異世界転生しようとトラックに飛び込むも失敗し、それならばと異世界エレベーターに乗ったら異世界転移に成功しました
マスク3枚重ね
第1話 ちゃんと異世界転移できました
皆は中学生で中二病に掛かっただろうか。僕は絶賛中二病である。だが、小説やアニメなどに出てくるようなキャラのオープンな中二病を発揮出来る訳では無い。いわゆる隠れ中二病、または準中二病でもいい。
「私がこの世界の全てを黒き炎で焼き尽くす!低脳な民衆ども全てが黒く炭化し、私の前に転がることになるだろう!」
三ツ矢 賢(みつや まさる)は1人自室で声を上げていた。今日は母も父も仕事でまだ帰ってこない。存分に声を上げられる。そして、父の部屋から拝借してきたライターを取り出し、クラスの集合写真に火をつける。
「ハッハハ!良いざまじゃないか!私を怒らすから、こうなるのだ!お前達の悲鳴と言う名のレクイエムを私に聞かせて貰おうか!」
もちろん、誰の悲鳴も聞こえるはずがない。部屋の中では賢の声と手に持った静かに燃える写真だけだ。
「痛いか?苦しいか?それが貴様らの末路だ!ざまあみろ!ってあつっ!」
写真の端まで火が迫って来ているのに気付かず、賢の指先を炙る。痛みで手から火のついた写真をカーペットに落としてしまう。
「うわあ!ヤバい!水!水!」
賢は急いで自室からキッチンへ行き、コップに水を汲み自室に戻る。急いで写真に水をかけると火は消える。だが、黒くボロボロになった濡れた写真を摘むとカーペットが焦げていた。
「ヤバいヤバい!怒られる!」
急いでライターを父の部屋に戻し、焦げた写真はゴミ箱の1番奥へと捨てる。カーペットの焦げ後はどうしようと焦っていると「ただいまー!」と母が帰ってきてしまう。賢は咄嗟に布団を被せ隠し、玄関に向かう。
「お、おかえり…」
「ただいま賢ちゃん、お勉強はちゃんとしてた?」
「し…してたよ」
僕は嘘をつき目を逸らすと母が目を細め睨む。疑われているのだろう。すると、母が鼻をスンスンとしだす。まずい窓を開けるのを忘れていた。
「何か臭くない?焦げたような」
「そうかな…?僕は分からないけど…外で何か燃やしてる人が居るんじゃない?」
「外じゃないわ。中よ!」
そう言うと母が急いで靴を脱ぎ、賢の横を通り過ぎていく。キッチンを確認し次に父の部屋と臭いの元を辿る。結局、最後僕の部屋の前に辿り着き、僕の必死の抵抗虚しく母が部屋に押し入る。カーペットの上に不自然に敷かれた布団をひっぺがされ、母が叫ぶ。
「賢ちゃん!これはどういう事!?あんたまさか…タバコでも吸ってるの!?」
「違うよ!タバコなんて吸ってない!」
「じゃあ、この焦げ後は何よ!ちゃんと説明しなさい!!」
母は大激怒し、部屋の中をひっくり返す勢いでタバコがないか探し周り、ゴミ箱の中のボロボロに焦げた写真を見つける。それを見た母はさらにヒステリーに叫ぶ。
「貴方まさか!学校で虐められているのね!?」
こうなった母を止めることは僕には出来ない。どんなに違うと主張しようが、母の耳には入らない。僕は虐められている訳ではない。ただ、虐められている女子は居た。僕はそんなクラスが大嫌いだった。そしてこんな事しか出来ない自分も大嫌いだった。その集合写真には彼女は写ってはいなかった。
母は学校へと怒鳴り込み大事にした。クラスで虐めがあると、私の息子が被害に遭っていると吹聴して回り、そのせいで虐めの主犯格が僕に目を付け虐めの標的になった。程なくして、彼女と同じく僕も不登校になった。
部屋に引きこもってどれくらい経っただろうか。僕は転生モノの漫画やアニメが好きだった。 PCの画面には永遠とアニメが流れている。
「ははは…僕も異世界に転生したいな…召喚されないかな…」
