第21話『これがお姫様の実力』

  ■


 バイクを走らせ、俺が向かったのは、国道沿いにある廃車置き場だった。

 先日、美津子さん夫婦の車を引き取ってもらった場所。

 車を運び込むということもあって、広い道路に面しているため、タンクローリーも入ってこれるのだ。


 さらに、メノウを介し、魔物達にここへ人払いの魔法をかけてもらっているので、人がいないのも確認している。


 車が周囲にうず高く積まれている場所をバイクで走り抜け、タンクローリーとレンから言われた通り、十分な距離を取った。

 十秒もしない内に、タンクローリーが俺達に突っ込んでくるだろう。


「レン、頼んだ! 爆発はさせないように!」


 バイクを停め、レンを降ろすと、レンが俺と向かってくるタンクローリーの間に立ち、ターコイズを剣道の試合前にそうするように、構えた。


 そして、大きく剣を振り上げ――。


「あっ、忘れてた。花丸様!」

「ん!? 今か! もう来るぞ!?」

「魔力をいただきたいのですが、よろしいですか! 私ではあれを切るほどの魔力は出せませんので!」

「よ、よくわかんねえけど、好きなだけ!」

「では、お言葉に甘えて!」


 そう言うと、レンは素早く俺に近づいて、首を片手でホールドする。

 え? なんで? てか、魔力ってどうやって上げれば……。


 と、そこまで考えて、俺はレンの言葉を思い出した。

 魔法関係は、キスでやりとりするのが一番手っ取り早い、というあの言葉を。


「あ、レン、ちょ、ちょっとま」


 だが、俺の静止など、この緊急事態に聞くわけもなく。

 レンは遠慮なく、俺の唇に自らの唇を重ねた。


 あーっ! やっぱりぃ!!

 ってか、舌入れてない!?


 俺がジタバタしている隙に、レンは魔力の吸収を終わらせたらしく、俺から離れて剣を構え直した。

 そうか、俺は無限魔力とやらを持っているから、俺から魔力を吸収するほうがリソースがないのか。


 もう逃げるのを諦めるくらいには、タンクローリーは俺達に迫ってきていたが、ほんとに切れるんだろうな!?


「フラーロウ式、剣闘術」


 レンがつぶやくと、それが合図だったかのように、ターコイズの切っ先が白く輝き出した。

 まるで、重たい煙のように、ターコイズにまとわりつく白いモヤも現れる。


 なんだか、ターコイズの剣の部分が氷になったかのような。


 そしてレンは、その剣を、タンクローリーに向かって振り下ろす。


「氷華天撃ッ!」


 一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 タンクローリーが、すり抜けたのかとすら思った。

 俺達の左右に別れたタンクローリーが、車の山に激突し、轟音を立てる。

 おそらく、爆発しないようにというレンの気遣いなのか、切られたタンクローリーは両方とも氷の塊になっていた。


「ほ、ほんとに切れちゃったよ……」


 左右のタンクローリーだったものを見て、俺の背筋も冷えた。

 ……レンは怒らせないようにしなきゃ。


「花丸様、やりましたっ!」


 ターコイズをしまったレンが、俺に駆け寄って、抱きついてきたので、受け止めてやる。


「おととっ。いや、さすがレン」

「どうですか! これが私の実力!」

「あぁ。すごい。すごすぎて、ちょっと引いちゃった」

「引っ!? ひどい! 花丸様がやれというからやったのに!」

「いや、てかそんな場合じゃない! ブーギーはどこだ!」


 レンを引き剥がし、周囲を見回す。

 すると、今度はタンクローリーの片割れから、モヤのような、霧のようなものが出てきた。


「あれが本体か」

「ええ。取り憑けるものを探しているみたいですね」

「ここには壊れた車しかないからな。取り憑けないんだろう」


 そう言いながら、俺のバイクがあったことを思い出した。

 やばい! あれに取り憑かれたら逃げられる!


 バイクが停めてあった方を見ると、俺のバイクは、タンクローリーの片割れに潰されて、おしゃかだった。


「のぉおおぉ!?」

「あ……」


 やってしまった、というようなレンの声と、俺の悲鳴が木霊する。

 が、仕方ない……! 俺のバイクが壊れるのはもういい……!

 ブーギーを逃さないのが大事なんだから……!


「と、とにかく、ブーギーを捕まえてくれ……」


 俺は力の抜けた声でそう言うと、レンは一瞬迷いながらも、ブーギーに近づき、香水の瓶のようなものを取り出し、その蓋を開けた。


 すると、ブーギーと思わしきモヤはその瓶に吸い込まれていく。

 ネムからもらった、捕獲用の瓶である。


 なんやかんやと上手くは行ったが、俺は結局バイクを失う羽目になってしまった。

 ……バイトでもしようかな。

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