信者に赤スパ投げて石油王(嘘)扱いされる視聴者生活が今の俺の夢。
そういえば【研能】のスタッフの人からSNSやってもらえませんかと言われた。
アカウント管理は事務所でするらしい。名前?
じゃあ【炎麗黒猫の代表の猫】で。
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この話を書いた煌國粋陽(きらくにいきよう)です。ポジティブメッセージみたいな名前になってますが。
これにて第1章完結となります。
仮面冒険者としては聖人君子ムーブに徹してますが主人公にも当然人並みの欲、やりたい事はあるので自分で創ったクランに一般冒険者として加入しちゃいます。
第2章は【炎霊黒猫始動編】となります。
この作者、なんと初めてカクヨムランキング週間総合TOP10入り出来ました。
ひとえに読者の皆様のおかげです。ありがとうございます。
【既に★評価もフォローもいいねもしてるよ】というカクヨム読者の皆様、本当にありがとうございます。
特にこの話が埋もれないように小説投稿直後から★評価&フォローをしてくださった読者様には感謝しかありません。
自分にはもったいないくらいのレビューもありがとうございます。
あとお聞きしたいのはこの話をフォローしてくださってる読者様的には
【ファンタジーな話を真面目?にサクサク進めるパターン】と【新クラン始動後しばらくは和気藹々コメディな日常系パターン】どっちがお好みでしょうか?
今後の展開の参考にさせていただきますのでコメントお待ちしています。
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