記憶のメモ帳

阿久津 幻斎

第1話

「誰かに愛されていないと生きていけない」。こういうことを言う人間を見たことがある。本気で言っているのか、ただ単に誰かに愛されている自分が好きなのか私が推測できたことではないが、その人間は確かに常に誰かを求めているように見えた。

 私はそれが不思議に思えた。今まで生きてきて、誰かに対して愛を求めたり、信じたり、そういうことを本気でしたことがなかったからだ。きっと、そんなことをしても自分が本当に欲しいものは他人によってもたらされるものではないと、心のどこかで気付いていたからだ。

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