虹色の泉

緑暖簾

きこりの泉


 昔々、あるところに一人のきこりがおりました。


 ある日、きこりが作業の合間にスマホで不倫相手とのLINEをニヤニヤしながら見つめていますと、妻からメッセージが届きました。そこには「あなた浮気してるって本当?」と書いてあったため、きこりは大変動揺し、うっかりスマホを近くの泉に落としてしまいまったのです。


 きこりは狼狽しました。きこりは美少女がたくさん出てくる、ちょっとエッチな放置ゲーを5年前からスマホに入れており、課金もざっと1両くらいしていたのですが、ものぐさでバックアップのたぐいを一切していなかったのです。


 「まりなちゃんの限定SSスキンが......7周年メリクリ水着姿が......」


 放置ゲーはきこりの希望でした。それを失った今、きこりには生きる理由がなくなってしまったのです。


 きこりが泉に身投げしようとしたそのとき、泉が虹色に発光すると――


「そこのお方、あなたが落としたのはこちらの金のスマホですか?それとも銀のスマホですか?」


 泉の女神が現れました。


「いいえ、俺......いえ、私が落としたのは画面にヒビの入った黒いスマホです」


「正直ですね。では、それは、こちらの放痴美少女1周年特別ガチャ限定まりなスク水スキンのデータの入ったスマホですか?」


「はい!そうです!」


「嘘をつきましたね。では、こちらのボロのスマホをお返しします」

 そう言うと、女神は泉の中へ消えていきました。


 きこりは早速、スマホを開こうとしたところ――壊れていて電源が入りませんでした。きこりはひとしきり女神と自分の妻について悪態をついたあと、泉に身を投げました。


 女神は現れませんでした。ただ、泉の底から「てめえなんかいらねえよ」という声が聞こえた後、きこりの死体が浮かび上がってきた、それだけのことでした。


 めでたし、めでたし。

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