僕は負け犬だ。母に言われて勉強を頑張って、いい中学に入ったのに後は高校受験とかも頑張らないとって考えていたのに良いざまだ。僕の人生これまでだなと考え思いつく。
「そうだ!僕も異世界転生しよう!向こうでやり直せばいいんだ!」
王道はトラックだろうか?跳ねられて異世界転生すればいい。僕は久々に部屋を出て、外へと向かう。外は暗かった。月が登り、星々が輝いていた。
「今、夜中だったんだ」
ずっと窓を締切、ダンボールで陽の光が入らないようにしていたせいか時間の感覚が無くなっていた。賢は大きく深呼吸をすると夜の空気が身体に染み込む。久々の外の空気が美味い。今日は絶好の転生日和に思えた。
「うははは!この世界ともこれで最後!この家の者には世話になったなっ!」
僕は走り出す。夜の街をカッコよく走る。きっと今の僕には誰も追いつけないだろう。何故なら黒き狼が足に宿っているのだから。目から暖かな涙が頬を伝い、静かな街へと落としていく。
高速道路のフェンスをよじ登り、トラックが来るのを待つ。僕は息を整え、手を胸に当て心臓の鼓動を抑え込む。
「静まれ!私の心臓!もう少しの辛抱だ!」
すると右からトラックがやって来る。僕は息を飲む。目を硬くつぶり、叫ぶ。
「さらばだ!残酷な世界が私を殺し、新たな世界に旅立つのだ!!」
賢はフェンスから飛び降りる。トラックが大きくクラクション鳴らし、僕の身体へと迫ってくる。
怖い…死にたくない…まだ生きていたい。そう思ってしまった。やはり、僕は中二病になりきる事は出来なかったのだ。
トラックはクラクションを鳴らしたまま行ってしまう。飛距離が全然足りていなかった。賢は立ち上がる事が出来ず、その場で声を上げて泣いてしまう。
「僕は…僕は…う…うう…」
結局、その後にトラックが来る事はなかった。賢はトボトボと歩き家に向かう。フェンスから飛び降りた時に膝を擦りむいたらしく、ジンジンとした痛みが皮肉にも生きている実感をさせる。
「この世界はまだ私を生かそうとするのか…やはり残酷だな…」
賢がハハハ…と力なく笑う。すると横にコンクリートのビルの廃墟が目に入り足を止める。ここは街では有名な心霊スポットらしく、お化けが出るとかエレベーターで異世界にいけるとか眉唾な話がある。
「異世界か…転生じゃなくて、エレベーターだと転移になるのかな?」
僕はそのビルへと入って行く。中は酷くボロボロで壁はコンクリートが剥き出し、所々鉄筋が飛び出ている。正直、怖いと感じるがそれでも奥へと進んで行く。奥に進むにつれ、月明かりも届かなくなる。だが賢は引き返さなかった。何かに導かれる様に奥へと進んで行く。大きな引力が賢を捕え引き寄せられる様な感覚、この先に引力の核があると感じて止まない。奥の道を曲がるとそこには階数表示が光り、稼働しているエレベーターがあった。
「本当にエレベーターが動いてる…」
賢は点灯する上矢印のボタンを押すと、静かに鉄の扉が開いていく。開くと中に蛇腹扉が閉まっていて、それもひとりでにゆっくりと開いていく。中は木目調のレトロな作りになっていて、明らかにこのビルのエレベーターとは不釣り合いだ。賢は確信する。これに乗れば異世界に行けると。
「ふ、ふふふははは!やっと私にもツキがまわってきたな!」
興奮と恐怖が入り乱れ、賢の足がエレベーターの中へと進ませる。中に入ると柔らかな赤い絨毯が敷かれ、上のライトが優しい光で賢を照らす。ボタンや階数ランプは着いておらず、どうすれば良いかと考えていると勝手に蛇腹扉と鉄の扉が閉まり上へ上へと進んで行く。蛇腹扉の隙間から見える景色は真っ暗で何も見えない。だが明らかにエレベーター内部とは思えない程に奥までその闇は広がっているように感じた。
