第20話『怒った魔物がやってくる』

 俺は、鳴った方向を確認もせず、アクセルを捻り走り出した。

 風になるかのように、思い切り。

 俺の予想では、ブーギーとやらは怒り心頭のはずだ。

 どういう心の動きがあるのかは想像できないが、少なくとも、友達としてネムと接してきたのなら、その敵を取ろうとするはずだ。


 俺達に狙いを定めてくる。

 なら、逃げるしかない。


「うわぁぁぁぁ花丸様ッ!」


 後ろのレンが大声を上げて、俺を揺さぶってくる。


「うぉっ! 揺らすな揺らすな!! なんだ!?」

「うしっ、後ろ!」


 レンの言葉に、俺はミラーをちらりと見た。

 ちらりのつもりだった、のだが。

 背後の光景に釘付けになってしまったのだ。


 背後から追いかけてきたのは、なんと、タンクローリーだった。


「たっ、タンクローリーだとぉッ!?」


 クソッ!

 怒り心頭すぎて、周囲にある中で一番でかい車を選びやがった!


 まずいっ!

 あいつ引き連れて、街中を爆走なんてしたら、犠牲者が出ちまうぞ!?


「ど、どうしましょう花丸様ッ!」


 背後のレンの声が震えているところから、彼女もそれがわかっているのだろう。


 今、俺はアクセル全開で、港に向かっていた。

 港の海に突っ込み、ギリギリでヤツを躱し、海に落とすというのを考えていたのだが。


 港までは十分から一五分くらいかかる。

 その間逃げ続けるのも、犠牲者を出さないのも、現実的ではなかった。


 もっと近い場所で、ヤツを追い込まなくては……!


「花ちゃん! 大丈夫なの!?」


 切っていなかった電話から、悲鳴のようなメノウの声が響いた。

 くそ、まずはできることをしないと……!


「メノウ! ネムに、人気のない場所に誘導するよう伝えてくれ!」

「りょ、了解!」


 一応、港に向かってはいるが、こうしている間にも、どんどん選択肢が削れていく。


「花ちゃん、国道の方がいいんじゃないかって、ネムさんが言ってる! ホームセンターとかある方!」


 あっちか……。

 だが、そっちに行くと、港には出れない。

 そして、都心に向かってしまうので、より人が多い方に向かうことになる。

 これでは、問題を先送りするだけだ。


 考えろ!

 考えろ、考えろ……!


 なんか、どっかしらに答えがあるはずだ! 

 人生全部思い出せ!


 そうしている内に、国道に出るか、港に出るかの交差点が見えてきてしまう。

 どっちに行くかで、正解が変わる。


 港までの道にはあまり行かないが、大したスポットはなかったはずだ。

 逆に、国道の方は結構行く。

 こないだも、美津子さんの付き添いで――。


「……あそこか!?」


 考えている間はなかった。

 俺は、国道への道を選択した。


「レン!」

「はっ、はい!」

「追いかけてくるやつと、距離を取りたい。できるか!」

「お任せください!」

「止めるまではしなくていい、見失わせるな!」


 レンは頼もしい言葉で、片方の手を俺から離した。


「花丸様のターコイズに、不可能はありません!」


 そして、片手でターコイズの引き金を引いた。

 銃剣のような形をしていたから、そうだとは思ったが、その瞬間、空気が弾ける高い音がして、銃口から光の弾が飛び出し、タンクローリーの少し前方に着弾した。


 そして、それを連射することで、これ以上近づいてくるなと、拒絶の弾幕を張ったのだ。


「ナイス! ついでに、もう一個!」

「はい! なんでもしますよ!」

「あれ、ぶった切れる!?」


 背後のレンが黙った。

 そらそうか! さすがに無理か!


「十メートルくらい、離れてくだされば!」

「いけんのか!?」


 嘘ぉ!?

 俺から言っといてなんだが、あれタンクローリーだよ!?


「大技を使うので、バイクから降りて、力を溜める時間さえいただければ、いけます!」

「マジかよ! ありがてぇー!」

「これでも、フラーロウ第一騎士団、団長なので!」

「フラーロウも安泰だぜ!」


 でも、それは個人が所有してたらダメだと思う!

 絶対法律に引っかかる!


 そんな言葉を飲み込み、俺は目的地に向かって、ハンドルを切った。

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