第8話 人形
【お知らせ】プロローグが少し説明不足だったため、追記しております。
主に兄の過去に関するお話とあやめが家に来た理由などです。
読まなくても物語は分かりますが、気になる方は読み返してみてください。
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終業後、俺はなぎさと待ち合わせをして、案内されるままについていった。
「結局どこに行くんだ?」
「まだ内緒っす! 後でのお楽しみっす!」
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しばらく歩くと、繁華街に入っていく。
そこには煌びやかな建物が建っていた。
中からはけたたましい音が鳴り響き、大きな音が苦手な人だと入る事を躊躇するかもしれない。
そう、ゲームセンターだ。
「到着っす! 最近できた最新機器が揃ってるゲームセンターっす!」
店内に入ると、なぎさは早速クレーンゲームやレーシングゲームに目を輝かせている。
「ここすごいっすね! 色々あるっす! センパイ、何からやるっすか?」
「そうだな…前回のリベンジといこうかな」
と、なぎさに格闘ゲームを挑んだ。
以前にも別のゲームセンターに来た事があったが、なぎさはゲームが得意で、残念ながら惨敗した過去がある。
「おっと、センパイ、また負けそうっすね〜。 手加減しないっすよ! 本気で行くっす!」
なぎさが得意げに宣言する。
「はいはい、わかってる。 だがお前のその得意げな顔も今日までだ」
俺はジョイスティックを操作しながら返す。
ゲームは一進一退の攻防が続き、なぎさは俺の一挙手一投足にコメントを投げてくる。
「センパイ、そんなんじゃダメっすよ! もっとこう、スマートに! スマートに!」
「なぎさ! お前がうるさくて集中できない! そもそもスマートってなんだよ!」
俺は彼女の煽りを払いのけるように言い返す。
「だって、センパイのプレイ、見ててハラハラするっす。 もう少し、何ていうか‥繊細にやってくれると安心するんですけどねぇ」
「繊細って…お前に言われるとなんとなく腹が立つな」
そして、ついにゲームの勝敗が決まる。最終的にはなぎさの圧勝だ。
「やったっす! 流石センパイっすね! 後輩に花を持たせるのがうまいっす」
なぎさはニヤニヤしながら煽ってくる。
「くそっ、たまたまだ、たまたま‥‥まぁ、いい。 お前がうまいのは認める。 今度こそ、リベンジさせてもらうからな」
「はーい、いつでもお待ちしてますよ、セ・ン・パ・イ♪」
なぎさが得意げに笑いながら言う。
俺は少し苛立ちながらも、彼女のそんな無邪気な態度が面白くもあり、この気兼ねの無いやりとりが心地よいとも感じていた。
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ゲームセンターでの対決は続き、次に俺たちはガンシューティングゲームに挑戦した。
これでもかというほどのゾンビが襲い掛かり、銃声が鳴り響く中でも、なぎさは相変わらずの調子だった。
「センパイ、ちゃんとカバーしてくださいよ〜! 右からも来てるっすよ!」
なぎさが指示を飛ばしながら、次々とゾンビを倒していく。
「おう、任せろ!」
俺も必死になって画面上の敵に銃口を向ける。
なぎさの指示に従いながらも、どうにか形勢を保とうとする。
「うわっ、センパイ、その反応遅くないっすか? もっと、こう、シュン!って感じで動いてください!」
なぎさが俺のプレイスタイルをからかいながらも、彼女なりにフォローしてくれている。
「分かったわかった…ってシュンってなんだよ!」
俺は彼女の相変わらず意味の分からない指示に呆れながらも、笑いながら応じる。
ゲームは次第にヒートアップしていき、二人で協力してステージをクリアするたびに、俺たちの間の連携も深まっていった。
「センパイ! これがチームワークってやつっすよ!」
なぎさが大声で笑いながら、次のステージの準備をする。
