第12話 心を盗まれちゃう


「ピッケル、100点満点の合格だ!」


「おぉ……」


狼の魂ウルフスピリット】パーティー、通称ウルスリの入団テストに僕は合格した。


 たった今、リーダーの戦士ベホムに告げられたところだ。ちなみに、70点で及第点なんだとか。100点を獲得したのは僕だけらしい。本当かな?


 そんなわけでちょっと疑ったけど、もちろん自分の立場としては、どこかのパーティーに入るのが目的だったので嬉しかった。ただ、だからといってすぐに戦闘を含めた行動を共にするわけじゃない。正式契約もまだだしね。


 これから、お互いのことを色々と知る作業が始まる。


 ベホムによると、普段は自由行動でいいので、どの宿舎にいても構わないんだとか。そこら辺の宿に泊まってくれてもいいという。ダンジョンに行くときだけフラッと集まるくらいで。


 そこはちゃんとスケジュール表があり、僕にも見せてくれた。門限も一切なくて結構アバウトなので驚く。月の始めが富の塔、神の塔とも呼ばれるエドガータワーを攻略する日で、その日に合わせてくれたらいいと。つまり、あと一週間後だ。


 そんな自由主義もあり、僕はこの豪邸をシェアする必要はないとのこと。今まで通り、自分のものとして独占できるし、もちろん一緒に住むことだってできるってわけだ。


 ただ、同じパーティーに所属する以上、お客さんとして屋敷の中を案内したいと言ったら、【狼の魂】パーティーには喜ばれた一方で、エルシアが無言で怖い顔をしてたけど。


 奴隷の店にいたときみたいに、超警戒モードで僕の傍にピタリとくっついて離れない。まあ彼女はついこの間まで人間不信だったわけで、知らない人たちには特に警戒するだろうしね。


 ん、魔術師のジェシカがやたらとエルシアのほうを見て、神妙な顔で肩を震わせてる。もしかして無礼だと感じて怒ったのかな?


「君はエルシアとかいったか?」


「そ、そうだけど? あたいに何か用……?」


「エルシアか。君、超可愛い!」


「へっ⁉ い、嫌ああぁぁっ!」


「……」


 ジェシカがエルシアに抱き着こうとして逃げ回る。なんじゃこりゃ。戦士ベホムと盗賊ロランが溜め息をついた。


「わりーな、ピッケル。ジェシカは可愛いものに目がないのよ」


「ジェシカの悪い癖が出ちまったですね……。可愛いといっても、何の変哲もないものが対象になったりするんですぜ?」


「へえ……」


 あくまでもジェシカにとって可愛いもの、か。警戒モードのエルシアが彼女にとっては対象になったわけだ。


 ジェシカがようやく落ち着いたあとも、エルシアは僕の傍で目を光らせていた。特に、ロランに対しては対抗心を燃やしている様子。なんでだろう?


「ピッケル、あのロランっていう人には特に気をつけて」


 僕はベホムたちの宿舎に案内されることになり、エルシアから耳打ちされた。


「どうして?」


「う……なんか、狙ってるから!」


「命を?」


「違う! ピッケルの心!」


「こ、心って……。大丈夫だよ。万が一盗まれても、時間を戻す回復術で治せるから」


「うん!」


 エルシアは納得してくれたみたいだ。フラれて傷ついたなら免疫をつける意味でも時間を進める回復術のほうがよさそうだけど、心を奪われたなら時間を進めると拗らせそうなので戻す回復術のほうがいいかも。


「いい子いい子」


「えへへ……」


 こんなことまで心配してくれるのが可愛いので頭を撫でてあげる。そんなわけで、彼女はこの宿舎でお留守番することになり、僕はベホムたちの宿舎のある郊外へと移動する。


 都の中心からはちょっと時間がかかるとはいえ、こういう喧噪から離れた長閑な場所も中々いい。昔の宿舎もこんな感じだったなあ。


 そういや、以前はどこに所属してたのかと聞かれたので、【超越者たちトラベラーズ】パーティーだと返すと凄く驚かれた。そりゃ一流なはずだと。こっちにいた回復術師カインも、最近そのパーティーに移籍したみたいだと。


 なんせ最新の情報には疎いから、ちらっと知人から聞いた話で、本当かどうかまではわからないとも。


 ってことは、ベホムたちはを知らないのか。僕が詐欺師や無能扱いされて追放されたこと。


 ……どうしよう?


 ただ、冒険者ギルドを利用するのならいずれバレると思うので、正式契約を済ませる前に話しておこう。


「「「……」」」


 みんな唖然とした顔で黙り込んでる。失望しちゃったかな? まあ追放されるとしても、早いほうが傷は浅くて済むしね。


「騙されたみたいに思ったならごめん。入団テストは終わったけど、まだ正式に入るまでには言っておこうと思って」


「いや、ピッケル。そんなの別に構わねえよ。なあ、ジェシカ、ロラン?」


「うむ。まったく問題ないぞ、ピッケル」


「うんうん。むしろ、無能扱いだなんて何かの間違いとしか思えねーです。あれだけピッケルさんが凄いのを見ちまってるんですから」


「……」


 本音かどうかはともかく、三人とも前向きなのでよかった。


 そういうわけで、ギルドへ行き、正式に手続きをすることになる。契約書にサインして正式に契約が決まり、誘ってくれた三人と握手を交わす。


「ベホム、ジェシカ、ロラン。ありがとう。これからもよろしく!」


「「「よろしく、ピッケル!」」」


 仲間や受付嬢を含めて、周りにいた冒険者からも拍手をされたので、僕は照れ臭くもあり晴れやかな心境だった。元所属パーティーから酷い噂を流されたみたいだけど、応援してくれる人もちゃんといたんだなって。


 そういえば、前のパーティーでは正式な契約自体してなかったような?


 そうそう、いつ除名しても違約金が発生しない仮契約状態だった。


 そもそも、【超越者たち】は古い付き合いから自然発生したパーティーだったからね。リーダーのディラン以外は。あいつは隣村から引っ越してきた喧嘩自慢の余所者で、当時リーダー格だった僕に接近してきた。


 ディランは剣士として実力的にはそこまでじゃなかったけど、口が達者でカリスマ性だけはあったんだ。


 そうだ、あいつが仮契約にしようって言いだしたんだっけ。自分が迷惑かけてしまうかもしれないし、そういうときは追放してくれってしおらしく僕に言ってたのに。


 まあいいや。僕には今のパーティーが断然あってるしね。良い意味で心を盗まれたのかも。


 あと数日ほど経てば、この新しい面子で最難関のダンジョン、エドガータワーを攻略しにいけると思うと、今から期待感で胸が一杯になる。本当に楽しみだ……。

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