【打切】最強のお姉さんに溺愛される新米最弱冒険者のレベルアップ活動記~自称Dランク後衛職は平和におねショタしたい~
たしろ
第1話 お姉さんは自称Dランク
レンガ造りの平屋が連なるリノイの街並み。
その一角にそびえ立つ城のような巨大施設に冒険者たちは集い、そして仲間を集い旅立っていく――
新米冒険者のシロは集会所の壁沿いに置かれたベンチに座っていた。
まだ幼さの残る白髪の少年が剣士のような装いで、黙々と声を掛けられるのを待っている。
しかしもうかれこれ三時間ほどは何の成果も無くそこにいた。
「あのぉ」
見かねた受付嬢の一人が窓口から出てシロに声をかける。
一瞬嬉しそうに顔を上げるシロだったが、声の主が受付嬢だったことに気づくと表情は一変して口を尖らせた。
「なんですか?」
「さっきからずっとそこにいるけど……」
「僕に構わなくて結構です」
シロは逃げるようにベンチを離れた。
集会所では大勢の冒険者が和気藹々と酒を酌み交わしている。
「なんで誰も参加してくれないんだろう……」
シロは握っている受注書に目を落とす。
Fランクの薬草採取クエスト。報酬も雀の涙ほどで、他の冒険者であればもののついでに受けるような内容である。
メンバーが集まらないことに落胆したシロがテーブルの近くを徘徊していると、顎髭を蓄えた屈強な男がジョッキを突き出して行く手を阻んだ。
「おいガキ、酒を持ってこいよ」
嘲笑するような男の口ぶりに、シロは怒りをあらわにする。
「おいおっさん、僕はハンターだぞ!」
「悪いな坊主、てっきり給仕の手伝いかと思っちまったぜ」
男のジョークに周囲のハンターは一斉に笑い出す。
「バカにしやがって……」
腰に差された剣にシロの手が伸びる。が、刃を抜こうとした瞬間に何者かがシロの手を押さえて抜刀を止めた。
「えっ?」
突然のことに驚き、シロは咄嗟に後ろを振り向いた。
そこにいたの大弓を背負った女冒険者だった。
金髪青眼のおっとりとした顔立ちの女は、シロより一回りほど年上に見えるが冒険者としてはまだ若い。
「なんだテメェ?」
水を差されたことに苛立ち、男は立ち上がって女を睨みつける。
熊のような巨体を前にしてなお、女は顔色一つ変える気配がない。
「随分と低俗なこと」
無言のまま睨みあう二人。ぞくぞくと野次馬が集まり、喧嘩の舞台が整っていく。
一瞬の静寂の後、先に動き出したのは男だった。
「このアマァ!」
勢いよく突き出された拳を女は右手一つで受け止める。
間髪入れずに女が上体をひねると、大柄な男が宙に浮いた。
「なっ!」
手を離されると共に男は投げ飛ばされて壁に衝突した。
女はそれに一瞥もくれずにシロの方へと向き直る。
「大丈夫? 恐くなかった?」
「えっ、あっ、はい……」
ドン引きするシロに女が手を差し出す。
「私はアリシア、D級のアーチャー。よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします……僕はシロです……」
流されるままに握手を交わすシロ。
アリシアはシロの手を引き、勢いよく抱きしめる。
「ア、アリシアさん! 胸が!」
「ふふっ、照れちゃってかわいい!」
赤面して暴れるシロとそれを無邪気に押さえつけるアリシア。
いちゃつく二人の背後に先ほどの男が表れる。その手には大斧、溢れ出る殺意に野次馬たちは後ずさる。
「この野郎、舐めやがって!」
振り上げられた斧が二人に向けて振り下ろされる。
アリシアはシロを抱いたまま横に飛んでそれを避けた。
舞い上がる塵埃。砕け散った石の床を見て、アリシアはまた無表情になる。
「その程度の実力で舐められない方が可笑しいと思わないの?」
「俺はB級、龍殺しのボザットだ! 雑魚扱いしてんじゃねーぞ!」
再び斧を振り上げて襲い掛かるボザットに、アリシアはため息をこぼす。
「あんなトカゲを倒したことに浮かれてるなんて、本当に程度が知れるわ」
そう言ってアリシアはシロの前に立つ。
ボザットが放つ全力の一撃はアリシアの胴体に直撃した。
胸当ては砕け、服は斬れ、しかしアリシアは微動だにしない。
「これ、どうしてくれるの?」
ゆっくりと斧を握るアリシアからボザットは逃げることができなかった。
龍と対峙した時、否、それ以上の威圧感を放つ眼前の相手に足がすくんで仕方がない。
アリシアがほんの少し力を込めると、斧は軋みヒビが入った。
「弁償、なんてちゃちなこと言わないわよね?」
ボザットは尻餅をつき、手から斧が離れる。
服の切れ目から見えるアリシアの肌には傷一つ無い。
「なんだよ、俺を殺そうっていうのか?」
「馬鹿馬鹿しいわ」
アリシアが手を伸ばすと、ボザットは目を閉じて丸まった。
しかし拳は一向に振るわれず、ボザットは恐る恐る薄らと目を開く。
「今後シロくんに手を出したらどうなるか、分かってるわよね?」
パンパンに膨れた財布を握り、アリシアはもう片方の手でシロを引き連れて集会所を去る。
ドアを開くと空は晴れ渡り、街は活気に満ちていた。
「あの、ありがとう……」
シロはうつむいたまま感謝を述べる。
そんな彼と目を合わせるように、アリシアはしゃがんで頷いた。
「どういたしまして。それで、どうしてずっとあんな所にいたの?」
アリシアの問いかけに対しいてシロは言葉に詰まる。
パーティーを組めずにいたとは恥ずかしくて口が裂けても言えない。
右手に握りしめた依頼書を後ろに隠して、シロは作り笑いで誤魔化そうとする。
「実はその……」
「あれ~、その紙は何かな~?」
シロの不意をつくように依頼書を奪うアリシア。
「薬草採取のクエストか~」
「あっ、それは……」
アリシアは立ち上がり、ゆっくりと街の方へと歩いていく。
今までに幾度も経験した置いていかれる感覚にシロの胸は締め付けられる。
「一緒に行こうよ!」
振り向き微笑みかけるアリシアに、シロは無言で駆け寄る。
アリシアに連れられるがまま、シロは街の外れへと歩いていった。
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