「そうだな、おかげでなかなかいい感じで進められてるよ。 でも、お前の煽りはもうちょっと静かでもいいと思うぞ?」
俺は彼女に冗談交じりに伝える。
「えー、でもそれがなぎさスタイルっす! こればっかりは変えられないっす!」
彼女は屈託なく返答し、また新たな敵の波に向かっていく。
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ガンシューティングではかなり後半まで進むことが出来たが、最後の手前でゲームオーバーとなった。
コンテニューも考えたが、なぎさいわく。
「ノーコンクリアが私の美学っす!」
との事で、惜しい気もしたが、他のゲームを探すことになった。
様々なゲーム機を物色している時に、なぎさが一つのクレーンゲームの前で立ち止まり、中にある一つの人形をじっと見つめていた。
それはカラフルでキラキラした瞳の猫型ぬいぐるみだ。
「かわいいな。 欲しそうにしてるけど、取りたいの?」
俺が聞くと、なぎさはちょっと照れながらうなずいた。
「うん、ちょっと気になったっす。 でもなかなか難しそうっすね…」
彼女の声に少し諦めがちなトーンが混じっている。
どうやら、クレーンゲームは得意では無いらしい。
「じゃあ、俺が取ってやるよ」
そう言って、俺はクレーンゲームに挑戦し始めた。
初めの数回はクローが人形を掴みきれず、何度か挑戦してもなかなかうまくいかない。
5回目の挑戦でクレーンが人形を掴み上げた…が、次の瞬間にはクレーンから人形がずれ落ちてしまった。
「あ~~!! 惜しいっす…」
となぎさが諦めムードで言った。
がっかりして機械から目を離そうとしたその時、不意にクレーンの一部が人形のストラップに引っ掛かっていたことに気づいた。
「ん? 待ってくれ、なぎさ!」
俺が叫ぶと、クレーンが動き、引っ掛かったストラップのおかげで人形が落ちず、なんと動き出して他の小さな人形も巻き込んで一緒に落ちたのだ。
「わぁ! すごいっす、センパイ! やったっす!」
なぎさが目を輝かせながら、飛び跳ねて喜んでいる。
「これは運が良かったな」
人形を受け取り口から拾い上げ、笑いながらなぎさに渡すと
「嬉しいっす、センパイ! ほんとにとれるなんて流石っす!」
と感謝の言葉を繰り返した。
「んっと、これ、巻き込まれた小さい人形も一緒に出てきたな。 これは俺がもらうか」
なぎさが
「それ、いいっすね! お揃いっすよ! 恋人みたいっすね~」
となぎさがからかうように言った。
「はいはい」
俺が雑に返すと、彼女はもう一つの提案を持ち出した。
「せっかくだし、プリクラでも撮りましょうよ! 記念になるっすよ!」
「プリクラか…」
別に撮ってもいいのだが、なんとなく気恥ずかしい。
2人で撮るからというのもあるが、あのプリクラが立ち並ぶあの地帯は、女子高生が集まる場所というイメージが強いからだ。
「なにヒヨってるんすか! 行きますよ~」
と、なぎさはこちらの返事も聞かずに腕を掴み、引っ張って歩いていく。
なんだか面白がっているのかニヤニヤしているようにみえる。
「これでいいっすかね?」
なぎさがプリクラの機械を選び、二人でプリクラブースに入った。
ブースの中はカラフルで、様々なフレームやスタンプがあふれている。
俺たちはさまざまなポーズを取りながら写真を撮り始めた。
笑ったり、ポーズを決めたりと様々な指示が機械から流れる。
恥ずかしい気もしたが、どんどん撮影が進む為、流されるままポーズを撮っていく。
そして機械から『最後だよ~』という声と共に、次の指示が流れた。
『最後は~キス!』
「えっ」と俺は一瞬戸惑った。
なぎさの方を見ると、瞳をうるませこちらを見ている。
ドキドキしながらも、なぎさの顔を見ていた。
すると、なぎさはくすくす笑いながら
「センパイ、顔真っ赤っすよ。 冗談っすよ、冗談!」
と言って、その場をはぐらかした。
「もう、驚かすなよ」
