第3話 求ム命の恩人が不審者だった時の対処法

綾覇ら【黒猫ハーバリウム】を黒竜から救ったアルパカ男。


彼女たちの窮地はSNSで拡散され、現在ダンジョン配信の同時接続数は58万にまで達していた。

58万人もの視聴者がアルパカ男の存在にただただ戸惑う。


それは綾覇たちも同様だった。


「ええと……その……」


:命を救ってくれた恩人がアルパカ頭ってどんなリアクションすればいいのよ?

:綾覇も戸惑ってて草

:どんな人物であれ恩人なら感謝しないとだろ

:俺は黒猫ちゃん達を死なせなかったアルパカに感謝しかないぞ。竜倒せるアルパカ頭に遭遇したら俺は迷わず逃げるけど

:それな



「君達が無事でよかった」


アルパカ男のその一言に綾覇たちはハッとする。

善意で助けてくれたにもかかわらずまだ何も言えてないと。


「あッ!あの!!命を助けていただきありがとうございました!!!!」

「本当に助かりました。深く感謝致します」

「あ、ありがと」

「アルパカさんありがとー!!」


深々と頭を下げる3人とは対照的に清楓は興味深々といった感じでアルパカ男に近づいていく。


:清楓ちゃん既にアルパカ対応出来てて草

:スライムが勝手に懐いてくるピュアホワイトさやかちゃんやぞ

:ツンデレ感謝になってしまう龍美ちゃんも実はピュアかもしれん


「どうしてお兄さんはアルパカ頭なのー?」


:切り込み隊長さやか有能すぎる

:真正面からぶっこんだわよこの子

:くぅぅ!そこに痺れる憧れるぅッ!!


彼女の質問に対し、アルパカ男は真紅の刀身を消した。


:あっ剣が消えた?

:あれ魔法剣か?

:竜を一刀両断出来る魔法剣なんてSランクの猛者くらいじゃね?

:有名どころであんな真紅の剣扱ってる冒険者見た事無いけどな


そして男が懐から取り出したのはタブレットPCだった。


「人気の配信冒険者である君達を救うとなると顔を晒す事になる。だがそれは避けたかったので仮面を被った状態で馳せ参じる事にした。驚かせてすまない」


:顔を隠してるのは晒しNGだからか納得

:ブラックドラゴン瞬殺できる冒険者なんて引く手あまただしな

:国から勧誘されるレベルだろ

:魔族かなんて疑ってすまんかった

:タブレット持ってるアルパカシュールすぎんだけど


「そうだったんですね。御負担かけてすいませんでした」


綾覇たちも目の前の人物の風変わりな佇まいには明確な理由があった事を知り安堵した。


「アルパカにしたのは……女の子たちだし可愛い動物なら怖くないかなと思って」


男の返答に一瞬場の空気が固まる。


:頭だけアルパカとか逆に怖いんだけど

:なんだろう俺達に近いものを感じる。これは理屈じゃない

:配信中だし顔を世間に晒したくない(わかる)

 アルパカ好きな女の子多い(わかる)

 アルパカ頭の仮面冒険者として登場する(わからない)


「わたしアルパカ大好きだよッ!!」


笑顔満開でそう答える清楓。

清楓の言葉で場が和み、綾覇や碧偉、龍美も相好を崩した。


:なにこの子、荒んだ下界を浄化する為に召された天使なの?

:さやかちゃんが喜んでるなら正解なんだよお前ら


「そのお面ヾ(・ω・*)なでなでしていい?」

「いやこれは炎でできてるから触らない方がいい」

「「「え?」」」


和んだ空気が再び固まった。


:炎の仮面てどういう事?

:そのアルパカ魔法でできてんの?

:顔面火傷しないのかよ?

:ブラックドラゴン瞬殺するようなヤツはやっぱぶっ壊れてんだな


「だ、大丈夫なんですか?」


碧偉が心配そうに尋ねる。


「ああ。配信で詳らかにする事は出来ないが何も問題ない。炎の魔力だからほら」


すると今までアルパカだった男の顔が燃え上がり今度はレッサーパンダに姿を変える。


「すっごぉーい!!!」

「「「……」」」


歓喜するのは清楓だけで他の3人は唖然としている。


:俺ら何を見せられてるの?

