脇役憑依の運命打破(わきやくキャラのシナリオブレイク)
カズシン
前日譚 3年前編
プロローグ
「ま、参った!!」
俺は片膝をついて、左腕を伸ばし待ったをかけ敗北を受け入れた。
「え、な、何だって……?」
「今の打ち合いで俺は脇腹を打たれて……肋骨が折れたみたいだ……」
これでいい筈だ、これで俺は『負けた』から物語は順調に進む筈だ。負け方としては『原作』とは違うが負けは負けの筈と、俺は息を荒げ許しを乞う。観衆たる生徒達のざわつきをよそに、俺はこれで何とかなってくれと願うしかなかった。
「流石ですナル様!サーペンタインの子息ををこうも簡単に!」
「やはりあなたは英雄の孫ね……こうも実力に差があるなんて」
「…………」
さて、いけすかない貴族子弟の俺が膝をついた事で、英雄の孫は呆気に取られているが、そんな事は知らぬと勝利に酔い取り巻きのヒロイン達2人、遅れてもう1人の計3人が英雄の孫『ナル』にきゃいきゃい懐いた猫のように寄ってきた。
「ギニス!大丈夫か!?肩を……」
「い、いやいい……自分で……」
「肋骨折れたなら無理するな、いいから!」
俺は仲のいい取り巻きの1人に肩を貸して貰い退散する。これでいい筈……そう言い聞かせながら俺は決闘の舞台となった広場を立ち去った。
ーーーー
最後に見た景色は、眩しい照明だったか……。よく覚えている、世界で一番大きなアメリカの格闘団体と契約し、判定で勝った1勝目……そして2戦目で俺は死んだ。
5分を3ラウンド、逃げ場の無い金網で男2人が殴り、蹴り、投げ、関節を取り戦う『総合格闘技』の最高峰で俺は死んだ、相手はその団体のベルトを巻いた事もある強豪、俺はボロボロになって2ラウンド半ばに腕十時を決めて勝った。
そのまま担架に乗せられ照明を見た時に、ゆっくりと意識と景色が彼方に飛んでいくのを感じた。ああ死んだなと、なにしろめちゃくちゃ殴られた、何度崩れ落ちたか分からない、現役で一番殴られたのだ、それだけ相手は打撃が上手で強かったから。
『リング禍』というらしい、こんな死に方は。まさか自分がそんな死に方をするなんて思いもよらなかった。
これが総合格闘家『水瀬光太郎』享年25歳の死に様であった。
ーーで、だ。
今、肋骨折られて情け無く負けて退散しているのも『俺』だ。
正確には『ギニス・サーペンタイン』と呼ばれるこのゲーム……いや違う、アニメ?漫画?原作ライトノベル……兎も角そんな色々メディア化した作品。
『異世界転生賢者のチート無双〜大魔導師の孫に転生した俺のハーレムライフ〜』の登場人物もまた、俺である。
何でそんな物を格闘家の俺が知ってるかって?俺とは正反対の、頭のいい弟がハマってたからだ。オタクだったんだよ、俺の弟は。でも仲良かったし、気晴らしに勧めてくれてハマったのだ、だから知っていたのだ。
つまりは……死んだ俺はどうやら、この登場人物になってしまったらしい。この場合は転生?いや違う、始まりが赤ちゃんからではないから『憑依』が一番近いのかもしれない。
そして今現在俺が成り代わって憑依しているこの少年『ギニス・サーペンタイン』だが……。
所謂『やられ役』である。
このギニスくんは『学園編』の登場人物で、主人公の『ナル・ワーナビ』がいずれハーレムに加えるメインヒロインにちょっかいを出す貴族子弟であり、代々軍人の子爵家『サーペンタイン家』の次男坊だ。
兄は優れた軍人で辺境の防衛任務に就いており、やがて父から家督を継ぐ事になる中、このギニスくんは所謂『優れた兄に苛立つ不出来な弟』という立場も持つ。もしも兄が死んだ時の代わり、死ななければ自分で爵位を手にするなり、嫁を取って血を繋げなければならぬ安全装置だ。
そんなギニスくんは、主人公のやられ役として学園で倒されて主人公の力に嫉妬し、父からはその責任を取れと追放を命ぜられた結果……主人公が戦う敵対組織に唆されて『闇の力』を与えられて調子に乗って再戦。学園の生徒達を巻き込みながらも、主人公に敗北して死亡……その末路はサーペンタイン家は取り潰しとなり、兄や父母に迷惑をかけて物語から退場する。
そんなどうしようもないやられ役の小悪党が、今現在俺こと『水瀬光太郎』が憑依したキャラクター『ギニス・サーペンタイン』の全てである。
さて……それらを踏まえた上で、話は3年前に遡ろう。
俺はこのギニスくんとして意識を覚醒させ、状況を理解したわけだが……このまま『やられ役』を全うしてくたばりたいか?と言われたらそれは『NO』としか言わないだろう。
誰が好き好んでやられ役をして、そのまま退場なんてするかと。しかも物語で定められているとは言え、両親と兄貴まで迷惑かけて死んでいくなんて、受け入れられる訳がない。
ならば変えねばなるまい、どうにかしてでも。
だがしかし、この俺ことギニスくんは確かにやられ役ではあるが、実は重要な立ち位置のキャラクターでもある。
運命を変える為にと、皆はまずこう考えるのではないか?『そもそも、主人公達に関わらなければいいのでは?』と。つまりは自ら舞台を降りてしまうという事だが……これは封じられてしまっている。
何故か?それは……この物語のソーシャルゲームアプリがあって、その中にギニスくんの『個別シナリオ』があり、その選択肢でメインヒロインに声をかけず関わらない事ができる。
その結果……主人公のナルくんはハーレムと権力に溺れて力を失い、王国が滅亡するという、一体主人公何をしたんだというコミカルバッドエンドが描かれているのだ。
つまり……ギニスくんが主人公ナルと決闘するイベントは、避けてはならない重要イベントなのである。何なのだ、その最初の会話で『旅に出ない』を選ぶと最速でエンディングに到達するみたいな分岐点は、どうしてそんなキャラクターに俺は憑依したのかは知らない、しかし……だからと言って諦めて世界の破滅か主人公の糧になって死ぬかなんて、俺はごめん被る。
何故かは知らんが、こうしてまた生を受けたのだ、そのイベントはさっさと超えてしまって舞台を退場してあとは外野の1人としてこの世界を楽しませて貰おうと決めた。
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