三話

「蓮人」

 あとはもう帰るだけ、となった時、名前を呼ばれる。

「ああ、分かってる」

 身支度を終えた蓮人は、玲華と一緒に教室を出て、特に面白くもない話をしながら校舎を出る。

「朝言ってたけど、何食べたいんだ?」

 歩きながら、隣にいる玲華に訊く。

「んー、蓮人と一緒に食べれればいいよ。だから、近くのファミレスとかでもいいし」

「分かった」

 特に食べたいものは無いらしい。ただ食べれればいいだけ。

 そう言われれば、蓮人もそんな気がしてきた。特にこれが食べたい、というのは無かった。

 それなら、玲華の言う通りファミレスでいいだろう。

 数分、玲華と話をしながら歩くと、コンビニや公園などが見えてくる。

 蓮人たちの目的地は近かった。

 ファミレスが見えてきた——というところで。

「……あれ?」

 玲華が声を上げる。

 普段なら人がいるはずなのに。なぜか、その周辺だけ誰一人としていなかった。

「…………」

 おかしいな、と思いつつも、店の中へ入る。


「——ッ」


 息を呑む。


「うわぁぁ——ッ!」


 それと同時に、大きな叫び声を上げる。

「な、なんだ、これ……どうなってんだ……ッ」

 その場に尻餅をつく。

「……っ」

 その、ありえない光景に、連人は顔をひきつらせる。対して玲華は、特に反応することなくその場に立ち尽くしていた。

 ――何人かが血を流して倒れている。

 こんな非現実的な光景は、生まれて始めて見た。

 まるで、強盗殺人でも起きたのかというくらい——あり得ないことだった。


「——え」

 

 と。

 目の前に、真っ黒い何かが出現した。

「ちょ……蓮人、ヤバいよ」

「わ、わわ分かってる!」

 分かってる、と口では言うものの。体が言う事を聞かないんだ。

 それは、ただの動物ではないことは一目で分かった。

 全身真っ黒い毛で覆われ、口には鋭い牙のようなものが無数に生えていた。

 そいつは、目を真っ赤にさせている。今にも、襲い掛かって来そうな雰囲気を醸し出しながら。

 次の瞬間、刃をギラっとさせたかと思うと——そいつが飛びかかる。


「マズい——ッ」

 玲華が言う。


 そいつが食いかかるという所で。


「——危ないッ!」

 

 何者かがそいつを——そいつの頭を、吹き飛ばす。

「うわ……っ」

 その返り血が、2人にかかる。

「はぁ……大丈夫だった?」

「あ、あぁ……?」

 顔を手で拭き、目を開けると。

「……君は」

 そこにいたのは——真っ黒いドレスを着た少女が、こちらに目を向けていた。

「私は——レア。このままじゃマズい。早く逃げて」

「え……」

「ほら、蓮人行くよ!」

「お、おう……ッ」

 玲華に手を差し伸べられ、何とか立ち上がる蓮人。

 そのファミレスから出る際、もう一度後ろを振り返る。

「あれ……いない」

 先ほどの少女はどこに行ったのだろう。もう、姿はない。



 



 

 


 

 

 






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