デッド・オブザワールド外伝 【ある少女たちの呪縛】
ShinA
第1話
――――人里から離れた山間にポツリと建つ日本家屋の屋敷があった。
屋敷の周りは木々がお生い茂り、蝶が舞う庭園が広がる。
そこにはある一族が住んでいると噂されていた。
外の者は誰一人としてその屋敷にどんな者達が住んでいるか分からない。
時折、衣食をその屋敷に運ぶ者さえも、使用人の女性数人に会うだけでどんな貴族が住んでいるのかなど知る由もなかった。
その屋敷が数十年後、何者かによって火をつけられ、跡形も無く、焼き尽くされた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「チガネ様」
地面にしゃがみ、蟻の行列を眺めていた少女は自身の名を背中越しに呼ばれ、顔だけ振り向いた。
丈の短い着物に、布を腰回りに固定した女性は困った様に溜息をついた。
「また裾を地面に引きずりましたね?
こんなに汚されて……あれほど腰を下ろしたときはお召し物には気を付けてと」
「あーあー! もう耳がタコになってしまう。
でも今日はちゃんと袖は汚れない様に捲ったのよ。
それは褒めて欲しいわ。
お母様にはちゃんと綺麗な着物を着替えてから会いに行くわ。
だから、怒らないで頂戴、
チガネは自身の両耳を手で覆うと、もう一度溜息をつき、眉を寄せている使用人の梢に向かって口を尖らせた。
「当たり前です。
その様な汚れが付いたお召し物のまま、ご当主様の前に行かれては、チガネ様のお目付け役の梢がお叱りを受けてしまいます」
梢はチガネの方に手を差し出すと、チガネはその手を取り、立ち上がった。
立ち上がったチガネは自身の着物に付いた土埃をはらう。
「ああ」
チガネは息を吐く様にそう呟くと、左手首から肘にかけて切り傷が出来ていた。
遊びに夢中で今の今迄気づかなかったが、どこかの木の枝にひっかけてしまったのだろう。
血は既に止まっているが、血の塊が傷口の周りにこびり付いており、もう片方の手の人差し指で塊を突っつくと、何とも不気味な感触がした。
「チガネ様、どうされました?」
チガネは傷口を梢に見せると、困った様に笑った。
「幸いなことに血が固まって、袖には付いていないみたい。
今回は少し派手にぱっくりと切ってしまったわ」
「左様ですか。
……ほぉら、チガネ様。
そんなモノはもう消えてしまいましたよ」
梢は興味がなさそうな物言いをすると、踵を返し、屋敷の方にスタスタと進んで行ってしまった。
「……そうかもしれないけれど、少しは心配してよ」
チガネは不貞腐れた様にそう呟くと、左腕を見た。
先程までハッキリと腕に刻まれていた傷も血の塊でさえも初めからそこに存在していなかったかのように、少し肉付きのいい白い肌だけが視界に映った。
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