「ふ…私をどこまで連れて行ってくれるのだろうな?異世界ならば良し!はたまた天国か地獄か…どちらにせよ、私がその世界の頂点に立てば良いだけの話…」
賢が自分で思う最高のポーズを決めていると、チーンとエレベーターが鳴る。蛇腹扉が開くと白いスーツを着て胸に黒いバラを差した。中性的な人物が入ってくる。彼、もしくは彼女が爽やかに笑い会釈する。賢は変なポーズを見られ、顔が真っ赤になる。
「こんばんは。良い夜ですね。こんな夜は異世界に行きたいと思いませんか?」
「えっと…はい…」
賢は正直にこの人が怖いと思う。明らかに不自然な状況に不自然な格好、不自然な質問ときた。恐怖しない方がおかしい。だが、異世界に行きたいのは本当だった。
「うんうん、いいね!君みたいな子が来てくれると楽しくなるよ!」
白スーツの人物の後ろでまた扉が閉まり、また昇って行く。白スーツが背中を見せ蛇腹扉の暗闇の向こう側を見つめる。
「君は異世界で頂点に立ちたいのかい?」
突然の質問に賢は先程の独り言が聞かれていたと分かり、また顔が赤くなる。
「良いじゃないか!恥ずかしがる事はない。野心があるのは良い事だ。異世界と言えばチートスキルだろ?君にも授けるよ!それを使って頑張って君の願いを叶えるんだ!」
白スーツはこちらに顔だけ向け、ウィンクする。賢は口を開く。
「貴方は神様ですか?」
「まさか!神様は何もしない奴の事さ。君が苦しんでいる時に、虫眼鏡で覗き込んで嘲笑って居るような奴が神様だ。僕は違うよ?君の苦しみを感じ、君を迎えに来たんだ!」
白スーツが身体をこちらに向け、地母神の様に手を広げる。顔には亀裂の様な笑みが張り付き、目は虚ろに賢を見つめてくる。賢は再び、恐怖する。このエレベーターに乗ったのは間違いだったのでは無いのかと。すると、チーンと再びエレベーターが鳴る。蛇腹扉が開き、白スーツが降りるようにと手を外に向ける。賢が外に目を向けると、青々と茂る草原が何処までも広がっている。ゆっくりと賢は外へと歩み出す。後ろから「行ってらっしゃい」と声をかけられ、振り返るとそこにはエレベーターは無くなっていた。
外は空が青く、白い雲がゆっくりと流れて行っている。本当にここが異世界なのだろうか?と賢が考えていると真っ赤で大きな物が頭上を飛んで行く。翼をゆっくりと数度羽ばたかせるとそれはもう空の向こうへと行ってしまう。
「ド…ドラゴンっ!!」
今飛んで行ったそれはどう見てもドラゴンだった。漫画やアニメに登場する王道中の王道が自分の真上を飛んで行ったのだ。既に米粒のような赤い点は空の彼方へと消えて行く。
「ふ…ふふふ…ふはははは!やったぞ!遂にやった!私は呪われた世界を脱し、異世界に転移したのだ!」
賢は狂ったように笑っていると、自分の目の前に画面が広がる。これも王道、ステータスやスキルが書いてある。賢が確認するとステータスが全て微妙…唯一知能が少し高いように見えるが身体能力は軒並み低く感じる。それから、スキルだがこう書かれている。
【狂いきれない半端な中二病】
【好きな人を見殺しに自分は生存者】
【半端者には丁度いい世渡り上手】
この3つがスキルらしい。どう見ても悪口だが説明がない。一体どう使えば良いのだろうと押してみたり、唱えて見たりするが何も起こらなかった。だが賢は気が付く膝の血が止まり、傷跡すら残ってない事に、恐らくだがこのスキルのどれかの効果だろう。名前的に2つ目の【好きな人を見殺しに自分は生存者】だと思うが、この名前はクルものがある。後で別の名前を考えようと賢は何処までも広がる草原を方向も分からないまま歩き出す。
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