第35話『一世一代の出たとこ勝負』
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「いや、それは警察の仕事じゃない?」
メノウに電話をして、事情を説明して、いの一番に言われた言葉がそれだった。
俺は思わず肩をがっくりと落とし「そうだけどさぁ!」なんて、ちょっと叫んでしまう。
「あのさ花ちゃん。確かに、レンさんとネムノキちゃんなら、何とかできるかもしれないけど。それに花ちゃんがついていく理由はなに?」
「こっちのトラブルをあの二人にだけ押しつけるってのはさ……」
「二人が悪いわけじゃないけど、これはどう考えても向こうの世界の何かが原因でしょ。てか、花ちゃんはもう勇者の力なんてないんだから。大人しくしておくべきだよ」
「それはそうだけども……」
メノウの正論が、どんどん俺のやる気を削いでくる。
しかし、どうしても俺はレンとネムにだけ任せておくというのができない。
「古い言い分かもしれないけどさ。今どき、問題になっちゃうかもだけど。女の子に危ないこと全部任せて引っ込んどくのは、やなんだよ」
「ここで逃げても、花ちゃんを臆病だとか言わないよ」
「そういう問題でもなくて。……この街であんなもんが流行りだしたら、俺の友達とか、知ってる人とか、知らない人も、みんなが危険だろ?」
「だから、それは別に、花ちゃんがやんなきゃいけない理由には……」
「それに、お前が危険になるかもしれないだろ。俺は、それが一番イヤなんだよ」
電話の向こうで、メノウが息を呑む音がした。
「俺はお前のことを、お前が思うよりずっと大切に思ってるつもりだ。めったに親が帰ってこねえ、寂しいって誰にも言えない。そんな中で、隣に居てくれたのはお前だ。お前がいなかったら、俺はどうなってたかわからねえ。だから、メノウに何かあるかもしれないような街にしておきたくねえんだ」
「……恥ずかしっ。今の、練習した?」
クスクスと笑うメノウの声に、俺は「一世一代の出たとこ勝負だよ」と、笑い返した。
「許嫁が二人いる人に言われてもねえ」
「大切な幼馴染にだけさ」
「うわ〜っ。浮気者の言葉だぁ」
「そんなつもりないんだが!?」
「レンさんとも、ネムノキちゃんともキスしておいて?」
「不可抗力だ!」
「そうやってツバメを都合よく使うんだから。王子様は」
メノウが自分をツバメという時は、俺に力を貸してくれる時だ。
きっと、こいつなりの照れ隠しなのだろう。
「いいよ、王子様。私はなにをすればいい?」
「ありがとう。ネットで情報収集を頼む。『
「あれ、花ちゃんに合流しなくていいの?」
「街はめちゃ危険だからな。できりゃ家にいてくれ。お前を危険に遭わしちゃ、ご両親に申し訳ない」
「りょーかい。期待しといて、王子様」
そう言うと、電話が切れたので、俺はポケットにスマホを戻した。
メノウと話したことで、少しだけ頭の中か整理できたな。
レンは薬を使っていたやつが誰だか知らないと言っていた。
異世界の人間達もそんなに人数来てないと言ってたし、そもそも違う世界に行く技術を国が管理していないわけがない。
であれば、王家のレンが知らないなら、あいつはこっちの人間だろう。
そして、そんなやつまで薬を使っているのなら、もう結構広がっているのかもしれない。
俺は、メノウ以外の知り合いにも一応メッセージを飛ばしておいた。
変なやつかいるらしいから、気をつけてと。
「……ん?」
メッセージを送り終え、スマホをしまって、空いた左手を見る。
そこには、忌まわしき呪いの刻印があるのだが。
その刻印が、小さくなっているように見えた。
「あれ。朝には、薬指全体に広がってたと思ったけどな……」
しかし今見る限りでは、指輪サイズにまで縮んでいた。
これって、約束を履行させるための呪いだよな?
俺、あの女との約束を守るための行動なんて、一切してないぞ?
よくわからないが、呪いが縮んでいるなら、いいことか。
とりあえず、今は薬をバラ撒いているやつをとっ捕まえるためのことだけ考えよう。
そうして部屋に戻ると。
ソファの上で、拳が届く距離で睨み合うレンとネムの姿があった。
「なにしてんだぁ!?」
「花丸様には私がいるから『
「あらぁ? 私に勝てないお姫様が、どうやってお兄様の力になるのかしら」
「私には、勇者の心造兵器があるのを、お忘れなく……!」
「もらいものの力でイキがって……!」
「それはネムノキさんも同じことでしょう……!」
「おぉい二人とも! なに喧嘩してんの!」
二人の間に入り、肩を掴んで遠ざける。
この二人、近づけると喧嘩するのかよ!
「花丸様がはっきりしないからです!」
「そうよ、お兄様。私と、お姫様と、メノウさん。誰にするの?」
「えっ、そこにメノウさんも入るんですか?」
「あら、お姫様も鈍いわね……。私は、ブーギーの件でメノウさんと一緒にいたけど、ずっとお兄様のことを心配していたわ。それに、ただの幼馴染っていうだけじゃ、あんな無茶に協力しないでしょ」
「むっ……確かに、それはそうですね……」
二人の視線がこっちに向いた。
やめてくれぇ! そういうのは俺の中で、しっかりと言語化できてから、ちゃんと答えを出させてくれぇ!
「と、とにかく今は、薬をバラまいているやつの調査からだ! ネムは『
俺は結局ごまかし、二人に仕事を与えて、あーだこーだと言わせないことにした。
「花丸様、また逃げて……」
「はぁ……人助けが優先ってわけね。お兄様のお人好しにも、困ったもんだわ」
二人の呆れた視線をものともせず、俺は「行くぞ!」と先んじて部屋を飛び出した。
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