第38話 みんな凄い勢いだ


 エドガータワーの8階層でボスのロックフェイスと戦っていたとき、そこでどんな異変が起きたのかを、僕は王様に詳しく説明してみせた。


「――な、なんと……? 何者かの放った土魔法がジェシカのマントに命中し、そこから決壊しそうになったと申すのか?」


「はい……うん、ロスタフ」


「しかし、一体何やつがそのような不届きな真似を? タイミング的に、モンスターの岩人間によるものではなさそうだな」


 さすが王様。よくダンジョンを見ているだけあって、あのタイミングでモンスターが攻撃してくるのは不自然というか、第三者の意図があるように感じたんだろう。


「ここで、僕の回復術を使います」


「何? 回復術を用いると? もしや、それによって犯人を探し当てると申すか?」


「うん、ロスタフ。その通りだよ」


「ほおぉ、回復術で犯人まで探し当てるとは、なんという素晴らしい能力だ! さすが、ミシェルが誇らしげに語る弟子なだけある! さあ、ピッケル、今すぐ余に披露してくれ、その名探偵の回復術とやらを!」


「……」


 王様が立ち上がって子供のように目を輝かせてる。ちょっとだけ可愛いと思ってしまった。


 さて、友の期待に応えられるように例の回復術を使うとしようか。


「ジェシカ、ちょっと来て」


「ふむ……? って、何故私が?」


「いいから」


「ま、まさか、ピッケル、王の前で私を許嫁にするつもりか。それは、いくらなんでも……可愛すぎるだろおおおぉっ!」


「い。いや、違うから!」


「「「ジェシカッ!」」」


「うっ……」


 ジェシカが僕に抱き着こうとして、マリベル、レビテ、ロランから制止される。みんな凄い勢いで止めてきたな……。


「ジェシカ、例のマントを見せて」


「あぁ、これか。兎の絵が描かれた最高に可愛いマントだ。傷つけたやつ、許すまじ!」


 そう。僕がこれから回復術を使うのは、ジェシカのお気に入りのマントだ。だから、あえて修繕せずにそのままにしていてほしいと頼んだ。


「ほうほう、そのマントに回復術を使って犯人を捜すと。いやはや、ピッケルのやることは斬新すぎるゆえ、余は目から鱗が落ちる思いだ!」


 王様が興奮のあまり前のめりになって玉座から落ちそうで、侍従がハラハラしてる。


 マントに回復術を使うのは、それを修繕するだけで意味がないように見えるかもしれないけど、実際はそうじゃない。


 以前、赤い靴に関連するものを回復する付随の回復術を使ったことがあった。


 僕が今からやろうとしてるのはあれに近い回復術で、これは原因究明の回復術というものであり、些細な傷からでも犯人を見つけ出すのには最も適している回復術だ。


「よし、いけるぞ……」


 それを使ったとき、マントは見る見る修繕していったかと思うと、それに比例して半透明の岩の魔法が出現し、マントから遠ざかっていった。


 その向かった先というのが、【超越者たち】のメンバーの一人、魔術師リシャのいるところだった。


 やっぱりあいつだったか……。


 周囲は俄かに色めき立ち、ディランたちに疑いの目を向け始める。


「ピッケルよ、これはもしや、そなたが招待した【超越者たち】の一人が犯人だということか?」


「うん、ロスタフ。少なくとも僕の回復術では、彼らの一人、魔術師のリシャが妨害行為の犯人だってことを示してる」


「な、な、なんということを……! こともあろうに、余が招き入れたパーティーの妨害をしようとは……。そこにおる【超越者たち】よ、今の話は誠か⁉」


 王様が怒号を上げてディランたちを睨みつける。


「……そ、そんなわけありません、王様! こ、これは何かの間違いです! ピッケルが乱心したとしか思えません!」


「そ、そうですよ、王様、リーダーのディランの言う通りですし、これはどう考えてもピッケルの陰謀です! よりによって……元仲間のあたしたちを疑うなんて、酷い……。ひっく……」


「……リシャ、泣かないでほしいの……。ピッケル、どうして。こんな酷い仕打ちをするの……? ありえないの……。まるで、人間じゃないみたいなの……」


「まったくです。本当に、甚大なショックを受けております、王様! ピッケルは我々の元仲間です。しかも、つい最近、彼に仲間の欠損を治してもらっています。そのような恩人を狙うなど、果たして考えられることでしょうか⁉」


「んーと……お、おいらも、まあ、そう思うかもっす……」


「……」


 向こうでは新人のカインだけが煮え切らない感じの態度を取っているのを見れば、彼らが黒だっていうのは自ずと判断できる。


 目的のためなら手段を択ばないディランたちのやり方に染まり切れていないってことだから。


「僕の回復術を疑ってるようだけど、王様は……ロスタフは信用してくれてる。イカサマだと思うなら、感情に訴えるよりも反証で示すべきだよ」


「「「「「ぐぐっ……!」」」」」


 僕の言葉に対し、ディランたちは怒りを露にするも、現状を覆せるような証拠はどこにも見当たらない様子。


「いい加減、罪と敗北を認めるべきですわ。あなた方は負けたのですわよ!」


 マリベルが止めを刺すように高らかに宣言するが、ディランたちは負けじと僕らを睨みつけていて、引こうとする気配は見られない。あくまでも抗うつもりなのか。


 ……本当に残念だ。もし、彼らが素直に過ちを認めて罰を受ける気があるなら、それこそ元仲間のよしみとして今回の件を大目に見ようと思ってたのに。


「王様……これといった反証は、残念ながらありません! ですが、ピッケルの言葉を俺たちの行動によって否定することはできます!」


 ディランが頭を床に擦り付けながら、思わぬことを宣言してみせた。


「ほう? ディランよ、行動によってピッケルを否定するとは、それは一体どのような行動なのだ?」


「幸いにも、明日、王様は俺たち【超越者たち】パーティーがエドガータワーで戦う様子をご覧になられる予定でした」


「ほほう。そういえばそうであったな」


「そこで、俺らが9階層を、難なく攻略してみせます! そうすれば、ピッケルがいなくても自分たちが最高のパーティーであることの証拠になります。他のパーティーの妨害行為という、小物がやるようなことをわざわざやる必要もないという証明にもなるのです、王様ーっ!」


「「「「その通りでございます、王様っ!」」」」


 ディランを筆頭に、【超越者たち】が全員でひれ伏して訴えてきた。


 なるほど、行動における実証をやることで、僕らを妨害する動機がないんだと主張するわけか。


「ふぅむ……面白い。できれば前人未到の10階層でそれを試してもらいたかったが、9階層をスムーズにできるほどであれば、確かに妨害行為をする動機などないようにも思える……。よし、あいわかった。ディランよ、そなたらに最後のチャンスを与える。だが、もしそこでしくじれば、どうなるかわかっておるだろうな……?」


「「「「「ははあっ、なんなりと処分をお受けいたします、王様ーっ!」」」」」


「……」


 面白い。是非やってもらおうじゃないか。本当にそれができるならの話だけどね。

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