28才OL、中学生の弟に抱き枕にされています。

氷川 晴名

第一話

 ドガガガガガガ——

 仕事用に買った、紐を結ぶことなく脱ぎ履きできるスニーカーを玄関に放って、居間の扉を開くと、テレビのスピーカーから耳障りな銃声音が出迎えた。


「ただいま」

 夜20時、私が仕事から帰ってくると、中学生になった弟の冬都ふゆとはじろっと、睨むように私を一瞥し、すぐにモニターに視線を戻した。

 ソファに浅く腰かけ、前のめりになりながら、手元でコントローラーのボタンをかちかちと操作している。

 テレビにパキン、と割れたような演出映され、赤く染まった画面をみて、ちっ、と冬都が舌打ちをした。


古遥こはる、おかえり。早く洗濯まわしたいからお風呂入ってきて」

「はーい——」

 弟からひと言も挨拶がないまま、台所のシンクで洗い物をしていたお母さんに言われて入浴した。


 私が風呂から上がっても、夕ご飯を食べている最中も、弟はテレビに喰らいつくようにして、同じゲームを続けている。

 ——おねえちゃん、おかえり! きいてきいて! きょうね、きょうね!

 幼かったころの弟を思い出しながら、しゃこしゃこと歯磨きを終えると、

「おやすみー」

 睨むような弟の視線に送られ、二階の寝室に向かう。



 23時くらい。

 消灯したベッドのなかで10分くらいアイフォンを眺めて、ブルーライトにやられた目頭を揉みながら、眠りに落ちるか落ちないかの狭間にいると、

 キィー……。

 と、部屋の扉が開く音がした。

 すると、どた、どたっと、おぼつかない足音が近づいてきて——

 むにゆ。

「むえっ」

 布団に潜り込んだ冬都が、私の身体にしがみついてきた。



 28才OL、中学生の弟に抱き枕にされています。

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