第13話 こっちのほうが良い
「……」
あれから数日後、僕たち【狼の魂】パーティーはダンジョンへと来ていた。
といっても、エドガータワーじゃない。最高峰のエドガータワーへ行く日まではまだ時間があるということで、その練習として他のダンジョンへ行くことになったんだ。
「ピッケル、わかってるとは思うが、ここはモンスターが即湧きするから注意してくれよ」
「うむ。ピッケルよ、注意しないと危ないぞ。私のマントの中にでも隠れていろ」
「ジェシカ、それすげーセクハラですよ⁉ ピッケルさん、ボクの体にピッタリくっつきやがれです!」
「「そのほうがセクハラじゃ……」」
「うるせーです!」
「……」
みんな驚くほど過保護だ。新人だし、追放されたってことで気を遣ってくれてるのかも。
ダンジョンに目を向けると、照明もない壁がほんのりと怪しく光っている。ほんのりと赤みを帯びた不気味な明かりだ。
これはなんでかっていうと、モンスターを発生させる、浮遊する魔力が壁に反射しているためだといわれている。
壁も床も天井も少しずつ自動的に動き、マップの内容は日々変化する。罠の種類も場所も変化し、探索者を苦しめる。
どこに行っても似たような構造で殺風景なため、とても迷いやすいことでも知られてるんだ。
その名も古代地下迷宮。都には複数のダンジョンがあるが、エドガータワーに次いで攻略が難しいとされるダンジョンだ。
ボーンソルジャー、ミノタウロス、リザードマン、エンシェントマミー等のモンスターが発生する。階層はないが、とにかくモンスターの密度が凄い。
モンスターの強さっていうより種類や量が豊富で、エドガータワーへ行くまでの準備としては最適ってわけ。
「――あそこに罠があるから解除しやす!」
早速ロランが罠を解除してくれた。壁から毒ガスのようなものが発生したり、モンスターが一気に登場したりと、罠の種類も様々だ。なんにもないような通路に見えて、罠が仕掛けられていることはよくあるので、パーティーに盗賊は必須といわれている。
「よーし、でかした、ロラン。ここは俺に任せろ!」
モンスターがひっきりなしに湧いてくるところ、戦士ベホムがモンスターを挑発するようにして誘導し、引き付けてくれた。
彼はモンスターの攻撃を一身に受けるも、まさに全身が盾のように見えるほど頑丈で、敵の後衛への侵入を防いでくれる。パーティーにとってはこの時間稼ぎが重要なんだ。
「ふむ。ゆけっ……!」
詠唱が終わったらしく、魔術師ジェシカによって氷の範囲魔法が発動して、ベホムに取りついていたモンスターは一斉に凍り付いた。
ただ、凍り付くのはあくまでも一時的な現象であり、氷化状態が解ける前に倒さないといけない。ジェシカはその間に抜かりなく雷の範囲魔法を発動させ、一匹残さず殲滅してみせた。
さすが、【狼の魂】パーティー。【超越者たち】にも全然引けを取らない。というか、向こうよりこっちのほうが上なんじゃないか。
あっちじゃたまに盗賊ネルムが罠の解除に失敗して痛い目に遭うことがあったし、戦士クラフトはモンスターの攻勢に耐え切れずに後退するなんてのも少なくなかった。
魔術師リシャの魔法も威力が足りずに、何匹か生き残ってることもざらにあったからね。僕が密かに杖でぶん殴ってとどめを刺してたけど。
今のところとても良いパーティーだと感じる。普段は自由行動ばかりで、揃ってダンジョンへは行かないそうだけど、そうは思えないくらい連携がいいんだ。
だが、今日はやたらとモンスターの湧きがいい。僕も何度か元所属パーティーでここへ来たことがあるけど、ここまで湧いてるのは相当だ。こりゃ、どこかでボスが出現してるのかもしれない。きっとそれでダンジョンでモンスターの掃討が滞ってるんだ。
「「「「「ウゴオォォッ……」」」」」
大量のモンスターが絡み合いながらこっちへじわじわと向かってくるのがわかる。
「うげこりゃ無理だな。ジェシカ、ロラン、ピッケル、一旦引き返すか」
「うむ、ベホムよ、それがよさげだ」
「それがいいですぜ。命あっての物種ってやつです」
「……いや、僕がなんとかするよ」
「「「えっ……⁉」」」
モンスターが大量に発生している場合、自然にばらけるまで一旦引き返すっていうのもありだけど、この状況だとその必要はない。
僕の指示通り、パーティーはモンスターの大群と距離を取ると、さっきまで僕たちがいた場所にモンスターが到達した。よし、もうほとんど範囲内だ。
そのタイミングで、さっきパーティーがやっていたことを回復術で再現してみる。すると、自分たちの幻覚が現れて、モンスターは同じように戦士ベホムの幻に取りつき、魔術師ジェシカの氷と雷の魔法で葬られた。
再現場所から運よく逃れた、残ったモンスター数匹を遅延の回復術で倒しておしまい。一応、僕には剣士としての役目もあるのでやりやすかった。
「「「……」」」
っと、みんなわけがわからなそうに唖然としてるのでちゃんと説明しないと。
「これはリプレイ、すなわち再現の回復術というものだよ」
「す、すげえ……リ、リプレイって……回復術でこんなことまでできるのかよ……」
「ふむ、なるほど……って、そんなことありえるのか……⁉」
「や、やべーですね。マジで、半端ねえです……」
「……」
みんな納得してくれたみたいだけど、そこまで驚くことじゃないと思うし、まだ僕に気を遣ってくれてるっぽい。
リプレイの回復術は、臨機応変さ、緻密さが必要な場面だと向かないけど、敵の数が大量でとりあえず減らしたい状況だとかなり使えるんだ。
とにかく、回復術であっても、こうして攻撃面でも貢献できるってことは示せたはず。以前みたいに密かにやるのもいいけど、また追い出されたくないのでちょっとはいいアピールになったはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます