第39話 一つの回答を出そう


 王城の謁見の間を跡にした僕たち【狼の魂】パーティーは、冒険者ギルドの大広間へと戻ってきた。


 今後どうするべきなのか、作戦会議とまではいかないけど、ここでみんなと話し合いをすることになったんだ。


 王様は僕に友と思って接してほしいと仰ったように、親しみやすい人柄である一方、良くも悪くも好奇心旺盛な方だ。


 そんな性格もあってか、陛下がディランたちの言い分を認めたことより、僕らを妨害した罪に問われた【超越者たち】パーティーの処罰に関しては一旦保留となった。


 つまり、ディランたちが無実を証明するためにこのままエドガータワーの9階層を攻略することを認めたわけで、僕たちにはどうしようもなかった。


 そういう事情もあり、彼らが見せた苦しすぎる言い訳に対してベホムたちも辟易している様子だった。


「まったく、連中は太々しいやつらばかりだ。よくもあんな見え透いた演技ができるもんだな。それと、王様も王様だ。ピッケルを友人だって思うんなら、連中のあんなバカげた主張を認める必要なんてこれっぽちもねえだろうに」


「……うむ。それに関しては、確かにベホムの言う通りだ。彼らは、まるで自分らが被害者とでも言いたげだったな。少しだけ可愛いと思ったのは内緒だが」


「ジェ、ジェシカさん、そりゃあいくらなんでも特殊性癖すぎますぜ!」


「本当に、ロランの言う通りですわ。あんな人たちに可愛げなんて微塵もありはしません。ねえ、レビテもそう思うでしょう?」


「ですねぇ。私は、ジェシカさんがちょっと怖いです……」


「い、いや、君たち。何か誤解しているようだが、それは王様に対してだから、許せ……」


「……」


 なるほど。ジェシカが可愛いと思ったのは王様に対してだったのか。でもあの人に抱き着いてたら、それこそとんでもないことになってたような。


 ジェシカの発言で流れが変わったとはいえ、悪口大会が延々と続くことにならなくてよかった。


 王様についてはともかく、ディランたちに対して不満を持つのは当たり前だし、悪く言う気持ちもわかるけど、悪口を言い続けても何も変わらないからね。


「ところで、ピッケル様。私、危惧していることがあるのですけれど」


「レビテ、危惧していることって?」


「ピッケル様が既に【超越者たち】パーティーに在籍していない以上、彼らがスムーズに9階層を攻略できるとは思えません。それでも、彼らにはそれまでの経験もあり、メンバーの欠損も完治しています。そうなると本当に攻略してしまって、私たちへの妨害行為を有耶無耶にされてしまう恐れもあるのでは……」


「……なるほど。確かにね」


 実際、【超越者たち】は僕と一緒に9階層を攻略したことがあるから、そこがどんな場所なのかは理解しているはず。


 しかも、盗賊ネルムと魔術師リシャの欠損も治って、僕の代わりに新しい回復術師カインを迎え入れてるので、まさに準備万端といえる。


「レビテ、それだけは絶対に許せませんわ。下手をすれば、わたくしは今頃あの世にいたかもしれませんのに。こうなったら……宿舎に乗り込み、火炎瓶を100本――」


「「「「「マリベル!」」」」」


「ちょっ……み、皆様、どうか止めないでくださいまし! わたくしは、一人でも無念を晴らすべく行動してみせますわ!」


 僕らから囲まれて制止されても、なおも進もうとするマリベル。


「いや、マリベル。それだけはやめるんだ。そんな野蛮なことをしてしまったら、【超越者たち】と同類になってしまう」


「ど、同類、ですこと……?」


 僕の忠告が効いたらしく、マリベルは我に返った様子になった。


「うん。ディランたちのやり方に合わせてしまったら、それこそ彼らの思う壺になる。彼らは悪巧みに長けてるし得意分野なんだから、おそらくそれを利用されてしまう」


「な、なるほど。ピッケル様が仰る意味が少しだけですけれど、理解できたような気がしますわ……」


 貴族の世界も当然ドロドロしているはずだから、マリベルだって悪意は悪意によって利用されることもわかっているはず。


「とはいえ……あまりにも悔しすぎますわ! このまま何もせずに、彼らが何食わぬ顔で9階層を攻略するのを指を咥えて見守るのは、歯痒くて歯痒くて、頭が変になりそうですの……!」


 マリベルの発言には、感化されたのかベホムたちも神妙な顔で深く頷いていた。


 そうした【狼の魂】パーティーの不安の声に対し、僕は一つの回答を出す必要があると感じた。


 ただ、これの詳細については結構非道なのであまり積極的に言及したくないんだけどね。


「大丈夫。それについては心配はいらないから。ほら、前にも言ったでしょ。保険をかけてるって」


「「「「「あっ……」」」」」


 みんなも思い出したらしく、マリベルを筆頭にハッとした顔になった。


「彼らの関与については疑う余地がないし、絶対にやり返すから大丈夫。今はそのタイミングを待ってる状態だから」


「「「「「おぉっ……!」」」」」


 そう。僕がかけた保険の回復術については、それが適用されるタイミングも自由に決められるんだ。


 当然、それが【超越者たち】パーティーに最も効き目がある最適なタイミングで仕掛けようと思う。


 っと、そうだ。それだけじゃ不安かもしれないと思ったので保険の効果についても大雑把に話しておくか。


「「「「「……」」」」」


 すると、みんな青い顔をして黙り込んでいた。ちょっと前までは怒り狂っていたマリベルでさえも。


 さあ、後はディランたちがどう動くかを調べるのみだ。


 分析の回復術、すなわち一部の場所に対して時間を進める回復術を行使すれば、今後【超越者たち】がどう動くのかを調べることができる。彼らの足跡を逐一追いかけることが可能になるんだ。


 そして、が来れば僕らもいよいよ動き出す頃合いだ……。

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