第15話 絵里子⑤
絵里子からバレンタインの約束みたいな内容のメッセージが届いたはずだが、メッセージアプリの画面には、『このメッセージは削除されました』としか残っていなかった。
どうやらすぐに削除したようだ。
(書き間違いか何かあったのかな?)
書き直して再度届くかな?と思って待ってみたが、再送されてこない。
気になった俺は、自分からメッセージを送ってみた。
『バレンタインの夜どうする?』
届いたものと同じようなメッセージを送ってみた。
すると、すぐに既読が付き、返信がきた。
「ゴメン! よく考えたらその日面接の練習入れてた』という内容と共に、子犬が全力で謝罪しているスタンプが届く。
(夜も練習があるのか。大変だな)
就活生の大変さを目の当たりにしながら、『大丈夫。頑張れ!』と返信し、猫が全力で応援の旗を振っているスタンプを送信した。
それ以降もメッセージのやり取りはするものの、直接会えるのは月に2回程度になっていた。
4月になり、俺も3年生になった。
絵里子は面接も順調に進んでいるようで、このまま行けば、早いうちに内定がもらえるかもしれないと嬉しそうにしていた。
(早く、就職活動終わらないな)
就職活動さえ終われば、きっと会える時間が増えるはず。
実は以前、もう少し会える時間を増やすためにバイトを減らすことも考えたのだが、絵里子から「学費の為に必要なんでしょ? 私の為に減らしちゃダメだよ」とやんわり叱られた。
そうなると、絵里子の就活が早く終わる事を祈るくらいしか無くなってくる。
その事に期待しながら、改めて絵里子の就職活動にエールを送る。
そして、4月と言えば新人歓迎会の時期!
俺と絵里子が出会ったイベントだ。
個人的には非常に思い出深いイベントなので参加したかったのだが、バイト先の先輩に「すまん!何とかシフト変わってくれ!!」とお願いされて、参加できなくなってしまった。
去年も人手が足りないという事で参加できなかったので、俺には縁のないイベントなのかもしれない。
(絵里子も就活で参加しないだろうし、参加できなくてもいいかな)
そして、新人歓迎会の当日。
一応サークルの全体連絡で日付や場所は分かっている。
行かないので関係も無いのだが。
講義が終わりバイトまで少し時間を潰して、そろそろバイト先へ向かおうと思った時、ピコンとメッセージが届いた。
見てみると先輩からだった。
『今日行けるようになった。出勤するよ』というメッセージの後に、燃え尽きたようなスタンプが届いている。
先輩は何かに玉砕したのだろうか‥
何が起きたのか少し心配になりながらも、『分かりました』とだけ返信した。
そういう訳で急に時間の空いた俺は、折角なので新人歓迎会に参加する事にした。
少し遅れてるが問題ないだろう。
幹事のセンパイに連絡だけ入れてOKをもらう。
現地に着くと、小さな店を貸し切っているようで、大学生くらいのお客さんであふれていた。
(えと‥とりあえず幹事探すか)
来た事の報告と会費の支払いをするために、幹事の先輩を探した。
辺りを見回しながら歩いていると、いい雰囲気になっていそうなテーブルがあった。
かなり大勢の参加者がいるのに、男女がふたりきりで席に座って話しているようだ。
(始まって間もないだろうに意気投合が早いな)
そんなことを考えながら二人の近くを通ると、聞き覚えのある声がした。
「ええ〜本当! 同じ学部なんだね。 じゃあ、分からない事があれば何でも聞いてね! 先輩が教えてあげるから」
(絵里子!?)
就活で忙しいって聞いてたから、てっきり参加していないと思っていた。
まぁ、確かに勝手に決めつけて予定すら聞いてなかったから、参加していてもおかしくはない。
俺は幹事を探すのは後回しにして、絵里子に話しかけた。
「絵里子、お疲れ様。 参加してたんだね」
声をかけると絵里子が一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「あ!ハルくん! バイトって聞いてたけど来れたんだね!」
「あぁ。 本当は代打を頼まれてたんだけど、結局出勤出来るようになったって、ついさっき連絡がきたんだ。 で、折角だから顔を出してみたんだよ」
俺と絵里子が話していると、先ほどまで絵里子と話をしていた男の子が目に入る。
あまり場慣れしていない雰囲気を感じて、新入生かな?とあたりをつけていると、絵里子が紹介してくれた。
「あ、ショウくん置き去りにしてごめんね。 この人は3年生の高橋遥。 私と同じで経済学部の先輩だよ」
「ぼ‥ぼくは、川田省吾って言います。 今年入学しました」
雰囲気通り、喋り方も少し緊張している感じだ。
もしかしたら俺と同じ人見知りかな?
そんなことを考えていると、絵里子が話に入って来た。
「この子も経済学部なんだって! 私達の後輩だよ。 ハルくんも面倒見て上げてね!」
なるほど、まさしく2年前の自分を見ているようだな。
「ああ、もちろん。 改めて宜しく!」
「は‥はい!」
確かにガチガチに緊張しているように見える。
さっきまでは、絵里子が話していたから緊張が少しほぐれてきたのに、新しい人が来てまた緊張した感じかな?
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ!」
「あの‥すみません、あまり人と関わるのに慣れてなくて‥」
なるほど、気持ちは痛いほどわかる。
こんな慣れない場所で知らない人達と話すなんて苦行だよな。
俺は出来るだけ怖がられないようにふざけて見せる。
「安心して、俺も人見知りだから!」
「え!高橋先輩が人見知りですか? 見えないです」
「そうかな? 俺も1年の時は川田君と似たような感じだったよ。 このおねぇさんお陰で少しはマシになったけどね」
そういって絵里子に水を向けると、少し自慢げに胸をそらす。
「ハルくんもあの頃に比べたら、本当に社交的になったよね。 おねぇさんは嬉しいよ!」
「ふぁ。 なんだかお二人ってとっても仲がいいんですね」
「ははは、まぁ付き「あ!ハルくん!そういえば受付済ました? 幹事はあっちの端っこにいるよ」
話している最中に絵里子が思い出したように話に入って来た。
中途半端ではあったが、確かに受付前だったので先に受付をすました方がいいか。
川田君には軽く挨拶だけして、絵里子と一緒に幹事のところへ向かった。
その後も和やかに新人歓迎会は進んだ。
大学のサークルと言えば、体育会系のノリをイメージしていたが、うちのサークルは結構良識のある先輩が取り仕切ってくれているおかげもあってか、安心して参加が出来る。
そして、新人歓迎会が終わり、お店を出て絵里子を探した。
絵里子は相変わらず顔が広いので、色々なところに顔を出していた。
俺は、絵里子と付き合ってから人見知りがマシになったとはいえ、相変わらず人と関わるのが得意では無かった。
そのため、途中からは絵里子と分かれ別々に過ごしていたのだ。
しばらく探して見るが、見当たらない。
途中で抜けるメンバーも多いので、すぐに見つかると思っていたが当てが外れたようだ。
メッセージで連絡してみると「明日の面接準備があるから先に帰っちゃった。 ゴメンね」と返信がきた。
折角なので、この後ふたりでゆっくり出来ればと思っていただけに、少し残念な気持ちがありつつも「大丈夫だよ! 頑張ってね!」と応援のスタンプと共にメッセージを返した。
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