第26話 新クランオーディション会議
新クラン【炎麗黒猫】のオーディション会議当日。
東京都港区某所――。大手配信冒険者事務所【研能】オフィス。3階第一会議室。
長机を長方形に並べ、横5人縦10人合計30人程が会議参加できる状態が整えられていた。
下座の机の上には透明な球体ケースの中に入った炎の猫が既に待機しており、その両隣には綾覇、碧偉、清楓、龍美がワークチェアに座っている。
左右には【炎麗黒猫】の運営要員としてスタッフィングされた事務所関係者が座っている。
皆、炎の猫のハーバリウムを気にしないようとして逆に視線が明後日の方向に向いてしまっている。
会議開始予定時刻の午前10:00の3分前。
会議室のドアが開き、青年実業家のような出で立ちの妙齢で浅黒肌の男性と秘書の女性、更に【黒猫ハーバリウム】マネージャー野河南月ともう2人の美女が入室する。
美女のうち一人は防衛省ダンジョン対策支部局大将補佐官、桂城和奏だった。
社会人スーツに身を包んでもどこか妖艶な色香を漂わせている。
そしてもう一人は知的な雰囲気を漂わすスレンダーなキャリアウーマン風の女性だった。
「時間には間に合ってるよな?遅れてすまないとは言わんぞ。仮面冒険者殿とは初顔だったな。オフィス【研能】代表取締役社長――
「仮面冒険者――炎です。よろしくお願いします。今回はクランを創りたいと我儘言い出したせいでご迷惑をおかけしてすいません」
「いやむしろ感謝している。【黒猫ハーバリウム】を救ってくれた事、彼女達の後見冒険者になってくれた事、そして!新クランのオーディションをこの【研能】主催で任せてくれた事ッ!!!」
突然興奮気味に話しだした事務所社長を見て、綾覇はこの人、女の子の履歴書見て興奮する人だったと思い出す。
そしてまた鷹田の存在を頭内から抹消する。
南月や事務所スタッフからの視線に気づいた鷹田は我に返る。
「いかんいかん。つい調子に乗ってしまった。こちらは既に皆知ってるであろう防衛省の桂城和奏さん、そして――」
「いえ、私からご挨拶させてください」
怜悧な印象を与えるセンスの良い眼鏡越しに美女の視線が捉えているのは炎が幽かに揺らめく猫。
とその隣にいる――。
「経済産業省より派遣されてきました。
まさかの自己紹介に研能のスタッフは皆瞠目し、碧偉に視線を集中させる。
実姉の登場に碧偉は顔が青褪めていく。
「血縁に甘える事なく仕事で成果を出す事で皆様からの信頼を勝ち取りたい所存ですのでどうか今後とも宜しくお願い致します」
橙子は挨拶を終え、一礼するとワークチェアに座り、自身の仕事用PCを立ち上げる。
桂城和奏も続いて挨拶をする。
「防衛省ダンジョン対策支部局大将補佐官の桂城です。今回は新クラン【炎麗黒猫】の立ち上げにあたり、必要書類を持参して参りました」
桂城が用意してきた書類は『仮面冒険者――炎の身元を政府ならびに冒険者ギルドが保証する』というものだった。
「この書類があれば仮面冒険者炎氏の新クラン創立の申請も無事認可されます」
「お手数おかけして申し訳ないです」
「いえお構いなく。原宿ダンジョンの不規則氾濫を鎮めていただき、防衛省職員一同大変感謝しておりますので」
桂城は炎に恭しく会釈する。
「どうして今日は経済産業省の方も来てるんですか?」
「それは……ですね」
何故か歯切れの悪い桂城に変わって橙子が口を開く。
「今現在日本政府を形成している各省庁間で議論が起きていまして」
「議論?」
「端的に申しますと【ダンジョンを潰すか?活かすか?】ですね」
「成程」
炎は橙子の言葉を理解した。
「私がこの場に馳せ参じた理由を御理解していただけたのであれば十分ですので新クランに関する会議をどうぞ進めてください」
「あの早海さんって配信に興味はありますか?」
「はい?」
炎の質問に戸惑う橙子。
「何故そのような質問を?」
「違う省庁から御二人も【炎麗黒猫】の運営に参加されるのならこの会議もライブ配信して世間に公開した方がいいのかなって」
会議のライブ配信という提案には研能スタッフもざわついた。
「それは……」
「いきなり日本中に顔を晒すなんて無茶振り過ぎましたね。大丈夫です。ライブ配信はしません。ただこの会議の様子を映像に残してもいいですか念の為に。早海さんや桂城さんのお姿は映像公開しませんから」
「ご配慮感謝します」
映像に残すという牽制により不用意な発言は出来なくなる。
「会議映像の録画準備だ。そうだなカメラ3台くらい用意しろ」
「はい」
鷹田がスタッフに指示を出す。
録画の準備が完了したところで会議が開始された。
「――では。第1回研能主催新クラン【炎麗黒猫】のオーディション会議を始める」
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