:ある意味ブラックドラゴンより対処に困るヤツ来たな

:竜との死闘で精魂尽き果てたあとに頭燃えてるクセつよ冒険者を恩人扱いしないといけない罰ゲームとは、ダンジョンおそロシア

:ロシアはもう存在しない定期


「……助けに来たのがこんなので申し訳ない」


3人の反応を見てレッサーパンダすべってんなと感じた男はいたたまれなくなり謝ってしまう。


「い、いえ決してそんな事は!」

「貴方が駆け付けてくれなかったら私達は今日この場で全員死んでいました」

「ま、魔術師としてその魔法教えてもらいたいです」


:龍美ちゃん絶対本心じゃなさそう

:もし失敗したら顔面火傷だし女の子には無理だろ

:奇跡の感動救出劇のはずが完全に気まずい系コント

:しばらくこの話題で持ちきりだろ。やる事為す事インパクトありすぎ


「あの名前をお聞きしても?本名じゃなくても構いませんので、後で事務所の方からお礼したいですし」

「じゃあ仮面冒険者アルパカで」


:今はもうレッサーパンダ

:この人ガチなのかボケてるのか判断できん

:なんでもアルパカにすれば女子受けすると思うなよ


「アルパカさん、配信終了後に連絡先を教えていただいても?」

「それはやめておいた方がいいと思う」

「何故ですか?」

「【黒猫ハーバリウム】はファンの男と繋がるべきじゃないと思う」

「はい?」


「俺――仮面冒険者アルパカは【黒猫ハーバリウム】のダンジョン配信の視聴者のひとりだ」


まさかのカミングアウトに綾覇たちは言葉を失う。


:アルパカ男、黒猫視聴者だった

:俺らの中にこんなのいるのか


「じゃ、じゃあ私達の窮地に逸早く駆け付けられたのは?」

「ああ配信中になにかあった場合すぐに駆け付けられるようにこのダンジョン内で待機していたからだ」


男が改めて彼女達に向けてかざしたタブレットには撮影ドローン越しの彼女達の姿が映っていた。


:俺らなんかよりずっとヤバい人だった

:いやそれひょっとしてストー(カー)さん?

:ゴースティング(配信中の映像を元に行動する事)してたって事?

:なんか雲行きが怪しくなってきたぞ


「ファンの方……だったんですね」


綾覇らも動揺を隠せない。

ダンジョン内での配信冒険中の冒険者への視聴者の接触は基本禁止されているからだ。


「マナー違反なのは承知しているが君達を死なせたくなかった。それだけだ。断じてそれ以上は求めていない。では失礼する」


アルパカ男は踵を返し、綾覇らに背を向ける。



「待ってくださいッ!ドラゴンの素材は!?」

「竜の素材?ああそうか」


男はタブレットを懐に戻し、再び真紅の刀身を顕現させた。先程見た刀身も明らかに大きい。


「竜の解体はこうやってこうやってこう」


剣を振るった数瞬でブラックドラゴンの胴体が鱗と爪、肉、内臓系、翼と各種素材に分かたれた。


:ドラゴンてあんな簡単に解体出来ましたっけ?

:通販番組も驚きの切れ味

:どうですか冒険者の皆様、ドラゴンをあんなにすっぱり切れちゃう刃物欲しくありません?


「これなら君達も持ち帰りやすいだろう」

「そうじゃなくてこの竜の素材は貴方の物ですッ!!」

「え?」


:え?の言い方がドラゴンの素材なんて眼中にない人間のえ?なのよ

:素材性能に興味なくても売れば3億いや5億いくんだぞ

:でも冒険者ギルドや政府に売ろうとしたら身バレするのね?

:そんなに身バレ嫌なんか?

:5億なんて端金って言ってみたいわ

:時折凄い高額スパチャしてた石油王あの人なんじゃね?



「俺には必要ない素材だから辞退させてもらう。黒竜に立ち向かった君達もこの素材を手に入れる資格は十分ある。これにて失礼する」

「待ってください!」


そう言うと突然男の身体が燃え上がり、炎が消えた時には既に男の姿はなかった。

ただただその場に立ち尽くした綾覇たちだった。


この出来事が日本中を席捲する事となったのは言うまでもない。


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