矢印

星下めめこ

矢印

 今にして思えば、私の人生とは多くの好意的な矢印が向けられ、しかしソレ等を無視してしまった人生だったと言える。

 また、私が向けた多くの矢印は、分不相応なものであったとも言えよう。


 既に四半世紀は生きた。

 それだけの長い時間があれば、自ずと見えてくるものがある。


 他者からの好意、身の丈にあった学問への向き合い方、現状において最適と思われる選択。


 これから起こりうる自らについて――その全ての答えが見える訳では無い。もちろん向けられた矢印を無視した選択についての未来が見える訳でもない。

 隣の芝生は青いと、今を嘆く人は他者を見る。

 だからこそ向けられた矢印を無視した末路は悲惨なものであると、色褪せた芝生の上で自嘲できる。


 だが、これはこれで、最早青い芝生なのだ。

 現状がどれだけ退屈な、思い通りに行かない人生であろうとも、私は自らが向けた矢印に従って歩んだという事実を否定してはならない。

 それはその矢印が示した過程に関わった誰しもを侮辱する、何よりも愚かな行為でしかないのだから。


 だからといって、全てを妥協するのは早計である。

 時には大きな未来に矢印を向けねば、人生とはたちまち、空虚な、威厳のないものへと変じるのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

矢印 星下めめこ @2525kouyadoufu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る