と俺は少し赤くなった顔で彼女のほっぺを軽くつねった。
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俺たちはプリクラを撮り終え、店の外へ向かった。
外はすっかり暗くなっていた。
帰り道、なぎさはまだ興奮さめやらぬ様子で、歩きながらも今日のゲームの話で盛り上がっていた。
「センパイ、次はどんなゲームに挑戦するっすか? もっとアクション系とか、難易度高いの挑戦してみたいっす!」
彼女が熱く語りながら提案してくる。
「そうだな、後はもう少し戦略的なゲームもやってみたいな」
俺は彼女の提案に乗りつつ、今後のプランを考える。
「センパイ、あのシューティングゲームの最後、ほんと難しかったっすよね! 次こそノーコンクリア目指すっす!」
なぎさが笑いながら次に向けての決意を漲らせていた。
駅に着き改札口を抜けて、ホームで電車を待つ。
「センパイ、今日は楽しかったし、人形も嬉しかったっす! また遊びましょうね!」
「ああ、また今度な」
と俺が応えると、なぎさはにっこり笑い、元気に手を振りながら電車に乗り込んでいった。
俺も手を振り返し、彼女の姿が見えなくなるまでその場で見送った。
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家に帰ると、リビングの灯りが柔らかく部屋を照らしていた。
あやめがソファでスマホを見ながら、俺の帰宅を待っていたようだ。
「お兄ちゃん、遅かったね。 最近、帰りが遅い日が多いよね~」
あやめが、拗ねたように言う。
少し怒っているようだ。
なぜかここ数日は連続でお誘いを受けていたからな。
「ああ、ごめん、ごめん。 今日は急遽会社の後輩から遊びに誘われて遅くなったんだ」
俺は彼女に軽く頭を撫でながら謝った。
「ふーん、そうなんだ~ あやめはお兄ちゃんと全然遊べてないな~」
あやめが少し怒ったようにふくれっ面をしている。
「悪かったよ。 今度埋め合わせするから怒るなって」
その言葉を聞き、あやめの表情が少し明るくなる。
「本当? じゃあ、お出かけしよ! お兄ちゃんと一緒にどこかに出かけたい!」
「ふむ、ちょうどこの週末は予定も入っていないし、遊びに行くのも良いかもな。 じゃあ、今度の週末に遊びに行こうか。 ごめんな、最近忙しくてなかなか時間が取れなくて」
俺がそう言うと、あやめはにっこりと笑って
「ううん、いつもお仕事大変だよね! お疲れ様! 週末楽しみだな~」
(大学生になっても、これくらい喜んでもらえるのはありがたい事だと思うべきかな)
よその兄妹がどんなものかあまり知らないが、この年になっても可愛い妹がなついてくれているのは嬉しいものだ。
そんなことを考えながら、着替えていると、あやめがどこかを見つめている。
「う〜ん? おにいちゃん、これ‥‥」
そういって、俺のカバンの方をさしながらぷるぷる震えている。
「キラにゃんだ! どうしたの??」
(キラにゃん??)
なんの事かと思い、見てみると、さっきなぎさと一緒にとった人形だった。
「キラにゃんって言うのか。 好きなのか?」
「うん! とっても可愛くて大好きだよ~」
あやめのテンションがいつもより2割増しくらい高い気がする。
「欲しいならあげようか?」
「えっ! いいの!」
「ああ、偶然とれただけだしな」
なぎさの人形を狙っていたら、偶然巻き込まれて落ちただけの人形だからな。
そんなに喜んでくれるなら、人形も喜ぶだろう。
「やったー! ありがとう!」
その後、二人で週末の予定を少し話し合い、行く場所については各自考える事になった。
「じゃあ、おやすみ。 明日もいい日になるといいね!」
と言ってあやめは自分の部屋に戻った。
「おやすみ、あやめ」
俺は彼女の背中に手を振りながら、部屋に戻る。
あやめとの仲直りができて、ホッと一息ついた夜だった。
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